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【フェース3】 secret boss

ヴァルカン国王が触れを出していたころ、フリスクは王都イオナ郊外、霊峰ヴァルカンの山肌にある岩に真昼間から奇妙な体制で体をこすり付けていた。

 「クッソこれはやはり無理なのか。」

 そう言うと向きを変え今度は肩甲骨あたりをさらに強く押し当てる。

 皮膚も肉も無いが、痛みは感じる。

 ゲームではダメージを受ける事は無かったが、今は死神の祝福でダンネージが10倍になっているせいか、それともローブ一枚挟んで骨だからなのか非常に痛い。

 一旦フリスクは立ち位置を確認するように岩から離れるとしばらく岩を凝視した。

 確か、というか絶対此処だったはずなんだがなぁ。

 その時だった。

 「な、何者だ。」

 不意に叫ばれた声に、不覚にもフリスクは驚き、後ずさりをすると、しかし足を送った先に地面の感覚はなくそのまま数メートル落下して全身を強く打ち付けた。

 「いたたた」

 そう言いながら周囲を見渡すと、先ほどの岩肌とは打って変わり、湿度が高く、それほど広くない空間の周囲には蔦がお言い茂り、足元にも太い根と葉が何重にも敷きつけられていた。

 上を見上げるとそこにはなんと先ほど声をかけてきた、ヴァルカン王国のエンブレムを付けた兵士数名が浮いていた。

 「これは隠匿の魔法か何かか…」

しばらく見上げていると諦めたのか、兵士たちはその場所を後にした。

それを見たフリスクは大きく息を吐き出す。

 身喰らう龍でこんなところを兵士が徘徊することは無かったから驚いた。

「それにしても」

 そう言うとフリスクはもう一度周囲を見渡した。

 身喰らう龍では、あの岩に一定の角度で体を当てると壁抜けしたはずだったんだが。

 するとふと強く絡まる蔦の先に、かすかな光があるのを見つけた。

 フリスクはゆっくりと立ち上がると、杖をそちらへ構えた。

「ファイアボール」

そう叫ぶと笛の先から真っ赤な火球が飛び出し、強烈な衝撃波がフリスクの全身を走り、爆風が視界を覆った。

 そして煙が落ち着くと、その先には風化した大理石で作られた人一人がやっと通れるほどの門が現れ、その中は青紫色の光が渦を巻いていた。

「おそらくこれだな」

 そうつぶやきながら、門の柱に左手を当て、門上部の梁に積もった煤と埃を払う。

 するとそこには文字が彫られていた。

それは身喰らう龍で見慣れた、この世界の文字。

プレイしすぎたという事もあり、この文字を読むことは出来る。 

【デス・ウィング】

身喰らう龍のRTAにおいて、いわゆる裏ボス的ポジションに位置するドラゴンで、霊峰ヴァルカンの地下深くのマグマ溜まりのまだ深くに存在する魔龍の窟にて戦うことが出来るドラゴンである。

