海の意思
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
あれから1ヶ月、僕は毎日のようにうみの世話を見る生活をしている。うみは本当にだらしなく、どこまでも人間のよう。だけど、僕の行動一つ一つを監視する為に見つめてくる目には、時には恐怖すら覚えてしまう。
「うみさ、そろそろ見つめるのやめてくれない?」
「えっ、なんで?」
「いや、なんか気恥ずかしいし...」
僕だって年頃の男子高校生だ。うみは美少女だし、見つめられると流石にドキドキする。
「でも、ちゃんと見せてくれるんだよね?」
「全部は無理かもって言っただろ?」
「なるほど...人って感情があるのか。」
「人を何だと思ってるんだ?」
やっぱり不思議な子だ。人間なのに、人間っぽくない。いったいどういう存在なのか、1ヶ月経った今でもまだ分からない。何か、彼女の事を知る方法がないか。
「ねぇ、ちょっと出かけようよ。」
「え?どこに?」
「決まってるでしょ?」
そう言って、僕が連れてこられたのは、少し遠くにある水族館だった。いや、わざわざバスに乗ってまで来たかったのかよ。
「なんで水族館なんか...」
「ほら、水族館って海の生物にとって牢屋みたいなものじゃん?だから、確かめようと思って。」
ふと外に出たと思うと、やっぱり怖いし、不思議な事を言い始めた。本人は人間だと言うけど、僕にはとてもそうは思えない。
「うん、帰ろっか。」
「え?もう?」
「うん。だって、もう十分分かったから。」
どこか安心したような、でも絶望したような、うみはそんな顔を僕に向けた。本当に不思議だ。
「よし、じゃあうみは先にお風呂入ってて。その間にご飯は僕が作って...」
「ねぇ、あの人達誰?」
家に帰ってうみがベランダの方を指さした。その先には、見覚えのある人達がいた。
「よ、よぉ、元気だったか?守。」
「...マジかよ。」
そこに居たのは、僕の両親だった。
「それで?守とその子は、どういう関係なんだ!?」
「こら、あなたったらがっつき過ぎよ!守ももうそういうお年頃なんだから!」
「でもお前だって気になるだろ?」
うちの両親はかなりの親バカ。もちろん、僕がうみと一緒に暮らしてる事なんて言ってないから、かなり興味津々なご様子だ。
「あっ、まもる君と一緒に住まわせて貰っていますうみです。」
「ちょっ!」
「「い、一緒に住んでる!?」」
まずい、絶対に勘違いしてる。うみも面白そうにしてるし、こいつわざとだな。
「えっと、うみとはそういう関係じゃなくて!」
「「よ、呼び捨てで呼んでる!?」」
「あっ、しまった...!」
このままでは埒が明かない。仕方ない、追い出すか。
「こほん、これからもうちの守をよろしくお願いいたします。」
「はい、お願いされました。」
「おい!」
それから少しして、僕はなんとか両親の誤解を解いた。うみは何故か悔しそうにしてるし、本当に意味が分からない。
「守、これは父さんからの助言だ。」
「何だよ。」
「結婚しろ!」
「まだはえぇよ!」
「えっ、まだ?」
あっ、しまった。また誤解を生む発言を...!
「と、とりあえず!今日は何しに来たんだよ?」
とりあえずは話を逸らそう。これ以上やっていたら誤解ばかり生まれそうだし。それに、この人達が来る時は何か理由がある時だからな。
「実はな、最近の海の環境について話に来たんだ。」
お父さんの言葉で思い出した。そういえば最近の海は、どこか穏やかな気がする。だけど、もちろん異常はある。
「高波などは収まりつつあるが、深海生物が浅瀬に多く出現し始めた。浅瀬の生物の数も減っている、これは何かしらの災害の予兆かもしれん。」
「何か分からないのか?海の研究者だろ?」
「何も分からないわけではない。だが、お前が信じてくれるかどうか...」
「話せよ、相手は海の研究者の子だろ?」
正直、今までだったらこういう話には興味はなかった。だけど、今は違う。僕はうみとの生活で、彼女の事を知りたくなった。彼女は海と何らかの関係を持っている可能性が高い。だから、聞きたい。
「...お前は、海に意思があると言ったら信じるか?」
「えっ...」
父からの言葉に戸惑った。だって、僕は似たような存在と1ヶ月ぐらい過ごしてきたから。もしかしたら、彼女について何か分かるかもしれない。
「近年、あらゆる海域で人間が捨てたゴミが消えていっていた。これは世間的にはあまり知られていない。だがな、最近になってようやくそのゴミの行き先が分かった。」
父は言葉を溜め、真剣な顔で僕に言った。
「そのゴミ達は、日本海溝に集まっている。」
「...は?」
今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!