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港で牛車から船に乗り換えた。
ヒノイリノクニからヒノデノクニに行くには、海を渡らなければならない。以前、双方のクニがなかなか深く交流できなかった要因には、互いの勢力や政治的な背景もありながら、地形的な要因も大きいのだろう。
しかし、ここ数年のうち、ヒノデノクニの使者たちは、度々海を渡り、ヒノイリノクニを訪れてくれるようになった。そして今度は、イチコたちが逆方向に海を渡り、ヒノデノクニに行こうとしている。
イチコは船の淵に手をやって、波の静かに凪ぐ海面を見つめていた。
「あんまり身を乗り出して、海に落ちんなよ」
船壁にもたれかかって座るトワリが、イチコに声をかける。
「大丈夫だよ」
イチコは快活に言った。そこへ、少し大きな波が来て、地面がぐらっと揺れる。
「わっ」
イチコは思わず声をあげて、咄嗟に体勢を整えた。
「ほら、言わんこっちゃない」
というトワリの言葉に、イチコは舌を突き出してみせ、彼の隣に座った。
「それにしても、ヒノデノクニも、こんなすごい船を造ってるんだね」
「大したことねえよ」
トワリは言ったが、口ぶりから強がっていることがみてとれた。彼ら使者の一行を運ぶためにヒノデノクニが用意したのは帆船だった。大きな布を上空に向けて張り巡らせて作った帆に風を受けさせ、それを推進力とする。はるか海の向こうの大陸の技術を引用したものだ。
地元を離れて3日目となる。出発の日、ハナドリはやはり両親がしばらく近くにいないことを悲しんでいたようだったが、重要な任務であることは理解していたのだろう。泣き言をいってふたりを困らせることはなく、ただ目に涙を溜めて、両親の出発を見送っていた。
ハナドリはいまはヒブリの家でお世話になっている。両家は以前より交流が深く、ハナドリもイサミに懐いているので、問題はないだろう。
それより、久々の夫婦ふたりきりである。決して遊びではないことは理解しているし、先日のイサミの話も気になる。だが、トワリとこうしていると、子育てや日々の役目から解放され、少女の頃に戻ったような気がして、イチコは内心うきうきしてしまうのだった。
しばらくの航海ののち、船はやがて、向こうの港へとたどり着いた。またも牛車に乗り換えて、陸の行路となる。4日にわたる長い旅路の果て、一行はヒノデノクニにたどり着いた。




