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【フェーズ7】demolition

 日が霊峰ヴァルカンへと沈みはじめたのを確認しキプロが東門に目をやる。

 どういう風の吹き回しかはわからないが、激昂したユリウス率いる本体が東門へ攻撃を始めた。

これについてキプロ自身は如何せん腑に落ちない部分はあるが、エスカノールとかいう人類の中では最強とうたわれた魔法使いの弔い合戦だと気合を入れているらしい。

 しかし、キプロにとっては好都合だ。

 そもそも魔にはランクがある、下から魔導が第1位魔導から第10位魔導までの10段階、次に魔術同様に10段階、その上に魔法が5段階、そしてその上は、魔王様の使われる大魔法と神話に出てくるような存在すらも疑わしい極大魔法である。

 キプロのそもそもの任務は魔導大国ハイネスの内部分裂であった。

 それは案外すんなりと、第2位魔法、メテオストライクを見せただけで、自分の事をエスカノール無き今、魔導に選ばれし物であるともてはやされ、人類至上主義と、穏健派の対立を煽ることは容易だった。

 魔王様に人化の魔法をかけてもらって約半年余りの仕事のはずだったが、魔王討伐に際して、人類至上主義の最強戦力の3英雄の死と、人類最前線のヴァルカン王国において高エネルギー反応、おそらくヴァルカンの噴火によって、今、ヴァルカン王国は衰弱しているのは明白である。

 であればこそ、3英雄の死の真相究明という大義名分を掲げ、魔族の血を一滴も流すことなくヴァルカン王国を滅ぼす。

 我ながら、完璧すぎる計画、この結果を持って帰れば、古臭い苔の生えたあの四天王もこのキプロに椅子を譲り渡すだろう。

 「キプロ様、準備が整いいました。」

 隣に膝まづく兵に視線をくれることもなく答える。

 「ではあのお顔を真っ赤にして門を叩いてる坊ちゃんに、今からあたしも直々にそのドアノック手伝うって伝えな。」

 「ハッ」

 そう言うと、兵士は急ぎ足で、去っていった。

 「じゃあいっちょやるとするかね。」

 キプロは深呼吸をして、そして本陣から門の方向に300mほど離れた儀式場へと足を運んだ。


 日が、王都イオナの陰からオレンジの輝きだけを放ちだしたころ、ようやく馬は、門のはるか上の断崖にたどり着いた。

 数刻前、眠りについていた、セレスティアも目覚めている。

 フリスクはゆっくりと見下ろすと、山の裾野の窪みに無数の人が下が群れている。

 山を登りきるまでは無数の爆裂音もしていたのだが、今となっては静かなものだ。

 上からのぞき込む限り、前線の部隊がゆっくりと撤退している、その後ろでは、何やら巨大な魔方陣が描かれ、紫色に輝いていた。

 「何かするつもりだな。」

 セレスティアも眼下を覗き込んだ。

 「あれは、魔法?そんな…姉さま以外に魔法が使えるものなど…」

 その次の瞬間二人に眼前を無数の魔方陣を伴いながら一筋の紫の光が夜空に打ちあがった。

 フリスクはこの魔法に見覚えがあった。

 身喰らう龍の中で最も実用性は無いがかっこいいと言われた技、消費魔力に対しての結果が薄く、言わばネタ魔法、メテオストライク

 広範囲に中規模のダメージを与える技だが、隙が多く、コストもバカ高く、何より範囲内無差別でダメージを与えるため、多くの味方も巻き添えにしてしまう上、射程も1キロ程度とそれほど長くないくせに、半径1キロに被害を及ぼす技と確実に自分もダメージを食らう、製作者の調整ミスも甚だしい一撃だ。

 フリスク委は上空に目を凝らすと、すでにはるか先ではあるが、真っ赤に輝き高速で接近してくるそれを捉えた。

 

 「其レハ、久遠ノ帳ヨリ招キシ、天帝ノ一撃」

 キプロが詠唱を一言述べる度に、儀式場の魔術師たちが、魔力不足で意識を失っていく。

 「我ガ、誘ウハ、純然タル破壊ニシテ」

 ここまで唱えるとキプロの体も急激に重くなりはじめる。

 この魔法は高威力だが、詠唱を完了するには膨大な魔力を必要とし、たとえ、地脈の上で、暗黒の儀式を行ったとてなかなかに賄える消費量ではない。

 「無慈悲ナル一撃ナリ メテオストライク」

詠唱をし終えるとキプロは紫の柱が天空高く上がり、その先に赤く燃える、それを確認すると、その場に膝をついた。

いくら龍族の決壊とて、これは魔法であって魔法ではない、今から門に降りかかる一撃は、純粋な暴力の塊。

少々、味方に被害が出ようが、ハイネスの民など、人類至上主義はもとより、穏健派でさえものちには始末する予定であった。

それが少し早くなるだけの事。

 すでに灼熱に燃える隕石は大きくなり、地面を照らし出し、その強大な質量から放たれる引力と熱を肌に感じ、キプロの胸は高鳴る。

 しかしその時だった。

 夜空に一線の赤き光が翔け、強大なエネルギー体がその隕石を貫き、その光は広がると、隕石を飲み込み、焼き尽くした。

 ひどい魔力波と衝撃派、熱量がキプロの体を襲い、頭上の災厄が一瞬で焼き払われていくのをみてキプロはその場に両手をつくと嘔吐した。

 「何だというのだ…」

 そう言い、門を見上げたキプロは、その眼でしっかりと、部別次元の、漆黒で、ドロッとした、生暖かい、超高濃度の魔力を感じ、釘付けになった。

 「魔力の共鳴か…しかしこの規模は…」

 次の瞬間、キプロだけではない、その場にいた誰しもが、あまりの魔力濃度の高さ故の共鳴が起き、その声を聴いた。

 「其ハ、盛者必衰ノ理ナリテ、其ハ、万物ノ行方ヲ指シ示ス。」

 「其ハ、現世ヲ喰ライ、原初ノ姿ヲ呼ビ覚マス。」

 「其ハ、文明ヲ喰ライ、終焉ヲ体現ス。」

 「其ノ新生コソ、創世ノ理ト知ルガイイ」

 「デモリション」

 次の瞬間だった、門の上より放たれた漆黒の魔力塊は次第に膨れあ上がりながらハイネスの軍勢を飲み込み、さらに膨れ上がる。

 岩も、木も、雲も、光も、地形さえも飲み込み、漆黒の球体と化した其れは、時空すらゆがめながら東門外20キロ地点でようやく止まると、その場に崩れ落ち山を形成する。それが動いた土地は半円状に深く大きく削れ、まるで景色をくりぬいたかのように、虚空だけが広がったのだった。 

 

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