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【フェーズ1】Carefully selected

心地いい風が頬をなでる。

何千、何万と経験した感覚。

ランダムスポーンシステムだった身喰らう龍のリセマラはいつもこうだった。

AIシステムによって身喰らう龍の世界はゲームを始める度、地球約3つ分の地形が自動生成され、ランダムな場所、とはいえ周囲のモンスターのレベルが5以下の場所には限られるが、召喚されるのだ。

RTAでリスタートするたびに現実と見紛う感覚を堪能してしまうことがよくあった。

ロスかと思われるかもしれないが、目を開けてからがこのゲームのスタートの合図なのだ。

背骨や肋骨の間から伝わる草の感覚から平野スタートだろう。

このゲームのゲームクリアの要件はいくつかある。

勇者として魔王や竜王を倒すのもよし、商人として1兆ギルをためるもよし、国を建国し世界を支配するのもよし、冒険者として最高難易度のダンジョンを見つけ出し、秘宝を手に入れるもよし、そして、俺が記録を打ち出した方法、魔王となり人類を滅ぼすという方法がある。

 さて今回はどんな方法でスタートしようか。

 ゲームの始まりはゆっくしと静かに、目を開けて大物のように立ち上がる。

 これはVRMMORPGのRTA大会放送用に何度も練習し、いつの間にかルーティーンと化した始め方だ。

大きく息を一度吸い、香りを感じ、目を開けたあとの世界を想像しながら目を開け…

その時だった、頭蓋骨に強い衝撃が走る。

「うげはぁ」

情けない声を出して、体が吹き飛ばされるのを感じる。

慌てて立ち上がるとそこは夜の平原で、正面にその衝撃の正体がいた。

「だから俺が一撃で仕留めるって言っただろう。」

そう言ったのは赤い鎧で全身を覆いつくしハンマーを装備した人間属の男だった。

その後方には軽装の人間族女性アーチャー、そして大きな杖を構えとんがり帽子とローブを着たこれもまた人間族女性の魔法使いだ。

様子からして、先ほどの衝撃はアーチャーに射られたのだろう。

まさにナイスヘッドショットである。

しかし、まだ目を開けていない状態で攻撃を受けるとは…バグか?

確かにスポーン地点厳選のあとはバグを利用したりもする。

RTA界隈においてバグは仕様なのである。

そんなことを考えているともアーチャーが放った矢が頭部をかすめる。

ここは、気を取り直して大物スタートをする時だろう。

距離を一気に詰めハンマーを振り下ろしてくる赤鎧の攻撃をパリイする。

完璧なパリィ、ジャストガードは攻撃をかわすだけでなく相手を弾き飛ばす。

RTAではいかにこれを利用するかによってタイムが全然変わってくるのだ。

弾き飛ばされた赤鎧が魔法使いの足元まで転がる。

本来であればこの間に間合いを詰め、防御の薄い中距離、遠距離職をせん滅するのがセオリーだが今はRTAをしているわけではない。

先ほど出鼻を挫かれたような気がしたが、気を取り直して大物感を出す。

「我の眠りを妨げるのは誰だ。」

両手を拡げ、右足と左愛を前後にクロスし、ルビーの如き赤き眼光で睨みつける。

きまった。完璧だ。

しかし、想定した反応が返ってくることは無かった。

「スケルトンが話すだと、そんな筈はない。」

そう言ったのは魔法使いだった。

「何を驚いている。人語を理解するスケルトンがそれほど珍しいか。」

そう言いさらに目を輝かせてみる。

ここまではいい感じに大物感を出せている気がする。

「だって、何の装備もつけてないレベル2のスケルトンが攻撃をはじき返した上に人の言葉を話すなんて」

そう言われ視線を落とすと確かに視界に飛び込んでくるのは一糸まとわぬ骨だ。

はずかしいし、完全に失敗だ。ローブくらいは羽織っていると思っていたが確かにキャラメイクした覚えもない、というかニューゲームを押した覚えもない。

「化け物が!!」

そう叫ぶと魔法使いは杖先をこちらに向ける。

「火球よ、わが眼前の敵を打ち払え!ファイアボール!!」

魔法攻撃はパリィすることはできない。しかしRTA最速の男にかかればフレーム回避など造作もない。

火球をよけ一気に魔法使いに間合いを詰め、腹部に3発こぶしを突き立てると、背後から襲い来る矢をよける。

すると、その矢は見事に魔法使いの頭部に突き立ち血が噴き出す。

それを見て、動きを止める。

「なぜだ。」

そうつぶやくが、誰もその言葉は聞いていない。

赤鎧が怒りに任せ先ほどよりも早く突撃してくる。

しかしその振り下ろされるハンマーに合わせて赤鎧の顔面に拳を入れるとバキバキとヘッドメイルと頭蓋骨が割れる音が響き、体だけが血液を吹き出しその場に崩れ落ち、頭部は

30mほど後方にはじけ飛んだ。

「イヤアアアアアアアアアアアア」

アーチャーの悲痛な声が周囲に響く。

しかしフリスクはさらに困惑していた。

身喰らう龍で倒されたNPCたちはたとえ人といえど、グロテスクな表現は倫理委員会によって規制されているため、血飛沫などの表現はされず、光の分子となりその場で体が霧散するようになっているはずだが。

