【フェース2】No name monster
あれから数日後の正午
中央大陸西部には巨大なカルデラからなる山脈があり、その中心部にはヒョウコウ9000メートルを超える活火山、霊峰ヴァルカンが聳え立ち、その山肌には、麓から中腹にかけ、ヴァルカン王国の王都イオナがある。
周囲を囲む巨大カルデラには東西南北に巨大な門が据え付けられ、まるで天然の要塞と化している。
王都イオナには幾重にも重なる城壁や無数の大砲を始めとした無数の防衛機構が供えられ、中でも、ヴァルカン王国の中腹には一際巨大な砲身が東の平原に向かって突き出している。
街は地熱を利用した蒸気機関が動かす水蒸気に包まれ、それをかき分けるように蒸気機関車が人と物を山肌に沿い昇降し、そのほかにも無数に設置されたエレベーターなどの都市施設を動かす巨大な無数の歯車の軋む音が響いてる。
そんな王都イオナの頂に鎮座する王城の王の間では、第51代、ヴァルカン国王、ヴァン・リオ・ヴァルカン玉座にて足を組み、険しい表情で言いあう大臣および貴族を睨みつけていた。
「つまりは何もわからぬという事ではないか。」
痺れを切らしたヴァンが叫ぶとここまで騒がしかった臣下は一様にヴァンの方に向き直り静けさを取り戻した。
「我が国は元来魔王軍の領地と隣り合い、故に我々は常に戦いに備えるため、軍拡をし、都市を要塞化させ、人類の最前線に暮らしておる。そうだな?ギルバード元帥」
そう言うとギルバードと呼ばれた男が深々と頭を下げる。
男は長い銀髪を後ろで束ね緑の軍服に白のズボン、靴は鱗のような装飾が施されたブーツをはいており、勲章だらけの重そうなアウターを身にまとっている。
そしてその腰には、長銃とソードの特性を併せ持つ獲物を腰に下げていた。
「その通りでございます陛下。」
その答えを聞くとヴァンは鼻息を荒げ、いつの間にかほどいた足は、イラつきを隠せないでいた。
「では聞くが何故、我が国で育て上げた勇者一行が、このようなことになるのだ。」
そう言いヴァンが睨みつけた先には、3つの棺が並べられていた。
一つは眉間に穴が開き、衣類をすべてはぎ取られた、ヴァルカン王国魔導部隊隊長エスカノール、もう一つは、全身穴だらけで、顔以外ほとんど原型をとどめていない、若干15歳ながらヴァルカン王国中距離打撃隊隊長の座まで登りつめ、神童とも称されたレイレーンだった者、そして頭部の無い真っ赤な鎧を身にまとったヴァルカン王国が誇る最強重歩兵戦団、通称レッドブル隊、隊長だった者であった。
「彼らが旅立ってまだ1日だぞ、魔王討伐の為、フェルムンドの竜騎士ロイエと聖女ゼアドと合流し、東方の間属領に向かうはずだった、我が国の最高戦力たちだぞ。それが、何故、我が国の領内、ゲートにもたどり着けず、カルデラ内の平野で、このような姿になり果てるのだ。」
そう叫ぶヴァンの声を聴いた臣下たちは一様に三体の棺に視線を送り黙り込んだ。
「我が国にどんな化け物が生息しているというのだ。」
そう言い、再び玉座に沈みこむヴァンにギルバードはもう一度深々と頭を下げる。
「陛下、とりあえず緊急事である旨の触れを出すとともに、兵たちを町の警戒に当たらせるべきかと。」
それを聞くと、ヴァンは深いため息をついた後、力なく呟いた。
「そうしてくれ…」
そう指示をしたヴァンの上には、炎を上げる火山の中に龍が描かれた紋章、ヴァルカン王国の巨大案国旗が飾られていた。