王太子から理不尽な婚約破棄された侯爵令嬢は隣国の外交官(公爵令息)と結ばれ実家ごと隣国に保護される
「ミリー・フォン・ボルテシア、貴様との婚約を破棄させてもらう」
は?
それが最初の感想でしたわ。
私はミリー・フォン・ボルテシアです。ボルテシア侯爵家の長女でバルテシア王国王太子であるポール・フォン・バルテシア殿下の婚約者……でした。
上級貴族の令嬢と王太子の婚約、それも国王陛下が望み調整された政略結婚の婚約を破棄するとはどうお考えなのでしょうか?あまりにも理解が及びません。
しかもこの場は大広間で行われている建国祭の夜会、諸外国の使節も招待して開催してる大規模社交界、仮にも婚約破棄するにしてもこんな場でやる馬鹿がどこに……いや、ここにいたわ……嘆かわしいクズが……。
そして何を言い出すのかと思いきや……
「貴様は王家を侮辱した。先月の送り付けてきたアレは何だ?あんな臭いモノを送りつけてくるとは舐めてるのか?」
あぁ、アレでしたか。愚物は愚物と思っておりましたが本当に愚物でしたわ……。
私が贈ったのは芳香鉱、他の香りと組み合わせて使う香り付けの鉱石でしたわね。まさか王族、それも次期国王たる王太子ともあろう者が見抜けなかったとは……嘆かわしいですわ……。
「舐めてる?……フフフ、貴方が無能を晒したのではなくて?アレすら何か見抜けぬとは嘆かわしいにも程がありますわ」
「ほう、不敬罪で始末されたいらしいな」
「お待ちくだされ!王太子殿下、お言葉のお取下げを」
国王陛下の側近が諌めようとしていらっしゃいます。しかし場は一気に混沌と化してしまいました。
私の非を指摘する者、逆に王太子の無作法を問題視する者、贈り物が何かを気にする者、私を憐れむ者、あまりの茶番に帰ろうとする者、もはやめちゃくちゃですわ……。
しかも場を収められるであろう肝心の国王陛下は今は病の為に欠席されておられます。
お父様もお母様も領地で発生した超大規模盗賊団の対処の為に領地に戻ってらっしゃいます。正に孤立無援です。
これは流石に堪えます。強がってはいますが堪えます。
これまで私は王太子妃、そして王妃になるべく教養を養ってきました。御作法、外国語、法律、本当に辛い日々でした。それも後の幸せと実家の栄光の為、そう思って頑張ってきました。
なのにあの人は……
そしてあの人の隣にいる一人の女、あの人と一緒に遊び呆けてるあの泥棒猫は何を吹き込んでくれたのでしょうか?
「この俺は此処にいるラシーヌ・フォン・テーブルと婚約することを発表する」
あぁ、あの泥棒猫がやりたい放題して気に食わなくなった私は捨てられたのですね……。腹立たしいと言えば腹立たしいですし悲しい限りですが踏ん切りはつきました。それにあの泥棒猫、一応伯爵令嬢ですが、実家の評判は悪く格も低い家柄な上にお馬鹿さんなことで有名なのですよねぇ。国が傾きそうですわ。
「そうですか?お好きになさって?その無能な泥棒猫と共に滅ぶのを心待ちにしております。
「き、貴様っ!」
売り言葉に買い言葉、もう逃げるつもりはありません。
しかし一発触発なこの状況でも声を上げる者はいました。
「正気の沙汰とは思えませんな、その穢らわしい女では王妃など務まりますまい。要らないのであればミリー嬢はいただいても問題ありませんな」
「なっ!?ラシーヌを馬鹿にするなど……。だがミリーと言う反逆者を回収してくれるなら構わぬ」
なんと声を上げてくださったのは隣国グレイシア王国の使節としてお越しになられた麗しい外交官の方でした。確か彼はフラジミア公爵の三男のバルカイロス様でしたわね。公爵令息なら強気なのも頷けますわ。
それにもう私は王太子から婚約破棄された傷物であり国外追放を言い渡されたようなもの。私を庇ってくださる彼についていくのも良いのかもしれません。
「ミリー嬢、私と共に来てくださいませんか?」
ここでプロポーズを堂々としてきましたわ。ならば私も少し強引に動いてみましょう。
「えぇ、参りましょう。バルカイロス様、エスコートをお願いできますか?」
