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【フェーズ6】sunset

 いつ眠りに落ちたのか分からない。

 まだ前身はひどく痛むが、負った傷を考えれば、あの男の治療が聞いているのだろう。

 あの後、あの男とはしばらく話しながら眠りに落ちた。

 男の名前はフリスクと言うらしい、分かってはいるがおそらく偽名だろう。

 なんせフリスクと言えば、輪廻龍の友の名であり、神への反逆を託したとされる男の名だからだ。

 あの時我が身を助けたのだ。突然宝物殿の下から吹き上がった高エネルギー体。

 あれはおそらく、ここ数日王都イオナを襲っていた、揺れから察するに、霊峰ヴァルカンの噴火と思って間違いはない。

 高エネルギー体がヴァン・リオ・ヴァルカンを焼き払った後、断片的に覚えているのは、内臓が持ち上がる感覚と赤い瞳。

 その事を尋ねてもフリスクは言葉を濁すが、間違いないのは、意識を失う前に確かに私は虚空に揺れるあの紅蓮の双瞳を見たのだ。

 その上、昨夜見せたあのエンチャント術、ただ者でないことは明らかだ。

 まどろむ頭の中で、そんなことを考えながら意識が覚醒する。

 昨日の話ではこの小屋は、王都イオナのはずれのモスク村の外れの小屋らしい。

 本島であれば、今すぐにでも王都がどうなっているのか今すぐにでも駆け付けたいが、もう少し体の回復を待たねば何をすることもできない。

 そう考えていた時だった。昨日と同じ爆裂音が全身を揺らす。

 まだ、霊峰ヴァルカンの怒りは収まっていないらしい。

 不安が心をかき乱すが、士官学校時代の教訓を思い返し、気持ちを抑え込み回復に努める。

 戦場において負傷兵はお荷物でしかないのだ。

 その時だった、小屋の扉を強くドンドン叩く音がする。

 慌てて飛び起き、ベッドの上に腰掛け、扉の方に目をやると、椅子からフリスクがゆっくりと立ち上がり飛び上がったセレスティアを一瞥すると扉を開けた。

 扉の向こうには息の荒い、ヴァルカン王国軍の兵士が決死の表情で立っていた。

 「なにかね、こんなあsだ早くから。」

 「先日も伝えたがモスク村は非常に危険だ。既にほかの村人も避難を完了している。ご病気の方がいるのは分かるが、ここにいてはどの道…」

 「私も前日お伝えした通り、まだここでやることがある、それにまだ彼女は動けん。お引き取りいただこう。」

 そうフリスクが対応している間にも、窓を開けたためか先ほどより強く響く。

 そうしてその音が、昨日フリスクが言っていた火山の爆裂音ではなく、戦場で危機なじんだ音、魔法の爆裂音であることが分かった。

 「あ、あの」

 セレスティアがそう言うとフリスクが振り返る。

 「イブ、君はまだ寝ていなさい。」

 イブという名はフリスクが咄嗟に呼んだ偽名だろう。しかし今はそこに触れている場合ではない。

 「いえ、兵士さん一つだけお聞かせ願えないかしら」

 「なんだ、我々も避難誘導に急いでいる、手短に頼む。」

 「ええ、分かっていおります。」

 そう言うとセレスティアは続ける。

 「先ほどからの子の爆裂音は霊峰ヴァルカンの物ではないのですか。」

 その質問に、男は何をいまさらと両手を拡げる。

 「君はしばらく眠っていたから知らないのか、これは魔導大国ハイネスの魔導攻撃だ。」

 そう答えた兵士の後ろから怒声が飛ぶ。

 「ライナー、もうそんな土地にしがみついて死のうってやつにかまってる暇はねえ、次に向かうぞ」

 「けどぉ」

 「けどもへったくれもねえよ、まだまだ救える命があるんだ、さっさと行くぞ」

 そう言わるとライナーと呼ばれた兵士は、フリスクに向き直る。

 「何をなさるのかは分かりませんが、迅速な退避行動をお願いします。」

 「分かったから、早く隊長さんについていきなさい。」

 フリスクはそう言うと手でライナーを払い、見送ることもなく扉を閉めた。

 セレスティアはベッドから起き上がり、破損した鎧に手をかける。

 「何をしている。」

 鋭いフリスクの声が飛ぶが、セレスティは手を止めることなく鎧を身に着ける。

 「フリスクさん、あなたは私の身を案じて引き留めてくださっているのでしょうが、私はこの国の騎士です。敵国が攻めてきているのであれば戦うのが騎士の使命です。それに現在この国は三英雄が亡くなっております。苦戦は必至だからこそ、少しでもこの国の為に戦わねばなりません。」

