42話 (ASの目線)燕返し
――――ASの目線――――
実姉の紙飛行機に導かれ、やってきた場所は天井が高い大ホールのような密閉空間だった。
天井でまわっているプロペラファンの音が反響し、淀みない空気が流れている。
地下空間ということもあり窓はないが、ブラケット照明が室内を明るく照らしていた。
大ホールの中心には仮面を被った侍が立っている。
身長は約2m。よく鍛えられた体だ。
顔を見なくてもその侍が誰であるか分かる。
11種族から千年戦争にエントリーし、そして私を侍に育ててくれた義父で間違いない。
千年戦争が開始され姿を消していたが、こんなところにいたのか。
その義父と距離をあけたところに、底抜けに可愛い女の子が立っていた。
19種族の剣聖だ。
義父はここで剣聖と戦うつもりなのだろうか。
その安杏ちゃんの足元には、屑礼先輩の義兄であるフォルマルテが倒れており、その手を姉が握っていた。
大きなダメージを負っているものの、フォルマルテは命を繋ぎ止めたようだ。
その状況から、義父とフォルマルテとが戦った後であると直感した。
義父とフォルマルテが、どういう理由で戦ったのだろうか。
何故、義父は私を見ても何の反応も示さないのだ。
嫌な予感がしてならない。
何にしても、義父の存在には違和感しかない。
不信感で心の中が塗り固められていく。
そんな私の横にいつの間にか真っ白なスーツを着た男が立っていた。
楽しそうにしている歪んでいるその顔は人のものではないように見える。
その男が勝手に現在の義父の状況について話しをしてきた。
「お嬢さん。初めまして。私は15種族から千年戦争へ参加している悪魔。君の父君と契約し、力を分け与えた者だ。彼は、剣聖と戦うために全てを捨てている。もうお嬢さんの知っている男でななくなっているんだ。さぁこれから、剣聖との戦いが始まるところだよ。」
義父は15種族の悪魔と取引をし、全てを捨てただなんて。
信じられないことではあるが、この状況を見る限り、嘘を言っているようにも思えない。
そして悪魔は安杏ちゃんに対し、この都市の衛生管理システムを破壊しない見返りに、遠距離斬撃を使用しないように脅していた。
義父が、剣聖と正々堂々と闘おうとしているようには見えない。
裏切りや卑怯な行為は武士道から反するもの。
義父は気高いマインドさえも切り捨てたとでもいうのだろうか。
だとしたら、悪魔がいうとおり仮面の侍は、もう私の知っている者では無く、そして11種族でも無い。
19種族の剣聖である安杏ちゃんが仮面の侍へ一歩前に足を出した。
「私の方はいつでもいいですよ。かかってきてください。」
これかれ戦う相手である義父に視線を合わせることなく、面倒くさそうに喋っている。
腰の剣に手をかけているものの、構える様子もない。
対峙している義父からは緊張感が伝わってくるが、安杏ちゃんの方はというと全くやる気が感じられない。
私の挑戦を受けてくれた時の雰囲気と同じ感じだ。
安杏ちゃんからすると、11種族最強の義父さへも、私と同格の扱いなのだろうか。
仮面の侍が、ゆっくりと手に持っていた残像剣を振るうと、そのブレから高速剣が生まれてきた。
変幻自裁に飛びまわり、最も汎用性の高いブレードだ。
おそらくだが、同時に隠密属性を持つ隠密剣も創っているだろう。
セカンドブレードが、生き物のように義父の周りを飛び回る中、大きく残像剣を振るうと全長10m程度がある大剣が姿を現した。
最も破壊力のある巨人剣である。
出し惜しみなしの全力で、剣聖へ挑むようだ。
安杏ちゃんがよそ見をしている中、義父が高速剣を従えながら踏み込んできた。
義父は単純に素早く踏み込んでいるように見えるが、11種族が研鑽し生み出してきた技が巧みに織り込められている。
あの動き、剣さばきは、空蝉→焔→旋風→月光→水無月→空手→空蝉…
途切れることのない無限に続く奥義の連続だ。
まさに神技という名前が相応しい。
繋ぎ目がない奥義を連続で繰り出されては、何者であろうとも防戦一方になってしまうだろう。
信じられないことだが、11種族の侍達が編み出した技が、最強の剣聖を凌ぐ事が出来るのかもしれないと思った。
初撃となる高速剣が剣先を向けながら突き刺すように発射されていく。
高速剣が到達する前、剣聖が何かを斬り裂くように神速の動きで抜刀をした。
振り上げた剣が、いつの間に接近していた隠密剣を粉砕していた。
私には全く見えなかった隠密剣が、安杏ちゃんには見えていたのか。
更に、突き刺すように飛んできた高速剣をも、真っ向から剣を振り下ろし、木っ端微塵に撃ち砕いた。
動きに無駄がなく、そして速く、完璧なタイミングだ。
あの動きは考えながらでは出来るものではない。
無の境地というものを見せられているようだ。
義父はというと踏み込み緩めることなく、巨人剣から繰り出す突きと同時に、2mある背丈から安杏ちゃんへ残像剣が振り下ろしていた。
剣聖の状態はというと、剣を振り下ろしており、無防備になっている。
私の常識では、義父の勝利は揺るがない状況に見えていた。
その瞬間、私は時間が止まっているような感覚に陥っていた。
剣聖以外の以外の全てが凍りつき、世界が静止し、色あせている。
少女の剣は真っ向から地面スレスレまで振り降ろされていたが、返す刀で瞬時に切り上げられていた。
―――――――――それは、秘剣・燕返し!
義父が振り下ろしていた残像剣が砕かれ、真っ直ぐ突き刺すように飛ばられていた巨人剣も粉々になっていた。
一切の無駄のない純粋な斬撃とは、これほどまでに美しいものなのか。
天才という言葉があるが、この動きはそういう類のものではない。
無限に剣を振り、研鑽を積み重ねて手に入れた動きだ。
安杏ちゃんからすると、剣をただ振り下ろし、斬り上げただけかもしれないが、究極の斬撃であることは疑いようがない。
これまで、侍の加護を持つ11種族の強者達が披露する『燕返し』を見てきたが、剣聖の斬撃とは全く異質のもの。
義父が繰り出さしてきた奥義の数々は、剣聖の前では無抵抗なものであり、その力量は圧倒的に離れていた。
19種族の剣聖への抵抗は、無駄の一言であった。
義父は、つけていた仮面が真二つに割れ、背中からゆっくりと床へ倒れていった。