振り返るとアーチャーの女性は腰が抜けたのが弓を地面に落とし尻もちを搗きながらも後ずさりしている。

「魔王プレイはもう嫌なんだけどなぁ。」

そうつぶやくと、アーチャーの顔からさらに血の気が引く。

「そ、そんな魔王なんて…」

そうつぶやくと這いずりながら逃げようとしていた。

そこまで恨みがあるわけではないが、所詮はゲームのNPCだ、それにダサい声も聞かれたし、そういえば目を開ける前に攻撃してきたのはこいつだ。

だが、キャラクリエイトもなかった。スキンは最速のレコードを記録した時のアンデッドキャラに酷似しているが、ステータスはどうなのだろうか。

本来であれば戦闘はボス級以外極力先頭は避け、バグで生まれた歪を探し天使のボス部屋に直行するはずなのだが。とりあえず確認するか。

「ステータス」

そう唱えると見慣れたステータス画面のユーザーインターフェイスが表示された。

レベル:21 属性:アンデット 種族:スケルトン 性別:雄

称号:レコードホルダー

力101 体力153 魔力95 ラック11 

【パッシブスキル】【死神の祝福】 ダメージが永久的に10倍になるが全ての攻撃の最終ダメージが10倍

【パッシブスキル】【悪魔の祝福】 回復魔法でダメージを受けるようになるが、全ての状態異常完全無効

【パッシブスキル】【魔人の祝福】 攻撃するたびそのダメージの50%分体力を回復する代わりに回復魔法を使用することが出来ない。

【スキル】【エナジードレイン】 対象の魔力を吸収する。

【スキル】【スキルドレイン】  戦意を失った対象のパッシブスキルを奪う。

【魔法】ファイアボール、アイススパイク、ウィンドランス、アースウォール、ウォーターバレッド、ダーク


「これは…」

理想の厳選ステータスである。

このステータスを求めるためにRTAプレイヤーは長ければ1年以上リスタートを繰り返す。

それ故、俺の部屋に再三のリスタートの負荷に堪えられず壊れたソフトとヘッドギアが無数に散乱していた。

そしてこのスキルの構成は、あのレコードをたたき出したステータスなのだ。

ダメージ10倍になり、与えたダメージ総量の半分回復し、状態異常完全無効となるが回復魔法が使えず回復魔法でダメージを受けるようになり、被ダメージ10倍というわけだが、

攻撃はジャストガードとフレーム回避を極めた今デメリットがデメリットではない。

レベルが中途半端に上がっているのは先ほどの二人を倒したからだろう。

「とりあえず最後も殺すまえに」

そう言い這いながら逃げるアーチャーに指先を向ける。

「スキルドレイン」

そう叫ぶと漆黒の線がアーチャーを唱える。

アーチャーの目や鼻から血が流れ、声にならない声を上げたあと痙攣した。

<スキルを習得しました。>

視界にそう表示されるとステータス画面に2つのスキルが追加された。

【パッシブスキル】【弓神への忠誠】遠距離攻撃の飛距離と制度が比較的に上昇する。

【パッシブスキル】【勇者】    仲間の思いを力に変え、ダメージが最大10倍。

「良いスキルを持ってるじゃないか。お前らいわゆる勇者パーティーだったのか、もったいないことをしたな。」

そう声をかけるが、すでに弓の勇者は全身を痙攣させながら蹲っている。

「苦しませずに終わらせてやろう。」

そう言うとフリスクはもう一度指先を弓の勇者に向ける。

「ダーク」

そう唱えると、弓の勇者の体の真下から赤黒い槍が出現し弓の勇者の体を串刺しにすると、さらにまるで樹木の枝葉の様に無数に槍が生えその体を肉片へと変えた。

「それにしてもグロテスクだな。」

そう言うと、魔法使いの右腕に握られている杖と帽子とローブを奪った。

全裸では骨しかないといっても少し気恥しいものだ。

それにしても、身喰らう龍はここまでリアリティはなかったはずだ。それに…

そう言うとフリスクは夜空を見上げる。

「俺はあの時死んだのか…」


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