第30話
練習が終わり、宇野との待ち合わせ場所の校門へと急ぐ。
バレーボールシューズから校内で履くスリッパに履き替える。
スリッパを履き替えるために下駄箱で下靴に履き替えるのだが、私の下駄箱の中に下靴とは別に謎の紙が入っていた。
開けてみると
"私はお前をずっと見ているぞ"
と、赤色のペンで書かれていた。
「なにこれ。酷い」
きっとストーカーの仕業だ。
今までは視線を感じていただけなのに行動に移してきた。
なんかここにいるのも嫌だから急いで宇野のところへと向かう。
この一人でいる時間も誰かが自分を見ているようで嫌な感じがするから紛らわすために全力で走る。
校門に近づくと宇野がもたれかかって待っていた。
「はぁはぁ、ごめん…待った?」
「い、いや、余も今来たところだ」
私は膝に手を置き、激しく肩で息をした。
私のそんな姿を見て宇野はちょっと引いていた。
失礼だけど、あの宇野に引かれるってそうとうな事だと思う。
「少し休むか?」
私が疲れているのを見て宇野が休憩の提案をする。
だが、私はバレーで鍛えられているからこんなのはへっちゃらだ。
「大丈夫。歩いて呼吸を整えるから」
「そ、そうか」
「行こ」
「ああ」
そして私と宇野は横に並んで校門を出た。
***
どうしよう。
話すことがない。
莉緒とは仲が良いんだけど、私と宇野の関わりはボランティアの時くらいだからかなり気まずい。
宇野はそうでもなさそうだけど。
「ほんとごめんね、帰りに付き合ってもらって」
「気にするな」
「でも、きつくない?家どこなの?」
「向こうだ」
宇野は私の家の方向とは180度違うところにゆびを指す。
「え、あっちなの?」
私の家の方向と逆じゃん。
「そうだが」
「大丈夫なの?私の家と逆方向だけど」
「大丈夫だ」
宇野は淡々と答える。
「無理してない?本当に大丈夫なの?私のことは大丈夫だよ」
嘘だ、本当のことを言うとめちゃくちゃ怖い、宇野がいるから安心して帰れてる。
「お前のことを心配なんかしていない、余はチョコケーキのためにお前と帰っているだけだ」
そうだった、宇野はチョコケーキのために頑張ってたんだった。
でも、すごく安心した。
「そうだったね、ありがとう」
「あ、ありがとうって言うな」
宇野は顔を赤くして私に顔を見られないようにする。
なんでありがとうって言って欲しくないんだろう?
「なんでありがとうって言って欲しくないの?」
「余には必要ない言葉だからだ」
?
私にはまだ宇野のことが分からない。
「宇野ってなんで自分のこと余って言ってるの?」
「それは余が王であり、いずれ王になるからだ」
宇野はなに言ってるんだろう?
これが厨二病ってやつなのかな?
「余って言ってること親はなんて言ってるの?」
自分の子供が余って言っていたらさすがに止めるだろう。
「余に親はいない」
「え」
やらかした、もっと慎重に聞くべきだった。
他人の家族事情は慎重に判断して聞かないといけないのに、私は軽率だった。
「ごめん。そういうつもりじゃ」
「別に気にしてない。元々いなかったからな」
元々ってことは離婚ではないってことかな。
え、でもそれだったら生まれてきてから親無しで生きてきたってこと?
宇野って何者なの?