5種類以上のクリア条件を達成し、どんな形でもいいがこの地域を収める王となるか、それと同等以上の地位を手に入れた冒険者のみが挑むことのできる。

しかし、RTA界隈においては、先ほどの壁抜けを行えば、それらの条件を無視して、ボス部屋に挑むことが出来るという、所謂バグだ。

フリスクはそっと右手の人差し指の骨で青紫の魔方陣に触れてみる。

少しひんやりとした感覚が骨を伝うとともに、指先が消える。

慌てて引き戻すと、指の骨は健在している。

「やはり転送陣の類か」

そう言いもう一度光に触れようとしたとき、ふと門の梁にもう一言言葉が刻まれているのが目に留まり、そしてその場で動けなくなった。

そこには身喰らう龍のゲーム内の文字ではなく、日本語で言葉が記されていたのだ。

それを読むと、フリスクはゆっくりと門に顔を近づけ、顔に肉でもあれば、にやついていただろう。

何度か愛しそうにその文字を骨の指でなぞり、そして魔方陣の中に足を踏み入れた。


フリスクの体が全部魔方陣を抜けると、そこには何もなかったかのように魔方陣の光は霧散した。

着地した足音だけが音の無い空間に響き渡る。

それに合わせるように、無数に立ち並ぶ白い大理石の柱の上に純白の炎がフリスクの周りからともされていく。

映し出される空間は上も右も左も端が見えない程広い空洞につながっていた。

そして次第に純白の炎は正面の巨大な半壊したローマ帝国のコロッセオに酷似した建造物を映し出した。

フリスクは興奮が収まらなかった。

これまで何度も何度も何度も身喰らう龍で訪れた場所であるが、VRと言えど、リアルには感覚は程遠い。

フリスクは全身でその場所の空気感を堪能しながら、照らし出された決戦場へと続く純白に照らし出された大理石の道を進む。

そしてコロシアムの入り口の階段を駆け上がると奥の巨大な鉄扉までたどり着く。

「ここの扉に触れると、身喰らう龍では【この先に強大な敵が潜んでおります。クリアするには膨大な時間を要する可能性があります。戦闘中に引き返すことは出来ませんがよろしいですか】なんて表示されていたな。」

そう言うとフリスクは門の真中に慎重に立つとゆっくりと鉄扉に触れ三歩下がった。

その時だった次の瞬間、巨大な龍の彷徨が響き渡り、鉄扉が勢いよく全開になった。

初めてこの場所にたどり着いたときはこの勢いよく開く鉄扉に激突し、ゲームオーバーになったっけ。

そう懐かしむフリスクの体を強烈な漆黒の突風が飲み込む。

【【【【【【状態異常無効が発動しました。】】】】】】視界の隅に瞬く間に無数の通知が流れる。

そう、名前の通りこの眼前に身構える巨龍の一挙手一投足は、麻痺、毒、睡眠、誘惑、石化、即死、カーズ、混乱、衰弱、虚弱、やけど、凍結といった、身喰らう龍に存在する全ての状態異常効果を持つ風、死の風を巻き起こす。

