33話 BAD_ENDとは
天井スクリーンへ視線を移すと、青い空に浮かぶ雲が何事もなかったようにゆっくりと流れていた。
商店街を見ても何ら破壊された様子がなく、古い建物が綺麗に並んでいる。
そこには、15種族のバエルを仕留めた戦闘の一切の痕跡が残っていない。
商店街には街の衛生活動をしてくれている機械人形達は、粛々と与えられた仕事をこなしてくれていた。
静まり返った街に、虫達が鳴き始め、軒を連らねる店からシャッターの上がる音が次々に聞こえ、外の様子を伺う者がチラホラと現れてきている。
空中に投げ飛ばした真里伊が落下してくるところをお姫様抱っこにてキャッチし、たった今、商店街の道路へ着地したところだ。
15種族のサマエルと名乗った悪魔の姿はない。
第1階層に飛ばされ、バエルを倒し、今しがた9種族の真里伊が要塞都市を焼け野原にするくらいの爆撃にて子供バエルを焼き尽くしたはずだが、その面影が微塵もなくなっていた。
足元で自由気ままに転がっているミランダからの説明では、万能の種族である『要塞都市』には都市を護る使命があり、そのために力を行使した結果、私が繰り出した最強の一撃と、真里伊が巻き起こした爆炎を、次元の狭間に飛ばしたそうだ。
アルマジロの姿をしているミランダを見ていると誤解してしまうが、21種族とはとんでもない奴等であることは間違いない。
私の思考を読み取ったアルマジロが急に立ち上がりギロリと睨んでくると、真里伊に聞こえないように直接脳内へ話しかけてきた。
『要塞都市が特別ということではない。21種族にはそれぞれ与えられた使命があり、奴はそれをこなしただけのことだ。』
『21種族の使命ですか。だとしたら、その辺りを能天気に転がり生産性のない活動をしていることが、ミランダの使命になっちゃいますね。』
『フッ。私の使命を知りたいのか。まぁいいだろう。ついに教える時がきたようだな。それは安杏里を立派なレディに育てることが、私の使命なのだ!』
『まるで育成シュミレーションゲームみたいじゃないですか。といいますか、それって勿体ぶりながら言うような話しではありませんよ。』
『そうでもないぞ。育成シュミレーションに当て嵌めれば、私は駄目ヒロインの世話役であるイケメン執事のポジションになるのだろうからな。』
おいおいおい。ミランダがイケメン執事って、何気にBAD_ENDが見えているじゃないか。
実際のところ、ミランダの使命を確認することは限りなく優先度が低い。
そう、ミランダに関する事項はどうでもいいことなのだ。
今は15種族の悪魔の行方が気になる。
奴は自身が分身体であり、本体は地下2階層にいると言っていた。
素直に考えて、まず私がやるべきことは地下2階層に行くことになるのだろう。
そうなると、下へ降りる手段を見つけなければならないか。
機械人形の少女を、お姫様抱っこから地面へ降ろすと、破壊されていない街の様子に戸惑っていた。
「安杏里。これはどういうことだ。ウチが街を吹き飛ばしたはず。建物も道路も何も破壊されていないことになっているぞ。」
「はい。見えない力が働いたようです。」
「見えない力やと。その力のせいで、街が焼け野原にならずに済んだということか。」
「はい。その通りです。見えない力については、放っておいても問題ありません。」
「ちょっと待て。問題あり過ぎやろ。」
「そんなどうでもいいことよりも、私は地下2階層へ降りようかと思っております。」
「そうか。地下2階層へ行き、15種族と戦うつもりなのか。頑張ってきてくれ。」
これは、真里伊が地下2階層へ一緒に行かないことが前提の返事になっている。
旅は道連れ世は情けというじゃないですか。
気がつくと、真里伊の姿が景色へ同化を始めていた。
SKILL『隠密』を発動させたようだ。
だが、私の研ぎ澄まされた感性が、周囲の動きを全て把握し、真里伊の存在は認識出来ている。
気配が消えた真里伊が近くに寄ってきた。
「安杏里、上空に怪しい紙飛行機が飛んでいる姿が見えるか?」
見上げると、真里伊からの指摘されたとおり青空に紙飛行機が飛んでいた。
風に流されているように頼りなく飛行しているように見えるが、うまく風を捕らえている。
まるで、生命があるようだ。
隠密で姿を消している真里伊は紙飛行機から隠れるように私の背中へ音も無く張り付いてきた。
「あの紙飛行機は、テスタロッサという女のSKILL『エアメール』や。どうやら、この辺りを索敵しておるようやな。」
「貴重な情報をいただき有難うございます。それで、そのテスタロッサとは何者なのでしょうか?」
「0種族の者や。一応やけど気をつけた方がいい。油断大敵とよく言うだろ。うちはその辺りに潜んでおく。」
「気をゆるめて注意を怠ってしまうと、思いもよらない危険を招くという意味ですね。」
「その通りや。」
「私に関しては、気を緩めていても危険に陥るはずがないので心配無用です。まぁそれでもピンチになったその時はよろしくお願いします。」
「そうか。そやったな。」
向こうを見ると、背の高くイケメンの男と、ちょい太目の体型をした女の菅が見える。
空に飛んでいる紙飛行機は、その太目の女が飛ばしたものと直感した。
こちらに真っ直ぐ向かってくるが、敵意は感じない。
美少女をみつけて、芸能プロダクションにスカウトをしてくるのだろうか。
残念ながら、千年戦争に参加している身としてはアイドルみたいなことは出来ない。
仮にデビューしたとしても枕営業は無理だしな。
イケメンの方は底知れぬ可愛い少女に緊張しているようだが、女の方からは緩い雰囲気が伝わってくる。
間合いが詰まった距離にくると、イケメンがこちらを真すぐ見つめ、職務質問みたいなことをしてきた。
「俺は黒燐の構成員でフォルマルテという者だ。そして隣の女はテスタロッサだ。失礼だが、お嬢さんが19種族の剣聖なのだろうか。」
斜め45度をいく言葉が出てきたぞ。
私を推しのアイドルにスカウトしてきたわけではなかったのか。
というか、イケメンが緊張していたのは底抜けに可愛い少女を見たからではなく、剣聖にビビッていたからなのかよ。
いや。私の思い違いということもある。
答えを出すには早いのかもしれない。
『隠密』で姿を消しながら、フォルマルテの前を転がっていたミランダが球体を解除し、ため息をつきながら立ち上がってきた。
『安杏里。この2人が芸能プロダクションの者というのは思い違いで、剣聖にビビッているのは思い違いではない。』
『無駄にややこしい言い方をしているようですが、つまり斜め45度をいく発言をしてきたわけですね。』
『うむ。それも思い違いだな。いや。ややこしいことになりそうなので、いま言ったことは忘れてくれ。』




