少女は何者か
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
「ただいま〜って、なんだこの散らかりようは!」
「あっ、おかえりまもる君。」
学校から帰って僕が部屋に入ると、猫か犬でも暴れたかのように散らかっている部屋と、ソファでくつろいでいるうみがいた。
「うみ、これはなんだ?」
「えっと、ポテチの袋?」
「これは?」
「空き缶?」
「これは?」
「飲みかけのペットボトル?」
うみは、何の悪気もなさそうな顔で僕の問いに答える。いや、どんな環境で育ったらこうなるんだ?ゴミはそこら辺に散らかしてもいいって教わったのか?そもそも、うみの親ってどこにいるんだ?
「いいか?こういったゴミはちゃんと分別して捨てるんだ。ほら、ここにゴミ箱で分けてるだろ?」
僕が事前に置いていたゴミ箱を指さしてうみに言い聞かせると、うみはじっと僕の方を見つめた。なぜか僕は、うみの目に恐怖を覚えた。
「なんで?」
「えっ、だって散らかってたら駄目だろ...?」
「なんで、この部屋は駄目なのに、海はいいの?」
うみの目から感じたのは、恐怖だけではない。顔や言動からは感じられないけど、うみは底知れない怒りを抱いている。まるで、海のように底知れない怒りを。
「それは...」
「ねぇ、教えてよ。海にはゴミを捨てちゃ駄目っていう決まりが無いのか、それともみんなが決まりを破っているのか。どっち?」
「決まりは、ある。ただ、一部の人はそれを守ろうとしないだけだ。」
「...そっか。」
彼女は、窓から海の方を眺めて、僕の方へ振り返って僕を見つめた。
「あなたは、海に物を捨てた事はある?」
息を飲んでしまうほど、彼女は冷たい目で僕を見つめた。僕は、彼女の問いに正直に答える。
「ないよ。僕は、海が好きだからね。」
「...うん、なら良かった。これで、あなたを嫌いにならなくて済む。」
あまりに幻想的で、謎に包まれた彼女を見て、僕は疑問に思わずにはいられなかった。彼女の美し過ぎる見た目もそうだけど、初めに会った時の彼女のものであろうあの声と、彼女の言動。
「なあ、変な事聞くけどさ。」
「ん?なぁに?」
「うみって、人間?」
僕の言葉を聞くと、うみは黙って部屋の外へ歩いて行く。そして、僕の方へ振り返る。
「着いて来て。」
僕は彼女に連れられ、彼女と出会った砂浜に来た。今は夕方で、周りには誰もいない。彼女は海の方へ歩いて行き、僕に手を差し出した。
「うみ?いったい何を...」
僕が彼女の手を取ると、急に海が荒れ、高波が僕と彼女を襲った。いきなりの事に逃げれるわけがない。だけど、僕は襲いかかる波の中、彼女の不気味な笑みを見た。
「海に放棄されるあらゆるゴミのせいで、海の生物達は苦しめられた。でも、私は人間が嫌いなわけじゃない。」
「何を...言って...!」
「だからさ、見せてよ。あなた達人間の良い所も、悪い所も全部。人間が、存在する価値があるかどうかを。」
こんなものを見せられてしまったら、もう否定出来るものがない。彼女は、人間ではない。彼女は、海そのものだ。
「...分かった、見せてやるよ。人間の全部とはいかないかもだけど、僕の見せれる限りの人間の全てを。」
「うん、よろしくね。人間代表のまもる君?」
やがて波は引き、僕と彼女がいた場所は、元の砂浜に戻った。彼女は手を離し、僕の家へと歩き出す。
「あっ、ちなみに私は人間だよ?」
「は?」
彼女は言う事だけ言うと、何事も無かったかのように再び歩き出した。いや、あれを見せられて人間って言われても...まあ、いいか。僕は彼女の横に立ち、一緒に歩く。やっぱり、この姿を見てもう人間だとは...
「あっ、今日も私がベッド占領するね?」
「...了解。」
前言撤回、この少女は生意気で、だらしない人間だ。
今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!