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破滅の章  作者: Tomokazu
第一章
11/41

8

 ヒノデノクニの視察も終わり、使者一行は自分のクニへと帰っていった。


 またもとの日常が戻ってくる。


 イチコも定例の祈祷の儀を行っていた。もちろん、使者たちのような見学者はおらず、他の巫女たちも辺りに控えてはいない。普段通りの単身での儀式である。この方が落ち着いて、儀式に集中することができた。

 神への想いを胸に、クニの繁栄と人々の幸せを願い、その想いを動きや声に乗せる。いよいよ腹も大きくなってきたので、あまり身体に無理をさせることはできないが、お腹の子の負担にならないように、という一抹の心がけをもちつつも、彼女は最大限できる範囲での祈祷の儀をつづけた。




 その時だった。




 彼女の脳裏に、とある光景が浮かんだ。さまざまな場面が断続的に流れてゆく。これまでの祈祷の際にも、稀に起こることだった。そして、これから起こる未来を如実に反映していることもあった。


 彼女はかっと目を見開いて、驚愕の表情を浮かべた。なぜなら、いま彼女に見えた場面。そのすべてが、知人・友人など彼女の大切な人にまつわるものだったからである。そして、彼ら彼女らは全員、苦しみや悲しみの表情を浮かべていた。




 ――ミノカが泣き叫んでいる。


 ――シラヌイが悔しさを堪えた表情でたたずんでいる。


 ――シラナミが悲しみに崩れ落ちている。


 ――ヒブリが最期を覚悟したような表情を浮かべている。


 ――イサミが希望を失った顔でたたずんでいる。


 そして。


 ――トワリが怒りの形相で何かを叫んでいる。


 最後に見えたのは、すべてを焼き尽くすように燃え盛る炎だった。




 これは、未来の暗示なの――?


 祈祷の際に見えるこのような場面は、飽くまでも彼女の想像の産物だったこともある。だが、未来に起こる現実であったことが多いのも、また事実だった。


(デタラメであるといいけど……)


 イチコはそう願わずにはいられなかった。ここまで衝撃的な場面が見えたのは、これまでにたった一度きりだった。幼いころ、故郷のムラで暮らしていた時、彼女はムラが崩壊する描写が脳裏に浮かんだ。結果、本当にムラは滅びてしまい、彼女は故郷と大勢の同胞を同時に失った――。


 そんな悲しい出来事には、もう遭遇したくない。


(神様、これはあなたが見せた未来じゃないですよね。ただの私の妄想ですよね……?)


 イチコは神前ですがるように思った。しかし、神からは何の返答もなかった。

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