 そう言うとセレスティアは自らの家紋の入ったネックレスを机の上に置く。

 「報酬はこれを、ローズ公爵家にお持ちになり、事情をお話しください。」

 しかし、フリスクの反応は予想とは違ったものだった。

 「それもそうか、セレスティア、君はこの国の人間だものな。君にはまだ協力してもらいたいこともある。」

 そう言うとフリスクは柱にかけてあった黒いローブを手に取った。

 「というのは?」

 セレスティアの問いに、フリスクはまっすぐ紅蓮の眼差しをこちらに向けて当たり前のように答えた。

 「ハイネスの軍を追い払うのであろう、協力しよう。試したいこともあるのでね。」

 そう言い、出立の支度を進めるフリスクに今度はハイネスがそれを制止しようと、入口の前に立つ。

 「なりません、騎士とは民の盾、ただの民間人のあなたを死地にお連れするわけにはまいりません。」

 しかし、フリスクは制止するセレスティアの肩に手をやると、顔を近づけた。

 長い銀髪が、セレスの頬に触れる。

 「私は、ただの民間人ではない。」

 そう言うと共にフリスクからとてつもない魔力量を感じる。

 さらにフリスクは続けた。

 「それに君よりはるかに強い。」

 「しかし…」

 セレスティアはそう食い下がるが、優しく話しかけてきているフリスクから漏れ出す威圧感に言葉を失った。

 「分かったならよろしい、外に馬を止めてある。夕刻には東門にたどり着くだろう。」

 そう言うと、フリスクは小屋から出ていく。

 セレスティアはその背中に続くしかなかった。


 正午を迎えたころ、東門外に布陣する魔導大国ハイネス、第8魔導師団の本陣でキプロの怒号が飛ぶ。

 「あんな鉄の板一枚壊すのにどんだけかかってるんだい。」

 そう言いながら8人掛けの軍議机を叩くと、机の上の駒がぐらぐらと揺れた。

 「どうやら、奴ら龍族の物と思われる破魔の魔法を施してるらしく」

 しかしそう答えた初老のローブの男に、キプロは手元にあった水入りのコップを投げつける。

 「知ったこっちゃないよ、あたしが啖呵切っておっぱじめたんだ、何とかするのがお前らの役目だろう、人類最強魔導師団が聞いてあきれるよ」

 「しかし」

 濡れたローブの水を払いながら、男が言うが、キプロが机を蹴ったのでそれ以上言うのをやめる。

 「しかしも、へったくれもあるか、夕刻、あたしが一発ぶちかますからそれまでにせいぜい何とかしときな。」

 その言葉で正午の軍議は何の進展の無いまま終わった。

 軍議が終わった後、コップを投げつけられた初老の男は本陣の天幕を出ると、すぐに一人の若い男性魔導士が駆け付けた。

 「アルフレッド様、お疲れ様でございます。」

 「ああ、本当に疲れたよ」

 そう言うとアルフレッドは近くの木箱の上に腰を下ろした。

 「進展はございましたか。」

 そう尋ねる青年にアルフレッドは疲れた視線を送る。

 「あるわけなかろう、夕刻にキプロ様が大魔法を放たれるそうだ。それまでにお前らで何とかしろ…と」

 そう言うと、男性魔導士の顔が曇る。

 「しかしアルフレッド様、ヴァルカン王国の門に施された破魔の魔法は堅牢故、我々の放つ攻撃の悉くを粉砕しております。いくらキプロ様の大魔法と言えど。」

 「ああ、あれは人知の及ばぬ龍族の古の破魔よ、やはり、ユリウス様にご協力を頂くしか。」

 「では、私が使者となりましょう。」

 アルフレッドはそういう青年を見上げる。

 「やめておけ、昨日、キプロ様はユリウス様の反対を押し切って攻撃を開始されておる。ユリウス様が動くとは思えん。」

 「なぜ、ユリウス様は攻撃をなさらないのでしょうか。」

 「それは、やはりエスカノールの事じゃろうて」

 「しかし、ヴァルカン王国3英雄は、すでに」

 「ユリウス様はエスカール様の弟弟子、まだ踏ん切りがついてないのであろう。」

 「では、こうするのはどうでしょう。」

 そう言うと、青年魔導士はアルフレッドの耳元でささやいた。

 その言葉を聞いて暗かったアルフレッドの顔に一縷の明るさが戻った。


 セレスティアは馬上でフリスクの背中にしがみつく。

 長い銀髪が何度も頬をかすめる。

 誰かの背にしがみつき、馬に乗るなど何時頃振りか

 「姉上以来か…」

 「セレスティア、姉がいたのか?」

 フリスクにそう言われ、声に出ていたことを自認する。

 「あ、はい、すみません独り言です。」

 「いい、どうせまだ城門まではかかる、道中のつまみにもしよければ聞かせてはくれないか。」

 そう言われ、別に隠すこともない事と判断し、話し始めた。

 「私には兄がおりました、武術と魔導の素質に溢れた優秀な兄で私は幼少より兄の背中を追い続けておりました。」

 「ほう、良い背中だったのだな。」

 「はい、兄はその溢れんばかりの魔導の才能をさらに磨くため、偽名で魔導大国ハイネスの首都にある、魔導学院ソロモンに入学いたしました。兄からはその立場上なかなか頼りは無かったのですが、ソロモンにおいて輝かしい成績を収め、常人であれば20年かかるともいわれる課程を2年で修了し、ハイネス国内でも、名を上げ、人類至上主義の筆頭提唱者となったのです。」

