その後3
「とりあえず家に入って。ここだと色々目立っちゃうから」
「う、うん」
え、家入るのかよ…。
てっきり余はもうここで解散みたいな流れだと思っていたのだがな。
まさか家の中にまで入っていくのかよ。
どうしよう、また変な流れができてここに住まない?みたいな提案をされてしまったら。
余は環境が変わると寝るのが難しくなってくる。
意外と余はそういうところは敏感だからな。
「ごめんね、ちょっと散らかってるから」
「気にしてない…です」
まぁそこまで散らかってないからちゃんとした生活はしていたようだな。
あと、余はなぜ最後に変な敬語を付け足してしまうのだろうか?王なのに。
「ここに座って」
座布団を敷いたから余はそこに座った。
「ごめんね、なんか用意すれば良かったのに何にも無くて」
「全然気にしてない…です」
大丈夫か?今のこんな余を見られたら皆に笑われてしまうぞ。
余の母親は余の対面に座る。
対面に座らないでくれよ、だからと言って隣に座られても困るがな。
「ごめんね、もうちょっと近くで顔を見せて」
そう言って余の母親は余の顔を両手で押さえて余の顔をじっくりと見る。
何だこの状況はこんなの犬にしかしないと思っていたのだが、まさか余がされる日が来るとはな。
「あなたはルーロ似ね」
やはりな、初めて余の父親を見た時は余が大人になったらこうなるのだろうなと思ったくらいだからな。
「あ!でも、目の近くにあるホクロは私似なのかも!ホクロって遺伝するのかな?」
「あの、もうそろそろ」
「あ!ごめんね。ベタベタ触っちゃって」
「別に」
やはりお互いが気を遣っているから変な空気が流れてしまっている。
「あのね、もう会えないと思ってたの」
まぁ、そうだよな。
「何年も探したの、もしかしたら私とルーロの息子が生きてるんじゃないかって。でも、手がかりが無かった」
余と余の母親が住んでいるところはかなり遠い場所だから仕方ない。
まさかの距離だからそんな所にいるとは思わないだろう。
「再婚も考えてみたんだけど、やっぱりダメだった」
そうだよな、普通はあんな意味の分からない父親や生きているか分からない息子なんか放っておいて再婚も考えてみるよな。
「改めて生きててくれてありがとう」
だから生きてるだけでそんな大袈裟にお礼を言われてもなぁ。
余が生きているのは当然の事だ、余は誰よりも強くてカリスマしかなく、いずれ王になる器なのだからな。
だがまぁ、
「正直生きてきて何度も死のうとした時もあったが、余が今まで生きてこれたのは余の力じゃなくて周りの奴らに恵まれたからなんだ」
小中学校は酷かったからな。
だが、余の父親が飛び降りを止めたり、バイト先に恵まれたり、つまらないはずだった学校生活を巻き込まれる形で退屈しなかったりしてなんだかんだでそこそこ楽しく生きている。
それは余の力だけでは何とも出来ない事だから本当に恵まれている。
「そうなんだ」
余の言葉に母親は安堵したようだ。
「それより余?って何?」
あ。
「もしかして厨二びょ」
「違う!これは友達とちょっとゲームして負けたら一人称を余にするってなったからであって、普段は僕って言ってるよ」
「もしかしていじめられているの?!」
「そういう事じゃ無くて、本当に友達との遊びでこうなっただけだから」
「やっぱり親がいない事が原因でイジメが起こるって言うから!」
「大丈夫!そんな事あいつらがする訳ないから!」
「今から担任の先生と話に行かないと!」
「大丈夫だから!全然普段は僕だから!」