だからこそRTA勢は、何とか状態異常完全無効の効果を持つパッシブスキル、堕天使の祝福か大天使の祝福を持つデータを引き当てるまで何度もリスタートをするのだ。

黒き霧が次第に薄れ、次第にその巨躯をあらわにしたデスウィングは、死の風をもろともせず眼前に立つスケルトンをその紅蓮の瞳で睨みそして尋ねた。

「なぜ、貴様は立っていられる。」

そう言うと、デス・ウィングは左端をゆっくり下げ警戒態勢をとる。

「それに貴様はスケルトンだな。」

そういわれたフリスクは、ゆっくりと歩みを進め、ドラゴンに接近しながら答えた。

「お前、話せたんだな。」

すると再び漆黒のオーラを尻尾で巻き上げる。

「お前、だと?貴様のような矮小な生命が我の質問に答えないばかりか、お前呼ばわりとは。久々の来訪者故歓迎しようと思っておったが、分をわきまえない骨くずとはな。」

そう言うとデス・ウィングはその巨躯を反転させ尻尾で薙ぎ払い攻撃をしてくる。

フリスクの視野の端ではもう【状態異常無効が発動しました。】という通知が会話を始めてから止めどなく流れ続ける。

フリスクはその高速で迫りくるバスの様な大きさの尻尾に両手を突き出す。

すると、その巨大な尻尾はさらに巨大な何かに吹き飛ばされ、デス・ウィングは体勢を崩しさらに後ろに下がった。

「どうしたデカ物、大きいのは態度と図体だけで、その実態はスケルトン一匹退けることのできない鈍いトカゲという事か。」

そのフリスクの言葉に、デス・ウィングは激昂し、巨大な咆哮と共に全身から死の風を大量に放出する。

しかしその黒い霧も、フリスクの前で打ち返され、デス・ウィングの方にはじき返された。

流石、リアル裏ボスといったところか、ジャストガードしていなければその音でさえ、こちらにとっては致命傷だな。

しかしまだだ、もう少し、あいつの心を乱さなければ。

デス・ウィングの咆哮をはじき返すと、さらにゆっくりと、余裕を醸し出す歩き方で距離を縮める。

近づくフリスクに幾度も尻尾で、爪で、足で攻撃を仕掛けるが、そのすべてを完璧なジャストガードで防ぎ、弾き飛ばす。

そうして巨大なコロッセオの壁際に追いやる。

「貴様は何者なのだ。」

そう言うとデス・ウィングは少し冷静さを取り戻したかのようにまた一歩後ろに下がりついに尻尾が壁に当たった。

一瞬後ろを見て、さらに歯痒そうにフリスクを睨みつける。

「状態異常も物理攻撃も効かぬスケルトンなど聞いたことないわ。」

だいぶ動揺してることは間違いない。

「分を弁えよトカゲ、先ほどからの目晦ましと弱き爪はもう飽きた。」

その言葉を聞くと、再びデス・ウィングの瞳が怒りのあまり紅蓮に発光し始める。

「骨屑風情が、我を本気で怒らせたようだな。」

そう言うとデス・ウィングは視界を飲み込むほどの大きさの翼を拡げ飛び上がった。

巻き起こされた風が死の風を巻き起こし視界を包み込む。

そしてもう一度デス・ウィングは大きく吠える。

その咆哮をジャストガードで弾き返す。

その勢いで視界が戻ると、デス・ウィングの口に無数の魔方陣が重なり、力が収束していくのを感じる。

それつられ空洞内のコロッセオも白い柱たちも舞い上がり、光すら捻じ曲がり、視界がグネグネと歪む。

この攻撃は身喰らう龍でもあったデス・ウィングの必殺の一撃、まともに喰らえば再起不能、リスタートは必至の攻撃ヴァルカンブレス、どこの攻略サイトにも、ダメージは測定不能と書かれていた。

さらにヴァルカンブレスこそが、かつて天空にも届く霊峰ヴァルカンを消し飛ばし、巨大カルデラを生じさせた原因であると身喰らう龍の設定資料に係れていたのも知っている。

「消えろ」

その言葉と共にデス・ウィングはヴァルカンブレスを吐き出した。

放たれた純白の眩い閃光はからは、とてつもない力を感じ、全身の骨が軋む。

「ここ!」

そう叫び、超エネルギー体がフリスクに触れるか触れないか、左手でそれを払う。

正直視覚は役に立たなかったがタイミングは、これが身喰らう龍と同じであれば完璧なはずだ。

巨大な爆音が周囲に鳴り響く。

ダメか?