 「それはすごいな」

 「ええ、自慢の姉です、しかし…」

 そこまで言うと、セレスティアは自然に目頭が熱くなるのを指で止めた。

 「しかし?何かあったのか。」

 「はい、兄は無くなりました。ヴァルカン国王、ヴァン・リオ・ヴァルカンに魔族に対する対魔戦線の要として編成された3英雄に入るため、魔導大国からお戻りになり、出立した直後の事でした。ほんの数日前の事です、朝巡回していた兵士が、王都イオナ近郊の残りの御二方と同様、無残な姿で発見されました。」

 そう言うとフリスクの顔が少し曇ったような気がした。

 それを感じ取ったセレスティアはフリスクにさらに強くしがみつく。

 「暗い話をして申し訳ありません。」

 「いや、こちらこそ悪いことを聞いたな。だがな、」

 「はい、しかし、姉上達を殺めたのはヴァン・リオ。ヴァルカンであると私は考えております。」

 「それはなぜだ。」

 「3英雄を一手に相手し打ち破るなど、人の成せる業ではありません。しかし、ヴァン・リオ・ヴァルカンは龍の眷属、いえ、龍が人の姿に化けておりました。人類至上主義を訴える姉の力が邪魔だったのでしょう。そう思えば急な招集も納得がいきます。」

 「では、仇は討てたのか。」

 「ええ、しかし何故それを。」

 「ヴァン・リオ・ヴァルカンの正体を見抜いているという事はそう言う事でだろう。」

 「ええ、確かに、しかしそれでは、フリスクさんも見抜いていたという事になりますが。」

 「私は強いからな。」

 「説明になっていないような気もしますが、ですが正確には私はとどめを刺すことは出来ませんでした。ヴァン・リオ・ヴァルカンの正体を見抜くまでは言ったのですがその直後霊峰ヴァルカンの噴火エネルギーに飲まれ、やつは滅びました。」

 「そうか…しかし、それは君が倒したに変わりない。」

 「そうでしょうか」

 「ああ誇っていいと思うぞ、自らの死を貫き、姉君の仇を討ったのだからな、それに」

 「それに?」

 「その姉君よりも、セレスティアの方が強い力を持っていると私は思うぞ。自らの信念を貫き、姉君の仇ヴァン・リオ・ヴァルカンを屠っただからな。」

 そう言われると、セレスティアはフリスクのマントに顔をうずめた。

 「ありがとうございます。」

 

 

 ユリウスの元に一報が入ったのは日が大きく傾きかけた頃だった。

 使者からの話は、ユリウスにとっては怒髪天を抜く内容であった。

 「今の話は誠か。」

 そう問うエスカノールに、青年魔導士は頷いた。

 「キプロは信用ならんが、アルフレッドの調査というのであれば納得がいく。」

  ユリウスは怒りながら天幕を出ると、本陣天幕を守る従者に檄を出す。

 「直ちに王都イオナへの進軍を開始する、日暮れまでに東門を抜くぞ。」

 その号令を聞きながら、天幕の中で青年魔導士は口角を上げた。


 フリスクは後ろで泣きつかれ眠るセレスティアを落とさないよう馬を走らせる。

 正直、身喰らう龍の世界にきてすぐ戦ったあの勇者パーティのおそらくあのヘッドショット魔法使いの妹という事だろう。

 確かにあの魔法使いは魔族でもないのに、魔導ではなく魔法を使っていた。

 まぁ、止めを刺したのはあの弓使いの矢であって、自分ではないというのが、若干の心の救いでもある。

 ここ数日、セレスティアの治療をしながら、王都イオナにも足を運んだ。

 イオナ自体は、ヴァルカンブレスで消し飛んだ裏側の影響というよりかは、地鳴りの影響で起きた無数の落石等の影響でボロボロとなっていた。

 その影響か本来序盤では入ることのできない水路などに侵入することが出来、あの属性強化のエンチャントブック等を仕入れることが出来た。

 そもそもこの娘を助けたのは、輪廻龍の名前を口にしたからだった。

 町で輪廻龍に聞いても、知らないやつなどいないという常識に邪魔され、まともに話を聞けなかったし、皆それどころではないという感じであった。

 これがゲームであれば、いちいちNPC一人に感情輸入することは無いが、あの火災の中での光からして、本当にこれが異世界転生なるものであるならば、この世界の人々は生きているという事になる。

 その証明なのか、同じことを何度も話す町人もいなければ、ゲームで入れなかったところにも入ることが出来、何より5巻すべてで感じるものがリアルなのだ。それこそこの馬でさえも。

 であればこそ、この世界で神話上の人物として語られる友を探すためにはもちろん、あいつがこの世界を人類の手に取り戻すとして戦ったのであればそれも成してやるのもいいのかもしれない。

 すでに馬は山道に差し掛かっている。

 後ろですやすやと眠るセレスティアを起こさないよう、慎重に進める。

 「しかし、悪いことをしたな。」

 沈みゆく夕日にそうつぶやくと、後ろで眠るセレスティアに目をやった。

 


 

 


 

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