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第64話

 私はあまり表に感情を出さないし、嘘もあまりつけない性格をしている。


 私の中では感情を出しているつもりだけど外から見たら感情があまり出ていないらしい。


 感情が表に出ない方がデメリットが多い。


 バレーの試合に勝っても負けても喜んでいるのか、悔しがっているのか分からないから少しだけ浮いてしまう。


 嘘がつけなかったら誰も相談してくれないし、お世辞も言えないし、先輩に平気でダメ出しするし、良いことがない。


 嘘をつくことが良いことだとは思わないけど、限度がある。


 だけど唯一私が感情を出して、思ってもないことを言ってしまう相手がいる。


「おい、聞いているのか」


「聞いてるよ」


 この男、宇野章大である。


 出会った時からずっと変で、訳わからなくて、自分勝手で、簡単な性格で、挑発に弱くて、ちょっとだけ頼りになる。


「じゃあさっき余が言ったことは何だよ」


「聞いてたけど言わない」


「聞いてないから言えないんだろう」


「ちゃんと聞いてました」


 ごめん、全く聞いてなかった。


 今宇野にサーブのフォームを教えてもらっていたけど、ちょっとぼーっとして聞いてなかった。


 先輩たちがずーっと私と宇野の関係を聞いてきて、ずーっといじってくる。


「聞いてないから余は怒っているのだ」


 今回にしては私が悪い。


「ごめん、そこの二人」


 顧問の先生に私と宇野が呼ばれた。


「飲み物がなくなったから買い出しに行ってくれない?」


「私一人で行きます」


 宇野と二人きりだとまた先輩にいじられちゃう。


「"二人で"行ってきてね」


「はい」


 やっぱり顧問の先生には逆らえない。


 ***


 暑い。


 外だから風は気持ちいいけど陽が直接当たるから肌が痛い。


 買い出しも終わって、今は帰る途中にいる。


 2リットルの飲み物を両手で持っているから腕が引きちぎれるくらい痛い。


「おい、持ってやる」


 宇野が手を差し出してきた。


 宇野も飲み物を持っているのに私のも持つと言っている。


「大丈夫、持てるから」


「お前の意見は聞いていない。さっさと貸せ」


 宇野は私が持っていた飲み物が入っている袋を無理やり奪った。


 本当に自分勝手なんだから。


「ありがとう」


「お、おう」


 隣には宇野がいるけど何で急にバレー部のコーチになろうとしたのか全く分からない。


「何で急にコーチになるって言い出したの?っていない」


 隣にいると思っていた宇野がいなくなっていた。


 後ろを見ると宇野がお店の看板を見て見て立ち止まっている。


「何見てるの?」


 宇野の隣に行って何を見ていたのか確かめる。


 看板には期間限定パフェと書かれていた。


「いや、ダメだよ」


「…………」


 宇野は甘いものが好きだからこのパフェを食べたがっているのだろう。


 だけど今は買い出しの途中だからもちろん食べてはいけない。


「帰るよ」


「…………」


 宇野は一歩も動く気配を見せない。


 どうしよう、宇野のことだから絶対に動かないじゃん、宇野って妥協とか知らなそうだし。


「ダメだよ、帰るよ」


「……もう余は決めたから」


 そう言って宇野は店の中に入っていった。


 どうしよう、私だけが帰るのもおかしいよね。


 そして私もお店の中に入っていった。


 その後もちろん顧問の先生に二人で怒られました。


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