人生が2回あると分かったので一回目は自由に生きますた
死刑台に向かう俺を看守達が不思議そうな顔で見ている。
死刑執行を前にこんな平然としている死刑囚は初めてなのだろう。
目隠しをされ、首に縄を巻かれた。
床が抜けたら首がしまって俺の人生は一度終わる。
俺は今日まで55年生きた。
40まで真面目に生き。40から先は強姦、強盗、殺人の日々を過ごし、今日を迎える。
『人生は一度きり。今を一生懸命生きる』なんて思ってたらそりゃあ死ぬのは怖いだろう。
だが俺は40歳の誕生日に枕元に現れた神にこう言われた。
『わりぃ。言い遅れたけどお前の人生は2回ある。100億人に1人の割合だぞ?』
「本当ですか?」
『本当だよ。普通は死んだら大切な人と天国に行くか一人で地獄に行くんだぜ?お前は例外』
「……俺は選ばれし人間」
『そうだよ。だから今を一生懸命生きろ!』
俺は神の言葉を信じた。
と言うか神の言葉には絶対な説得力があり、信じざる得なかった。
なので死など全く怖くはない。
貧困、無教養、就職戦争、負け犬、独身。
俺の人生はそれだけで全て語れる薄っぺらいモノだ。
神が現れる前、俺はドラッグストアのチーフで同い年の地味な彼女がいたが全て捨てた。
人生が2回あるなら仕事なんてしないでたくさんの女を抱きたかった。
人を殺してみたかった。
名前も知らない人間の大切なものを奪いたかった。
元彼女は俺が死刑囚になってからも何度も面会に来たが俺は一度も会わなかった。
あの日神は教えてくれた。
『一度目の人生で深いつながりがあった人間は転生先でもお前の人生の重要人物として再会する。そのへん考えて大切にしろよ。死ぬ時の気持ちがだいぶ違う』
と。
転生した世界でまであの女の辛気臭い顔を見るのはゴメンだ。
現世で関係を断ち切っておこう。
来世では思い切り頑張って正しく生きてさ……可愛い嫁さんと子供を手に入れて最後の人生を満喫して天国へ行こう。
天国で嫁さんと子供や孫を待つ……楽しそうだなぁ。
ガタン。
床が抜ける音がした。
神は地獄に向かう男の魂を不思議そうに
見ている。
(ちゃんと教えたのにあいつは何やってんの?)
「前世の妻ともせっかく現世で会えたのに別れて……分からんな。あの人間は。地獄に行きたかったのかなぁ?」