6
やがて、ヒノデノクニの使者たちがやって来た。3人のうち、真ん中にいるのが、使者の総統格の男性。そして、左右に側近らしき若者がついている。彼らは、奥の壇上に座るシラヌイとミノカに対峙する形で座った。イチコは隅の方に控えている。
「私の部下がこのクニの民衆に襲わそうになり、同胞・アリアケが殺害された件――今回のことは、我々としても許されない事態だと受けとめています」
使者は早々に言った。怒りをこめた厳しい口調だった。シラヌイはこう返した。
「その通りだ。わがクニとしても、早急な対応が必要だと思う。まずは、アリアケ殺害の犯人には即刻処刑を命じた。また、暴動に加担しようとした他の農民たちも、厳しい処罰を与えるつもりだ」
「それだけでは、我々は収まりません」
使者はさらに強硬に言った。そもそも、事の発端は、使者側の人間のヒノイリノクニの民衆に嫌がらせを行ったことだ。だが、使者の姿勢には、自分たちのことは棚に上げ、すべての咎をヒノイリノクニの側に押し付けようという意思さえ感じられる。だが、シラヌイは反論せず、ゆっくりと応えた。
「怒りはごもっともだ。どうすれば良いだろうか?」
「我々の要求を飲んでいただけるのなら、この件は不問にいたしましょう」
「要求?」
「要求はふたつあります。一つは、このクニの信仰を邪教と認め、今後はわがヒノデノクニの神を信じていただくこと」
「――なに?」
「此度の事態は、ヒノイリノクニの民衆が自分たちの信じる神こそが崇高だといって、わがヒノデノクニの信仰を冒涜したことが発端だと聞いています」
これもヒノイリノクニの側とは解釈が異なる。シラヌイたちは、ヒノデノクニが一方的に自分たちのクニの神を否定してきたことに、民衆が怒ったと聞いていた。使者はさらに続けた。
「宗教は、クニの繁栄と民の平和のために存在するものです。ですが、民衆を妄信させ、暴動まで起こさせるこのクニの宗教は危険です。そして、それを広め、人々をたぶらかしている人間が、ここにいるイチコという巫女です」
使者はイチコをじろりと睨んだ。
「よって二つ目の要求は、この者の神職の解任し、二度と巫女としての活動はさせないこと」
イチコは目を剥いた。自分がこの場に呼ばれたのは、このためだったのだと分かった。イチコ自身、自分の信じる神や信仰の在り方が、ヒノデノクニの人たちには快く思われていないことは知っていた。だが、まさかそんなことを面と向かって言われるとは――。
「待ってくれ。それはあまりに……」
シラヌイが言った。これまでのクニの信仰を捨て、相手側の宗教に鞍替えする――それは、自分たちのクニがヒノデノクニの属国になるのと同義である。イチコを巫女の立場から外す、というのも筋違いな話だ。
そもそも、彼女はもとからこの地に根付いていた神の教えを、自身の信心や解釈も絡めて人々に伝えているにすぎなかった。人々の信仰心を深めることには貢献しているが、神の存在自体は彼女が創りだしたものではないのだ。
「だが、この要求を認めていただけない限り、我々も許すことはできません」
使者は言い放つ。誰もそれに返答はできず、重い空気が流れた。
そこへ、部屋の外から、ドカドカという物音と、人々の言い争う声が聞こえてきた。何だろう――と一同がその方を見ていると、唐突に部屋の戸が開いた。そこには、タンタカをはじめとした、大勢の都の住人たちが立っていた。




