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20話 (真里伊の目線)vs課長

高い位置にきた太陽なジリジリと地表を温め始め、要塞都市の官庁機関が集まる敷地内の影になっている場所とのコントラストが明確になっていた。

少し冷たかった空気が熱くなり、オフィス街独特の緊張感がある雰囲気が漂っている。

自我が目覚める前のうちを破壊しスクラップにしてくれた8種族の情報課課長へ復讐するために、屋上を目指し治安局建物の外壁を歩き始めた時、真っ青な空に安杏里が戦闘を開始したメッセージが流れてきた。

想定どおり、7種族のGMがあのちっこい魔人に喧嘩をうってしもうたみたいだ。

ご愁傷様やな。

完全体になったうちが全く敵わない剣聖に、GMごとき雑魚が相手になるはずがないやろ。


等間隔で建てられた官庁機関が集約された敷地内に張られた芝生に伸びる石畳を忙しそうに歩いていた一人が、空のメッセージに気がつき足を止めて唖然とした顔で見上げていると、その者の姿に何かを感じた他の者がその視線の先を追いかけ、同様に唖然とした顔で空を見上げて固まってしまっている。

ビジネス街に流れる独特の引き締まった空気が乱れ、騒然とした雰囲気に変わっていく。

外が騒がしくなってきている空気を感じとった者達が建物から身を乗り出して空を見上げ、別の者達へ7種族と19種族の戦闘が始まった事を必死に伝え始めていた。

スキル『壁歩』の効果にて登ってきた治安局本部の3階建ての屋上にも、出入口から仕事中の職員達が押し寄せてくる慌しい足音と声が聞こえてくる。


要塞都市(イオリス)で暮らす者達はみんな千年戦争が始まった事を知っている。

今回も0種族とその同盟種族が勝利すると思っており、要塞都市内には緩い空気が流れているのを感じる。

実際に、7種族のギルマスが19種族の剣聖に勝利を予想するだろうという会話が結構聞こえてくるのだが、アホか、お前らごときが無敵の剣聖と戦ってしもうたら0秒で終わる、っちゅうねん!

あれは、一見理想の妹キャラに見えるが、その中身は頭のネジがぶっ飛んだ無敵のロリ魔神なんやからな。


空に浮かんでいるメッセージの更にその奥には、決勝ラウンドの会場となる浮遊都市(アトランタ)が空高くに見えていた。

前回の千年戦争で勝利し、皇帝の加護を持つ4種族が支配している衛星だ。

そして、0種族と同盟関係にある4種族はうちの敵である。

安杏里の力を借りて、絶対にうちがお前をたたき落としてやるからな。

手始めにまず抹殺する奴は、10年前にうちをスクラップにしてくれた『力の加護』を持つ8種族の秘密情報課課長からや!

屋上へ上がってくる治安局職員達とすれ違うように、『隠密』を発動させながら『戦術眼』が刺し示すルートに沿って建物内へ侵入した。


秘密情報課課長室は3階にあった。

屋上から騒がしい声が、廊下内に響いてくる。

うむ。安杏里とギルマスとの戦闘が開始されたメッセージを見て、皆の気が逸れている間に予定通り秘密情報課長室までたどり着いたのであるが…

SKILL『戦術眼』が課長室の扉にトラップが仕掛けられていると告げていた。


用心深い奴や。

何に変哲もない木製扉に見えるが、自動防御機能を有しているSKILL『モーメント』の力で何かを仕掛けているようだ。


———SKILLモーメント———

7種族情報課課長の固有スキル。

全てのものを回転させる。

小さな球体なら自由に動かす事が出来る。

破壊力と汎用性の両方に優れている。


扉に仕掛けられた罠については不明であるが、普通に開いたらあかん事は分かる。

間違ってここの職員が開いてしまったらどうするつもりなんじゃ。

だがまぁ、この程度の罠は想定の範囲内よ。

ロリ魔神・安杏里の力を分けてもらった今のうちは、その辺りの罠なら食いちぎる事が可能になってしもうているからな。

ほな、行くで!


――――――—うちはSKILL『ホーミング爆撃』を発動する!


正面に10cm程度の『ホーミング爆撃弾』が1個体、姿を現した。

標的は課長室扉。

安杏里に太陽炉を復活させてもらいホーミング爆撃が使用可能になったわけやけど、よう考えたら撃つのは初めてだ。

課長戦の前に試し撃ちをするにはちょうどいい。

その距離10m。ホーミング爆撃の水平飛行距離だ。


「FIRE!」


うちの号令と共にホーミング爆撃のエンジンに火が入り、勢いよく標的へ向かい発射されていく。

同時に、至近距離での爆発に巻き込まれないように、誰もいない治安局建物の廊下を跳躍して距離をとった。

ホーミング爆撃弾が目標の木製扉をとらえると、炎が広がり凄まじい衝撃音と振動が伝わってくる。

思っていたより火力が高い。

近くにいたら、その熱と爆風に自滅してしまう可能性がある。

これは、頼もしい反面、取扱注意の代物やな。


炎は消えたが爆煙はまだ残る中、課長室扉を見ると木製扉周辺の壁ごと破壊されていた。

もしかして、部屋の中にいた課長も仕留めてしもうた可能性もある。

いや、仮にも8種族最強の男で千年戦争への参加者や。

あれくらいで死ぬはずがないやろ。

今の爆発音で、治安局本部の建物にいる奴等も異変に気が付き、直ぐにここへやってくるものと考えられる。

それでは情報課課長の抹殺に、行くで!


