退屈
退屈の前にはいかなる脅しもごまかしも効かない。ただ凌ぐしかない。我々の行く末がどんなものであれ、それはずっと我々の前を走り続けるのだろう。退屈の外に行こうと、退屈の中でぷかぷかと漂うのではなく、淵で踏みとどまるのだ。退屈の海で1人浮き輪の上で揺られてバカンスを満喫するのも言うほど悪くはないか。でも、まずは足にグッと力を込めて。腹に臓物を蓄えるみたいに。真っ当に受け止める余力がある内に。少なくともそれによって益がもたらされることはないだろう。しかし、それに害される心配もない。暇は私を殺す。「私」を。だから何だって言うんだ。それが何だ。そんなことは分かっているさ。殺された私の死体の山と目が合う。あり得べき全ての私の目と。何の感情も意味も持たない灰色の濁った目。
「なあ……何か言いたいことがあるんだったら言ってくれよ……」
「………………」
目は口ほどに物を言うとはまさにこのことだ。どうするのか。どうなるのか。答えは既に明らかだ。夏至の三日前の太陽ぐらい煌々としている。
暇とは殺された私であり、殺した私なのだ。まだ殺されていない私であり、これから殺す私なのだ。私の私による私のための殺人。罪を贖うのは。罪。罪。罪。どす黒い返り血が服に飛び散る。床を黒々と染めゆく冷たい血こそが退屈の何よりの証だ。
占え。我々の行く末を。コインを親指でピンっと弾く。右手の甲でパシっとキャッチして、左手を上に素早く被せる。さあ。表か裏か。外したら待ち受けているのは「死」だ。まあ当てても……。