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破滅の章  作者: Tomokazu
第一章
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4

 緊急招集により、イチコやトワリを含むクニの主要な役人たちが集められた。

 一同がやって来たのは、王とその一族が暮らす巨大な屋敷である。雅な建物の門を入ると、屋内には長い廊下が伸び、数多の部屋がある。要人たちは通路奥にある広間に通された。二十余名が十分に入れる広さがあり、重要な会議などが行われる際、よく使われる部屋だった。

 各々が壁際に沿って、部屋を取り囲むように座った。ややすると、向かいの扉からシラヌイが入ってきた。一段高くなった区画に座り、要人たちを見下ろす形になる。


「突然の招集、すまなかった。今後のクニの方針にかかわる、重要な話があるのだ。まずは、シラナミより、いきさつについて話してもらおう」


 シラヌイが話を振る。シラナミが立ち上がった。


「事の起こりは先日の前王・前王妃の葬儀と兄君即位の儀のことです。参加されたヒノイリノクニの使者より、わがクニと提携・文化交流を行いたい、という申し出がありました。皆さんご存じの通り、ヒノデノクニは西方の大国で、互いに牽制をし合ってきた間柄です。相手側の要求を我々はどう受け止めるべきなのか、皆さんの意見を含め、方針について考えたいと思います」


 シラナミが話し終えると、手を挙げたものがいた財源部門の長だった。


「具体的にどのような交流をしたいと言ってきたのでしょうか?」


「使者の派遣・滞在、郷土品や特産物の交換、文化技術の伝え合い――先日使者が話していたのはこのようなものでした」


「平たく言えば、『仲良くしましょうよ』というようなことですかな?」


「そうかもしれません」


「それならば、とりあえず相手の要望に応える方向でも構わないのでは? 我々もヒノデノクニの文化や技術を学べる機会になりますし」


 云々。話し合いが展開され、全体に好意的にみる空気が広がった。ヒノデノクニと提携する方針で良いのでは、という風に話が決まりかけたその時――。


「ちょっと待ってくれ」


 手を挙げた者がいた。トワリだった。


「本当にすぐに決めてしまっていいのか? もう少しじっくり考えるべきじゃねえのか」


「トワリ、何か疑わしいと思うところがあるのか」


 シラヌイが問いかけた。


「相手は交流などと綺麗なことを言ってるが、使者を受け入れたり、技術を伝えたりすることは、こちらの手の内をさらすことにもつながる。それは弱みをみせることにもなる」


「弱みとは大げさな――」


 彼の隣にいた文化推進部門の長が首をかしげた。他の要人たちも、口々にトワリに疑問を呈してくる。

「それに、一方的にこちらの技術を教えるのではない。互いに伝え合うと使者も言っているというではないか。そこまで警戒することとは思えないが」


「さては、自分の技術が大したことないとヒノデノクニに思われるのが嫌だ、と思ってるんじゃないだろうな」


「なんだと、もう一度言ってみろ!」


 トワリが声を荒げた。


「まあまあ。そう熱くなるな。お前の能力の高さは、誰もが分かっていることだ」


 シラヌイが彼をなだめた。


「だが、さっきのお前の発言には少々問題があるぞ」


 ここでそう言い放ったのは、トワリの兄・ヒブリだった。彼は今、このクニの軍を統轄する軍事長の役を担っている。


「なんだと兄貴。俺の言うことが間違っているというのか」


「違う。お前の意見そのものをどうこう言っているのではない。自分の論理を押し通そうと、相手を批判したり、喧嘩腰になるのが問題だと言っているのだ。ここは建設的な話し合いをする場で、感情的に喚きたてるところじゃない」


 ヒブリの言葉に、トワリは赤面して立ち上がった。


「兄貴も、どいつもこいつも分からず屋だ。こんな会合、参加してられるか!」


 彼は捨て台詞を吐くと、どかどかと歩いてその場を後にする。引き戸を勢いよく開けそれを、バンと乱暴に閉めた。


「……まったく、あいつは子供の頃から変わらんな」


 ヒブリは呆れたように言った。イチコはただ申し訳なさそうに縮こまるしかなかった。

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