第35話(ASの目線)AS出陣
———ASの目線———
目を覚ますと外が騒しい。
いつもの朝と様子が違うようだ。
障子紙から光が差し込んできており、朝を迎えたのだと認識したものの、体は起きようとしない。
まるで、全身の細胞が睡眠を求めてストライキを起こしているような感覚だ。
私はどうしてこんなにも疲れているのだろうか。
意識が朦朧とする中、うとうとと昨日のことを思い出していた。
確か、11種族の天剣豪の称号を持つ義父から呼ばれて屑礼先輩と要塞都市の外へ行ったような。
そこで、そうだ。
私はそこで19種族の剣聖に出会ったんだ。
記憶が蘇ると、一瞬で体の細胞が目覚めた。
畳に敷かれていた布団から飛び上がると、昨日、安杏ちゃんに粉砕され、地下1階層で第2種族の教皇様に治してもらった腕を自然とさすっていた。
19種族の剣聖がゴブリン達へ撃ち放った遠距離斬撃の映像が鮮明に流れてくる。
信じられないほどの強さであったが、安杏ちゃんの様子を見るとまだ余裕があるように見えていた。
もしかしたらあれで実力の10%も出していなかったのかもしれない。
千年戦争のために必死に研鑽していた毎日が何だったのだろうと、挫折感のような感情が込み上がってくる。
大きなため息を吐くと全身からチカラが抜けていく。
だるい。私の体。全然、動かないわ。
外から歓声のような音が聞こえてくる。
夢遊状態な感じでフラフラと歩き、履き出し障子を開くと、太陽から発せられる白色光線が体に突き刺さってきた。
そのまま板張りの外廊下に出ると、真っ青な空に『19種族が7種族に勝利』したメッセージが流れていた。
体中に電流が走った。
そうだ。千年戦争が始まっていたのだ。
7種族のギルドマスターごときが剣聖に勝てるはずがない。
次元が違い過ぎるんだよ。
私達人類が、千年戦争へ介入する余地なんてゼロなんだよ。
視線を落とすと、真っ白な砂利が敷かれている中庭が視界に入ってきた。
この屋敷は、大きな中庭を囲むように建てられた、築100年は超える木造瓦葺の平屋だ。
私と義父の二人で暮らしているが、その義父は今日も留守のようだ。
11種族から千年戦争に参加している天剣豪の義父は、やはり剣聖と戦うつもりなのだろうか。
私がいうのもどうかと思うが、控えめに言っても万に一つも勝ち目はない。
安杏ちゃんの圧倒的な強さが、今の鮮明に胸に刻まれている。
何だろう。
私の小さな世界が、底抜けに可愛らしい1人の少女にぶち壊された感覚がする。
そう。私は井の中の蛙だったのだ。
この中庭は、3歳の時に義父に引き取られてから毎日竹刀を振っていた場所だ。
同世代の女子はお洒落や恋愛とか楽しんでいた時間、ずっと私は全てを剣の道に注ぎこんできた。
だが実力は、安杏ちゃんの足元にも及ばないどころか、更にその下の下だ。
私は何のために生きてきたのだろうか。
私の存在意味って何なんだろう。
何もかもぶっ壊されてしまった気がする。
私は中庭を見ながら縁側に座っていた。
何もやる気がおきない。
そう。私の戦いは既に終わってしまったのだ。
今も19種族の剣聖は無双の戦いをしているのかもしれない。
種族が違うだけで、これほどの実力差があるなんて不公平すぎるだろ。
どれくらい時間が経過したのか分からない。
ぼんやりと空を眺めていると、紙飛行機が飛んでくる姿を視認した。
あれは、地下1階層にいるテスタ姉さんのSKILL『エアメール』だ。
テスタは、私と血が繋がっている唯一の者だ。
3歳の時に両親が殺され、それから私は11種族の天剣豪の養女となり、姉のテスタは教会に預けられた。
地下1階層にいる姉からは、毎日のように手紙が送られてくる。
日常生活がだらだらと書かれ、取るに足らない内容だ。
風に揺られ、こちらへ向かってくる。
太陽に光に照らされた板張りの縁側へ紙飛行機が着地した。
いつもの感じで機械的に手紙を拾い上げ、紙飛行機を広げて内容に目を通した。
【AS。HELP MEだ。フォルマルテが不味い事態に陥っている。19種族の剣聖ちゃんを黒燐のキングの元に連れて行くのだが、絶対に良くない事が起きる予感がする。今回ばかりはヤバイ気がするんだ。】
心拍数が跳ね上がった。
瞳孔が開き、ぼやけて見えていた景色がクリアになる。
無意識に立ち上がり、刀を手に持った。
剣聖とは、無双の安杏ちゃんの事だ。
安杏ちゃんが、フォルマルテとテスタ姉さんに危害を加えるとは思えない。
だが、2人が千年戦争に関わってしまったのだろう。
行かなければならない、と直感した。
開いた手紙が紙飛行機の姿に戻っており、ひらひらと飛び始めていた。
『エアメール』には返信機能がある。
付いていけば、テスタ姉さんの元へ辿りつくはず。
私の身体は屋敷から飛び出していた。




