(ASの目線)剣聖との出会い
―――――ASの目線―――――
私は0種族として産まれてきて3歳の時に『正義の加護』が目覚め、11種族のミラー家の養女となった。
11種族の役目は、『種族間千年戦争』に備えて人類最後の『要塞都市イリオス』の北門を守る事。
義父の教えに従い厳しい修行をこなし13歳にして『侍』の称号を得て、15歳の時には11種族で頂点に立つ『武闘軍団デュカイオ』の訓練に参加するようになっていた。
11種族最強の義父にはまだ遠く及ばないものの、デュカイオの者達と刀を交えても実力差はそんなに感じていない。
私は『千年戦争』で人類を守る事ができると自信を深めていた。
そして17歳の時、『千年戦争』が始まってすぐに、太陽の加護を持っている19種族の杏里ちゃんに出会う事になる。
私は学生であり日中は騎士団学校に通っているのだが、千年戦争が始まる前日、義父に呼び出されて『要塞都市』の北にある草原地帯を索敵するように命じられたのであった。
そして何故かその索敵に、騎士団学校の一つ上の学年である屑礼先輩を同行させるように言われた。
屑礼先輩って、普段は死んだ魚のような目をして、そして女子達へエロイ視線送ることで有名な男だ。
女子生徒に全く人気がない危険人物じゃん。
私とは騎士団学校で開催される武闘会の実行委員をした時に少し話しをするようになっていた。
女として私に興味を示していなかったので、まぁ一緒に行動すること事態は絶対に嫌とまではいっていない。
もちろん全然、私のタイプではない。
義父はその屑礼先輩のことを高く評価している事は知っていたが、0種族は加護無しの一族であり私達11種族に守られる存在だ。
義父の命令に逆らう事は出来ないが、索敵に連れて行くって、足手まといにならないようにしてもらいたいものだ。
要塞都市といっても塀に囲まれているわけでもなく門も無い。
北に伸びる街道があり、そこに11種族の侍達が待機する詰め所があるだけなのだ。
まだ朝方は冷え込む季節、太陽が昇りようやく暖かくなり始めた時間に屑礼先輩は現れた。
「早いな、もしかして結構待っちゃった?」
「何ですか、その彼氏気どりの挨拶は。気持ち悪いのでやめてください。」
「普通の挨拶じゃん。前にも言ったが、俺ってムチムチの美形が好みなんで、ASは心配ないぜ。」
今のその発言って、セクハラですよ。
といいますか、確かに私は筋肉質で美形ではないけど、屑礼先輩にそう言われるとムカツクものだ。
これ以上の会話をしても気分を害すだけになるだろうし、無駄な話しをするのはやめておこう。
要塞都市の北エリアは見通しのいい草原地帯が広がっていた。
毎日、誰かしらが索敵に出ており、私も何度かヂュカリオの偵察に同行させてもらった事がある。
今日も私達以外に3組の班が索敵に出る予定となっているそうだ。
空は真っ青で雲は見えない。
まだ肌寒いが日中は気温が上がってきそうだ。
さて世界の支配者を決める『千年戦争』は、本日開始されたのであるが、要塞都市の雰囲気は昨日と何ら変わりないものであった。
都市の周りに外敵となる種族を認識し仕留めるという古代兵器の機関砲が配置されているせいで安全だという意識が高いせいなのかもしれないが、11種族の頂点にたっている義父についても特に何かをするわけでもないからである。
千年戦争とやらが始まったことに、実感が全くわかないのだけど、こんな感覚をしていて大丈夫なのだろか。
とはいうものの、『正義の加護』を持つ11種族は相当強いのではないかと思っている。
特に義父の力が一つ抜けており、義父さえいれば『千年戦争』を勝利する事は難しくない気がしていることも事実であった。
馬に揺られ、既定のルートを索敵していると、一瞬空気が乱れた。
ザワリとした感覚がする。
横を並走している屑礼先輩も異変に気が付いたようで「行ってみよう」と緊張した顔で馬を走らせ始めていた。
どこに向かっているの?
というか、何で私に指示をしているのよ。
――――――屑礼先輩が走る先に少女がいた。
少女の名は安杏里。
13~15歳くらいに見える美少女だ。
これはマジで可愛い。妹にしたい…。
その杏里ちゃんが、衝撃的な事を口にした。
「私は19種族で、千年戦争の参加者です。」
19種族。
太陽の加護を持ち、最強の固有JOBをもつ『剣聖』の種族。
人でありながら、私達11種族とは同盟関係に無い。
まだ可愛いだけの女の子に見えるのに…
その杏里ちゃんは、先にある岩地帯に住み着いたゴブリンを討伐するという。
ゴブリンとは人間の女をさらいレイプを行い繁殖をする災害級の16種族である。
単体では力が弱いのだが、狡猾で討伐が困難な奴等である。
安杏ちゃんはその事を知らないのかもしれない。
通常は、絶対に女の子を一人でゴブリンの元へ行かしてはならないのだ。
そんな安杏ちゃんに屑礼先輩は、「そのゴブリン討伐に俺達を同行させてくれ。」と申し入れをしていた。
その発言は違うでしょう。
そこは安杏ちゃんがゴブリン討伐するのを止めるところだろ。
義父からは、屑礼先輩の判断に従えと言われているけど絶対駄目だと抗議をしようとした時、『私の言いたい事は分かっている。』みないな感じで手で制してきた。
「19種族は俺達の敵だ。ここは実力の確認を優先するべきところだ。危ないと思ったらすぐに助ければいい。」
…。
屑礼先輩の判断は正しいのかもしれないが、女としては許されるものではない。
だが、止める事が出来なかった。
私の中にある侍の本能が、最強の『剣聖』の実力を見てみたいという願望がそうさせたようだ。
危ないと思ったらすぐに助ける事を条件に屑礼先輩の提案に承諾をしていた。
安杏ちゃんと一緒に馬を降り、岩地帯を進むとゴブリンが住み着いている姿を視認した。
50mくらい離れた岩地の丘に数個体が潜んでいるようだ。
足が震え、心臓の鼓動が速くなっていくのが分かった。
ゴブリンの存在を確認しただけでも背筋が冷たくなっていく。
特に表情を変えた様子のない安杏ちゃんがゆっくり普通に歩きだすと、逆手で腰の剣へ手をかけた。
――――何かをやるつもりだ
次の瞬間――――――
逆手から居合抜きを繰り出した。
そして気がつくと、抜刀してからゆっくり剣を鞘に戻している。
その動作は無駄がなく、信じられないくらい速く、そして剣士として理想の居合い抜きであった。
心が騒いでいる。
完璧かつ美しい抜刀を目の当たりにして感動したのは事実であるが、その少女の技量に恐怖した。
――――――そして同時に、向こうの岩が裂ける音が響き、大地の真っ直ぐ伸びる粉塵が舞い上がった。
何が起きたのか、全く理解できない。
安杏ちゃんの居合抜きが遠距離斬撃を生み出したとでもいうのだろうか。
遠距離斬撃なんて、義父でも出来ない技だ。
そして何て凄まじい威力なんだ。
私達とは次元が違い過ぎる。
気が付くと、安杏ちゃんが信じられない速度で向こうへ跳ねていた。
ゴブリンの恐怖に上書きされるように、体に電流が走っていた。
安杏ちゃんが異次元の強さである事だけは分かる。
一瞬の出来事を見ただけだが、私がこの先100年以上鍛錬を積んでも安杏ちゃんの足元にも及ばないだろう。
今まで最強であると思っていた義父でさへもだ。
19種族とはこれほどまでに強いのか…