周囲がドン引きしてるわね。まさか王太子をこうもアッサリ捨てるなんて思わなかったらしい。
でも私にとってあの下衆男に価値は無いのですわ。
「お任せください」
そのまま私はバルカイロス様のエスコートで大広間を出ました。
「エスコートありがとうございます。しかし良かったのでしょうか?貴方は使節としてここに来ていらっしゃるはずです」
「構いません、下らない茶番を見せつけたきた愚かな王太子への抗議として立ち去る予定でしたからね。領地にいらっしゃる貴女の御両親への挨拶も早い方が良いですし」
なんと言う決断力でしょう。うん、この決断力、私の婿に丁度良いですわ。
「一度、侯爵邸に向かいましょう。貴女の荷物をまとめてください。明日には王都を離脱します」
「この後バルカイロス様はどうされるおつもりですか?」
「貴女を侯爵邸に送った後、私は迎賓館に向かうつもりです。すぐに退去の準備を進めます」
「分かりましたわ」
私が帰ると侯爵邸は騒がしくなりました。侯爵家の家臣たちは皆激怒してらっしゃいます。
無論ここを立ち去ることに異論はなく侯爵家の王都完全撤退が決まりました。そして私を含めて総出で徹夜です。
侯爵家はグレイシア王国との国境にある領地である為、万が一に備えて侯爵家一門も家臣も武芸の心得があり、体も頭も最低限鍛えてます。持ち帰るもの、放棄するものを次々仕分け片付けていきます。
これは退却戦です!
翌朝、何とか撤収準備が完了すると迎賓館に滞在するグレイシア王国の使節に伝令を走らせ何時でも撤収可能であることを伝えました。
そして間もなく、伝令を連れてグレイシア王国の使節が侯爵家にやってきました。
「まさか、侯爵家が完全撤退を行うとは……よろしいのですか?」
「構いません、バルテシア王国は当家を侮辱しました。もうここに誰も未練はございません。お父様も事情を聞けば納得されると思いますわ」
「わ、分かりました……(この一族を敵に回さんで良かった)」
合流した私たちはすぐに侯爵領に向けて出発しました。
王都から侯爵領までは5日ほどかかります。この5日間、私はバルカイロス様と一緒に馬車に乗り距離を近づけることに努めました。流石に途中で泊まる宿では別の部屋にしましたが……。
因みに他の貴族の領地を通る際は本人もしくは代理人に挨拶するのがマナーですが、急ぐ旅を理由に行いませんでした。今回の王都撤退を急ぎと認めて良いのかは分かりません、限りなく怪しいですけどね。
領都まで戻るとお母様が驚いてらっしゃいました。まさか家の代表として建国祭に出席させていた娘が領地に来ている事自体が異常ですからね。
説明はバルカイロス様がしてくださいました。
「ボルテシア公爵夫人とお見受けします。私はグレイシア王国の使節長を務めております主任外交官のバルカイロス・フォン・フラジミアと申します。今回の王都での騒動をお伝えしたいのですがよろしいでしょうか?」
「えぇ、構いません。何故外交官である貴方が娘と一緒にこちらに来てるのかも合わせて説明していただきたいですわ」
「分かりました、まず王都での騒動を簡潔に纏めますと、王太子殿下の愚かな独断により婚約が破棄されました」
とんでもないことになったことを悟りお母様の表情が固まりました。あまりにも露骨に顔に出ておられます。貴族夫人としては相応しくないほどに……。
「続いて私がここにいる理由ですが、ミリー様を庇ってプロポーズしました。ミリー様も私と共に歩まれる御意向を示しております」
お母様は少し沈黙された後、口を開きました。
「えぇ、貴方ならば娘と共に歩めそうですわね。分かりました、旦那にも話をしてみます。少し時間をいただきますので本日は客間に泊まっていただきたいのですが……」
「分かりました」
どうやらお母様も反対はされないようです。
私は一息つきました。これで何とかなりそう、と思っていましたがそうもいかないようでした。
「本当であればミリーにはここに残って欲しかったのですが……」
「お母様?」
「昨日、ジルが暗殺されました」
「は?それは一体……?」
「え?ジ、ジルが……」
え?弟のジルが暗殺された?
