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緊急招集により、イチコやトワリを含むクニの主要な役人たちが集められた。
一同がやって来たのは、王とその一族が暮らす巨大な屋敷である。雅な建物の門を入ると、屋内には長い廊下が伸び、数多の部屋がある。要人たちは通路奥にある広間に通された。二十余名が十分に入れる広さがあり、重要な会議などが行われる際、よく使われる部屋だった。
各々が壁際に沿って、部屋を取り囲むように座った。ややすると、向かいの扉からシラヌイが入ってきた。一段高くなった区画に座り、要人たちを見下ろす形になる。
「突然の招集、すまなかった。今後のクニの方針にかかわる、重要な話があるのだ。まずは、シラナミより、いきさつについて話してもらおう」
シラヌイが話を振る。シラナミが立ち上がった。
「事の起こりは先日の前王・前王妃の葬儀と兄君即位の儀のことです。参加されたヒノイリノクニの使者より、わがクニと提携・文化交流を行いたい、という申し出がありました。皆さんご存じの通り、ヒノデノクニは西方の大国で、互いに牽制をし合ってきた間柄です。相手側の要求を我々はどう受け止めるべきなのか、皆さんの意見を含め、方針について考えたいと思います」
シラナミが話し終えると、手を挙げたものがいた財源部門の長だった。
「具体的にどのような交流をしたいと言ってきたのでしょうか?」
「使者の派遣・滞在、郷土品や特産物の交換、文化技術の伝え合い――先日使者が話していたのはこのようなものでした」
「平たく言えば、『仲良くしましょうよ』というようなことですかな?」
「そうかもしれません」
「それならば、とりあえず相手の要望に応える方向でも構わないのでは? 我々もヒノデノクニの文化や技術を学べる機会になりますし」
云々。話し合いが展開され、全体に好意的にみる空気が広がった。ヒノデノクニと提携する方針で良いのでは、という風に話が決まりかけたその時――。
「ちょっと待ってくれ」
手を挙げた者がいた。トワリだった。
「本当にすぐに決めてしまっていいのか? もう少しじっくり考えるべきじゃねえのか」
「トワリ、何か疑わしいと思うところがあるのか」
シラヌイが問いかけた。
「相手は交流などと綺麗なことを言ってるが、使者を受け入れたり、技術を伝えたりすることは、こちらの手の内をさらすことにもつながる。それは弱みをみせることにもなる」
「弱みとは大げさな――」
彼の隣にいた文化推進部門の長が首をかしげた。他の要人たちも、口々にトワリに疑問を呈してくる。
「それに、一方的にこちらの技術を教えるのではない。互いに伝え合うと使者も言っているというではないか。そこまで警戒することとは思えないが」
「さては、自分の技術が大したことないとヒノデノクニに思われるのが嫌だ、と思ってるんじゃないだろうな」
「なんだと、もう一度言ってみろ!」
トワリが声を荒げた。
「まあまあ。そう熱くなるな。お前の能力の高さは、誰もが分かっていることだ」
シラヌイが彼をなだめた。
「だが、さっきのお前の発言には少々問題があるぞ」
ここでそう言い放ったのは、トワリの兄・ヒブリだった。彼は今、このクニの軍を統轄する軍事長の役を担っている。
「なんだと兄貴。俺の言うことが間違っているというのか」
「違う。お前の意見そのものをどうこう言っているのではない。自分の論理を押し通そうと、相手を批判したり、喧嘩腰になるのが問題だと言っているのだ。ここは建設的な話し合いをする場で、感情的に喚きたてるところじゃない」
ヒブリの言葉に、トワリは赤面して立ち上がった。
「兄貴も、どいつもこいつも分からず屋だ。こんな会合、参加してられるか!」
彼は捨て台詞を吐くと、どかどかと歩いてその場を後にする。引き戸を勢いよく開けそれを、バンと乱暴に閉めた。
「……まったく、あいつは子供の頃から変わらんな」
ヒブリは呆れたように言った。イチコはただ申し訳なさそうに縮こまるしかなかった。