一瞬フリスクの心に迷いが生まれるが、光焼けした視界が回復するにつれて飛び込んできた情報たちはそれが成功したことを物語っていた。

見上げた視界は青空で埋め尽くされ、目の前には右半身を失ったデス・ウィングが倒れていた。

心の高鳴りを抑え、冷静を装いつつ、フリスクは倒れこむデス・ウィングの頭部に近づく。

「お前、まだ息があるのな。」

 ついつい素の話し方で話しかけてしまったことに気が付いたがもうそこはどうでもよかった。

 うつろな瞳のデス・ウィングにもはや繊維はなく、それは強大な生命が風前の灯火であることを物語っていた。

 フリスクはゆっくりとデス・ウィングの頭部に杖を向ける。

「スキルドレイン」

 すると視界に数日前の夜と同じ文字が並んだ。

【パッシブスキル】【龍化】発動中のみ龍の姿に変身する。

【パッシブスキル】【人化】発動中のみ人の姿に変身する。

【パッシブスキル】【龍神】力+500 体力+9000 魔力+1500 ラック+2000 

             最終ダメージ+300% 最終被ダメージ-80%

             全ての龍技の魔力消費-99%

【スキル】【死の風】発動中のみ、継続的に麻痺、毒、睡眠、誘惑、石化、即死、カー

ズ、混乱、衰弱、虚弱、やけど、凍結を継続的に付与し続ける。

【スキル】【龍神牙】魔法の龍神の頭部を召喚し、魔力×700%+固定値5000のダメージで

攻撃する。

【スキル】【龍神爪】魔法の龍神の腕部を召喚し、魔力×500%+固定値3000のダメージで攻撃する。

【スキル】【ヴァルカンブレス】背後に魔法の龍神を召喚しブレスを放つ、(力+魔力)×

10000%+固定値1000000のダメージで攻撃する。

一通り奪ったスキルを眺めたあと、フリスクはステータスを視界に表示させた。

レベル:381 主属性:アンデット 副属性:龍神 副属性:勇者

       種族:スケルトン・龍族・人間族 性別:雄・雌 称号レコードホルダー

だいぶ上がっているし、何なら身喰らう龍でもデス・ウィングの経験値は250レベル分だったんだが。

 しかし、それはともかく必要な力は得た。

 「あとは…」

そうつぶやくと再びデス・ウィングに目をやる。身喰らう龍であれば、死体は光になって霧散するんだが、そう言うとフリスクはデス・ウィングの首の付け根まで行くと思い切り蹴り飛ばした。

 力のステータスが上昇したためかこれほどの巨躯でも容易にひっくり返すことが出来る。

 「確か倒れた位置からしてこのあたりだったはず。」

 そう言うと、デス・ウィングの胸部に無理やり骨の手を突っ込む。

 生暖かい肉の感触をかき分けそして指先にお目当ての物の感触を引き当てた。

かつて、霊峰ヴァルカンに飛来した一体のドラゴンの子供は、神々の黄昏、終焉の聖遺物、神剣デモリションを体内に取り込んだという。

 それから何千年と体内に聖遺物を宿し、時には世界の管理者として、時には魔龍

として、この世界の秩序を守ってきたという。

 フリスクは勢い良くデス・ウィングの体から、漆黒の刀身に赤い光が浮かび上がる諸刃のロングソードを引き抜いた。

フリスクはその漆黒の剣を空に掲げると、夕日に黒く輝く刀身を見つめる。

「ステータス」

名称:デモリション 種類:両手剣

神々の黄昏において、巨神が神族を滅ぼしたとされる神剣であり、聖遺物。

力+9999 魔力+9999 

【パッシブスキル】【選定】剣に認められなければ触れることが出来ない。

【パッシブスキル】【神々の黄昏】与ダメージの上限値を開放する。

【パッシブスキル】【神族スレイヤー】神族へのダメージ3倍

【パッシブスキル】【魔族スレイヤー】魔族へのダメージ3倍

【スキル(神技)】【滅び】切っ先から放射状に黒炎のレーザーを放つ。与ダメージの上限値のダメージ。

身喰らう龍において、この武器を手に入れればもう後はラスボスんも部屋に向かうだけだ。

スキル神々の黄昏と滅びの組み合わせは、もはやゲームデザイナーの御ふざけかと思えるレベルであるが、バグを利用しない限り、デス・ウィングを討伐できるのであればゲーム自体に敵がいないという事もあったのかもしれない。発売当初はこのデス・ウィングを討伐してデモリションを入手し、滅びを使うと、その瞬間ゲームの処理が追い付かなくなり、セーブデータが破損し読み込めなくなり、途方に暮れたものだ。

ゲームのデータすら破壊してしまうことから、身喰らう龍においては本当に滅びである。なんて声もよくあったものだが…それに使った瞬間処理落ちする為、その攻撃を見たプレイヤーはどこにもいない。

この魔窟に入る前の日本語で刻まれた文字

【おれはみたぞ】

まだ確証があるわけじゃない、だけどあれを刻んだのは…

「お前なのか…はやる」


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