つまり私が侯爵家唯一の子供、則ち唯一の後継者になっていたようです。
「下手人は捕まっております。王太子殿下の差し金でした。当家を潰しテーブル伯爵家の領地とするためだそうです」
「アイツッ!?」
許せません、あまりにも暴虐すぎます。
つまり例の盗賊団の正体も……
「盗賊団の正体も王太子殿下が手配した連中であることが判っています。決定的な証拠を押さえることに成功したのでどうしようかと考えていたところなのです」
これにはバルカイロス様も唖然とされておられます。そして……
「侯爵夫人、侯爵閣下にグレイシア王国への鞍替えを提案してみてはどうでしょうか?流石に目に余ります。ここまでが酷いと他国に寝返っても批判される筋合いはありません」
「えぇ、流石に愛想が尽きました。王都に抗議の使者を送り出すつもりでいましたが貴国に所属替えを検討すべきだと思います」
なんと母はバルテシア王国を見限るつもりのようです。今夜は紛糾しそうです。
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その夜、侯爵家では会議が行われました。
王都での事件を知ったお父様はあのクズ王太子の首を取りに行きそうな程に激怒してました。
結局お父様の判断でグレイシア王国への帰属要請、フラジミア公爵家との縁談を進めることになりました。嫁に行くのではなく婿をもらうことになったようです。
バルカイロス様は一度帰国して、当家の状況を本国に伝え、実家の婚姻許可を取り付けることになりました。フラジミア公爵も隣国から鞍替えする侯爵家に影響力を持てるので反対はしないと思います。
とは言え、やはり目下最大の問題は大規模盗賊団に扮した王太子の派遣した部隊でしょう。中身が国軍であれ傭兵であれ本当に盗賊であれ変わりません。数百人規模の盗賊団が複数闊歩してる現状は流石に危険すぎる。
侯爵家の単独最大動員兵力は約6000、この数の大規模盗賊団に対処するには余裕はない。できればグレイシア王国からの援軍も欲しいわね。国軍は流石に厳しくとも周辺貴族の援護依頼くらいは期待したい。
翌日、グレイシア王国の使節は急ぎ帰っていった。残された私たちがやるべきことは決まっている、援軍が来るまで領地を守り切るだけね!
武闘派の家門なので私だって戦闘訓練は受けてるし戦える。でもこんな荒事は久しぶり、だけど弱音は吐いていられない。
私は使節を見送った後、すぐに鎧を纏い前線に赴いた。
私だって侯爵家の一員、侯爵領の領民を守る義務がある。
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戦いに身を置く日々が12日間続きました。盗賊団はしぶとく逃げ回るので捕捉するのが大変でした。
それでも侯爵家の軍勢は犠牲を出しながらも地道に、そして確実に盗賊団を弱らせています。しかしここで思わぬ事態が発生しました。
なんと王太子自ら反逆者討伐を大義名分として出陣してきました。標的はうちです。まず間違いなく侯爵家が討伐対象だと考えられます。そしてその兵力は約10000、完全にピンチです。
侯爵家では緊急の軍議が開かれました。
敵軍には足止めが必要、それもそれなりの数を当てないと話にならない。しかし足元の盗賊団も放置はできない。
最悪
私の頭の中にはこの言葉しか思いつきませんでした。
軍議の進展が止まったその時、奇跡が起こりました。
「伝令です!グレイシア王国軍先遣隊、明後日には現着予定です!総大将は王太子代行であるアリシア殿下です!」
待ちに待った援軍、それも王族の率いる軍勢です。場の空気は一変しました。
でも私は不安で仕方がありませんでした。
王太子妃候補として他国の王族の情報は色々と知っていました。当然アリシア殿下のことも……。
アリシア殿下はまだ9歳、10歳にも満たない幼い少女です。そんな子供が軍の指揮なんてできるとは思いません。当然前線での戦闘もできないと思います。それに社交界はほぼ参加せず、色々と悪評の多い王女と聞きます。
ただ、彼女が王太子代行になってから凄まじい勢いで改革が進んでることも掴んでいます。実務能力は高いのでしょう。正直よくわからないのが実情です。
この場で水を指すわけにもいかないので指摘はできないのが辛いですわ……。
結局この軍議で領都防衛と盗賊退治にそれぞれ1000の兵力を割き、残りを王太子率いる軍を相手取った防衛戦に当てることになりました。
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翌々日、私は領都でグレイシア王国の先遣隊を待ちました。盗賊退治の部隊の指揮は副官に任せてます。流石に敵の大軍勢と相対するお父様も出れないですし、お母様も後方支援で動いてらっしゃる。
でも一族の者がいないのはマズイですので私はこちらに来ておりました。
領都の城門側の監視塔より外を見ていたところ援軍が見えてきました。
私はすぐに監視塔を駆け下り歓迎の備えをとります。
そして間もなく、アリシア殿下率いる援軍の先遣隊が到着しました。
「ボルテシア侯爵家の皆様、お待たせしました。私が来たからには負けさせはしません。不埒者を蹴散らして差し上げましょう」
ニッコリ笑って声をかけてきたのは総大将のアリシア殿下その人でした。
見た目は可愛いですが……やはり何故貴女が出張ってるのかが疑問で仕方がないです。
でも疑問は今は伏せておきましょう。それよりも現状の認識合わせが大切です。挨拶と一緒にしてしまいましょう。
「王女殿下の御来訪をお待ちしておりました。非常に申し上げにくいのですが、現状我が方が劣勢です。敵は大規模盗賊団を別働隊として運用し、後方を引っ掻き回した上で王太子率いる本隊が強攻を仕掛けてきております」
「状況は分かったわ。それにしても王太子率いる本隊、情報になかったわね。いつ頃発覚しどれくらいの規模なのかしら?」
「一昨日約一万の軍勢が現れたと報告があり、偵察したところ王太子が総大将であることが分かりました」
流石に一万追加は想定外だったのでしょう。グレイシア王国軍からは動揺が見て取れます。
軍の高官と思わしき人が諌めに入りましたね。
「殿下、流石に一万の敵軍は見過ごせません。次期国王として期待される貴女を失うわけには行きませんので貴女だけでも退却を」
「お黙りなさい!今ここで引けばクズの思うがままよ!それに手口は幾らでもあるわ」
え?勝てると判断なされてるの?ちょっとこの王女、頭大丈夫なのでしょうか?幾ら敵対してるとは言え王太子をクズ呼ばわり……。肝が太すぎます。
「昼過ぎには前線を見に行く、場合によってはその場で一戦なるから覚悟しておけ!」
冷や汗が止まりません。本当にやるつもりなのでしょうか?
「あの、よろしいでしょうか?」
「うん?」
「いきなり貴女が前線にお出でになられて大丈夫なのでしょうか?」
「問題ないわよ。寧ろ安易な強攻はできなくなるでしょうね。逆に強攻してきても焦った軍勢を調理するのは難しくないわ」
自信過剰な気がします。これはついて行ったほうが良さそうですね。諌める人が必要です。
「あの腰抜けを呼んできなさい」
「ハッ!」
腰抜けと呼ばれた誰かを呼びに兵士が一人走っていきました……。腰抜けって誰?
「こ、腰抜け?」
「バルカイロスよ、文官で荒事に耐性ないらしいわね。男として情けなさすぎると思ったから尻を叩いて引き摺ってきたわ。まぁ前線は無理でも後方の戦時行政くらいならやれるでしょ」
この子、見た目と言ってることのギャップが凄すぎます。
そして出てきたバルカイロス様は青ざめていました。未来の夫よ、同情するわ……。
「アンタには後方の戦時行政を任せるわ。婿入りの許可取ってきたんでしょ?婿入りしたいだけの能力を見せてきなさい!」
「は……はい……」
諸々の諸事が終わった所で昼休憩を挟み、私たちは前線へと赴くことになりました。
私たちが前線に着くと敵が下がっていきます。アリシア殿下の読み通りグレイシア王国軍を恐れているようです。
「今のところは殿下の予想通り敵は動いてるようですが油断はできません。寧ろあの王太子のことですのでグレイシア王国参戦を反逆者討伐と外敵排除の大義名分にしてくるはずです」
「つまり後退したのは現場の判断でしか無いということかしら?」
「その通りです」
「マトモな判断は期待できないわね……そうなると次は攻勢は大規模なものになるわ。でもそれは私の思う壺よ」
どうやら先の展開まで読めてるらしいです。と言うか殿下はウキウキされてるように見えます。まさか本当に戦場で刃を振るうおつもりなのでしょうか?敵に潰されそうで怖いのですけど……。
その夕暮れのこと、敵陣に動きがありました。
またしても殿下の予想が的中、敵全軍が押し寄せてくるではありませんか!
「ミリー!お前は王女殿下を連れて逃げろ!流石に止めきれん!」
お父様からの命令でした。私はすぐに殿下を退避させるべく殿下のものに急ぎました。
「ミリーかしら、これから戦場の常識を変えてみせるわ」
な、何を言うのですか!
「お、お待ちください!御身が危うく存じます!すぐにお下がりを」
「既に大魔法の準備は済んでるわ。私はそこらの魔道士や戦士と一緒にしないでちょうだい」
は?何を仰って……
「さぁ、派手に行くわよ!」
背中にゾクリとする感覚がした私は仰け反りました。殿下が凄まじい魔力を操作しているのが分かります。このレベルの魔法を使える魔道士は研究者肌の者が多く戦場に出てくることはほぼありません。まさかコレを狙って……戦場の常識が通用しない戦場……確かに勝ち目になり得ます。
殿下から放たれた複数の魔法は敵陣にそれぞれ着弾、恐るべき規模の爆発を引き起こし敵を恐慌状態に陥らせました。
「私に続けー!」
「ちょっ!殿下!」
敵が恐慌状態に陥ったと見るや身の丈に近い奇妙な形の大剣片手に突撃を開始してしまいました。身体強化まで使えるのですか……。
こうなったらもうやるしかありません。私も後に続いて突撃しました。
そして恐るべきモノを見ました。なんと殿下は突撃しながら大魔法をばら撒いています。至る所で爆発の手が上がり敵の姿が見えなくなってしまいました。
「姿が見えない今がチャンスよ!盛大に斬り込みなさい!」
突撃してわかりました。爆炎で敵が怯えています。冷静な私たちが有利と言うわけです。これは武門の侯爵家の令嬢として少し悔しいですわね。
箱入り娘であるはずの幼い王女殿下に負けたわけですから……。
戦況は圧倒的優勢、王女殿下の策のお蔭でなんと一晩で敵は壊滅状態に陥りました。とんでもない逆転劇です。
そして朝が来ました。戦場特有の高揚感で夜を乗り切ってしまいました。
今、私たちは敵の本陣にまで辿り着きました。
「おのれ!グレイシア王国め!我が国の領土に攻め込んでくるとは!」
「あー、貴女がミリーの言ってたクズ野郎ね。既にボルテシア侯爵家はグレイシア王国貴族よ。国土を護る大義名分はこちらにあるわ」
「バルテシア王国王太子ポール・フォン・バルテシアと知っての態度か!ここは反逆者に占拠されたテーブル伯爵家の領地であるぞ!」
「弱い奴ほど吠えるとはよく言ったものね。我が名はアリシア・フォン・グレイシア、グレイシア王国随一の将なり!」
この度胸、本当に心臓に悪いです。
しかし将とはどういうことでしょうか?
「小娘がぁぁぁ!調子に乗るなぁ!」
「フンッ!ザコは寝そべっていろ!」
「ぐへっ……」
あ、呆気なくあの王太子が転がされました。彼もそこそこの実力はあるんですけどね……。話にすらならないようです。
「貴様ごとき、私が出るまでもない」
「なにィ!」
「ミリー、貴女がやりなさい。こんなのに負けるほど弱くはないでしょ?」
……………………え?私ですか?
「今までの恨み辛いをぶつけてやりなさい。貴女の実力は見ていたわ。貴族にしては強いわね。アレでは貴女には勝てないはずよ」
なんと丸投げされてしまいました。やるしかありません。
「わ、分かりましたわ」
私は奴の前に出ました。コイツの顔を見ただけで怒りが湧いてきます。
「お久しぶりですね?無様なポール殿下」
「なっ!ミリー!貴様まで俺を愚弄するというのか!」
「私を今まで散々愚弄してきたのは貴方でしたわね。覚悟しなさい!私とて武門のボルテシア侯爵家の一員、お前ごときには負けませんわ」
「き、貴様ぁぁぁぁぁ!」
単調な攻撃ですね。剣筋はブレブレ、力任せに得物を振るうだけのようです。こんな捌きやすい剣はありませんわ。怒りに任せると攻撃がおかしくなるとは本当だったんですね。
長々打ち続けるつもりはないのでサッサと終わらせてしまいましょう。
私は奴の刃を逸らしてそのまま顔を突きこみました。この一撃で奴を絶命させることに成功しました。
「見事なものよ、私が見込んだだけはあるわね」
「お褒めいただきありがとうございます。敵の首魁は討ち取られましたので戻りますわよ」
「えぇ、そうですわね。私も疲れてきましたわ。そのまま引くのも味気ないのであのクズ野郎の亡骸を掲げて凱旋するわよ」
殿下の案は非常に効果的でした。長槍数本で総大将の亡骸を支えて掲げたその光景は敵の士気を崩壊させるのには十分すぎる威力がありました。
士気が崩壊し瓦解した部隊を蹴散らすのは簡単です。お父様が一気に敵を片付け完全勝利で戦争は終わりました。
陣地に戻るなりお父様からは殿下共々雷を落とされてしまいました。仕方がありません。
因みに雷を落とされるきっかけを作った殿下は不服そうな顔をしておられました。後で話を聞いたところ、軍部での実績が凄いことになっていました。道理で自信満々だったわけです。
戦争が終わると戦後処理が待っています。特に今回は大規模盗賊団が暴れまわってるのでかなり面倒なはずでした。
しかし思わぬ形で解決しました。
「恐らくこの辺りに統率者が潜んでいるのだろうな。地形的に怪しい」
バルカイロス様はそう仰せになるのです。はてどういうことでしょう?
試しに攻め込んでみると本当に複数の盗賊団を纏めていた騎士を発見することに成功しました。グレイシア王国軍はそのまま拷問をして盗賊団全ての情報を確保することに成功すると、瞬く間に盗賊団を壊滅させることができました。
更にバルカイロス様は物資の手配、戦渦を受けた地域の復興計画立案、国境防御施設の構築準備など、非常に精力的且つ効果的に動かれておられました。文官としては異常な程優秀な御方でした。
そんな取り急ぎの戦後処理も一月ほどで終わりました。王国軍はなんと1年間の駐留を認めてくださいました。これで一安心です。そして一段落付いたところで正式に当家の併合を確立させる為に私は殿下とバルカイロス様と共に王都に向かうことなりました。目的は結婚式と併合に関しての各種式典への出席の為です。
結婚式はフラジミア公爵家が責任持って執り行ってくださることになりました。お父様とお母様は今回の処理でまだ領地を離れられない状態にありますが挙式を強行することになりました。
各種式典も私は侯爵家の代表として、侯爵当主であるお父様の代理として出席することになります。
ーーーーーーーーーー
グレイシア王国王都への旅は非常に良いものでした。王都は下から上まで大歓迎の様子でした。本当に地獄の戦争を戦い抜いた甲斐があったものです。
領地に帰ってきて
「ミリー、私はお前と結婚できて幸せだ」
「私もよ。貴方の出会いがあったからこそ今の私がいるのですから」
そして私たちは仲睦まじく死が訪れるその時まで共に幸せに過ごしました。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。よろしければ評価等お願いします!
全く経験もなければ知識もない恋愛小説にチャレンジということで複数の作品を読み勉強させていただきました。まぁそれでも不十分だったかもしれませんが……。
それはさておき本作は私が連載している『理を越える剣姫(小説コード:N9435IW)』のサイドストーリー的な位置づけで書いたものになります。時系列的には第一章40話(EP41)と41話(EP42)の間に入ります。
本作のみならず『理を越える剣姫』も読んでいただけると幸いです。