爆発音の余韻が残っている中、課長室入口から室内へスルリと侵入すると、40歳くらいに見える身なりのいい親父が、窓際で腰を抜かしている姿を確認した。

うちを破壊した情報課課長で間違いない。

やはり、先の爆風くらいで死ぬはずもなかったか。

それにしてもやけど、なぜ無傷なん。

あの爆風を喰らってノーダメージって、普通ありえんやろ。


課長の周囲を5cmサイズの球体が、10個体ほど高速回転しながら浮遊している。

10年前にうちを破壊してくれた球体と同じ物だ。

なるほどのう。

不意打ちから課長を守ったということは、あの球体達はオートで動いておると推測出来るが、どういう理屈で熱反応と爆風から課長を守ったんやろうか。

課長を殺すためには、『モーメント』の力で回転する球体達をなんとかしなければならないのだが、『戦術眼』が今のうちならパワー負けしないと教えてくれていた。

よし。ここは無敵の『戦術眼』が示唆するとおり押せ押せで行くところや。

破壊された壁の残骸が部屋内にばら撒かれている中、床に尻餅を付いていな情報課課長が、うちの姿を視認して、馬鹿の一つ覚えのような言葉を叫んできた。


「誰だ、お前は!」

「ただの通りすがりの復讐者や。」

「ここは治安局で、俺は課長だぞ。分かっているのか!」

「もちろん分かっておるわ。うちは9種族の暗殺者や。8種族の秘密情報課課長であるお前を殺しに来たわけよ。覚悟せぇや。」


―――――――SKILL『ホーミング爆撃』をMAX個数精製する!

10cm程度のミサイルが10個体ほど姿を現した。

太陽炉の出力があれば1万個体以上の数を余裕で精製できるはずだが、同時につくり出せる最大個数は10個までにリミッターがかかっているようだ。

火力が足らなければ、10個撃ち放った後に連続精製すれば戦術的には何ら問題ない。


正面で尻もちをついている課長の背後には、爆風により割れた大きな窓ガラスがあり、もう逃げ道はない。

課長の方は大量に汗をかきながらもその様子は落ち着いており、自身が置かれている状況を理解しようと努めているようだ。

何を企んでいるかは知らんが、『戦術眼』を超える策をうちだすことは出来ないお前は、既に詰んでいるんや。

課長が、現れた『ホーミング爆撃弾』の姿を見て大きく目を見開き、両手を上げ降参のポーズをしてきた。


「待て、俺には戦うつもりはない。」

「何や、降参するんか。残念ながら、うちにはお前を見逃すつもりはない。覚悟を決めて戦うしかないところやぞ。」


情報課課長は高速回転する球体で自身を守りながら両方の手のひらを突きだして、戦う意志が無い事を示し、割れている窓ガラスを背に後退りをしている。

うちとの力関係を認識し、闘わない選択をしてきたか。

だが、こいつは抜け目なく用心深い。

両手をあげている課長が、必死な様子で命乞いをしてきた。


「頼む。俺を殺さないでくれ。」

「うむ、よかろう。誠意さえ見せてくれたらば助けてやらん事もないぞ。」

「分かりました。土下座させてもらいます。」

「潔いな。そこまでやるというなら仕方がない。お前を助けてやろう。」


もちろん、助けるつもりなどない。

土下座をしたところへ『ホーミング爆撃』を発射し、『畜生、騙しやがって』とか言ってもらえれば最高だ。

情報課課長が意を決めたような顔付きで体勢を整えながら両膝を床についてきた。

それでは誠意のある土下座とやらを、じっくりと拝ましてもらうことにしようかのぉ。

情報課課長が上半身をゆっくり屈めようとしたタイミングで、課長の背後から球体が高速回転する音が聞こえてきた。

片手が不自然に後ろにいっている。

なるほど。土下座するふりをしてチャンスを伺っていたわけか。


「おい、その後ろに隠している手を見せてみろ。」


弱弱しかった瞳が、ギラリと一瞬光るのが見えた。

何かを仕掛けてくるつもりだな。

そうでなくては、いたぶりがいが無いってもんよ。

楽しましてくれたお礼を言ってから殺してやろう。


「お前、土下座をしようとするふりをして、実は隙を狙っているようやな。うむ。うちは、そういった卑怯な行為を更に卑怯な手段で潰す事が大好物なんや。ええ仕事してくれてホンマに有難う。そういう事でもう死んでくれ。」


その時、情報課課長の懐から、高速回転をしたモーメント球が飛ばされてきた。

ここは不意をつかれて、『なんやとぉぉぉぉ』と叫ぶのが定番かもしれへんが、ここはニヤリとさせてもらうわ。

いつでも『ホーミング爆撃』を発動できる準備をしていたからな。

覚悟せぇ。


「FIRE!」


号令とともにエンジンが点火された。

10個体の『ホーミング爆撃』が標的へ向かい糸を引くように飛んでいく。

うちは、飛ばされてきたモーメント球を軽く回避しながら後方へ跳躍し、爆風の被害を受けないように素早く破壊された課長室から廊下に退避した。

凄まじい爆炎と爆風、衝撃音が生まれた。

普通ならこれで一巻の終わりなのだろうが、課長は用心深く知恵が回る。

何んなくだが、奴はまだ死んでいないような気がした。


まだ爆炎が残っている課長室内へ飛びこみ、あたりを確認すると課長の死骸らしきものが見当たらない。

残骸の下敷きになってしまったのだろうか。

爆風で窓がはまっていた壁は跡形もなくなくなり、向こうの景色がよく見える。

課長は、窓の方へ後退りをしていたことを思いだした。

3階から外へ飛び降りたと直感した。

ここの下は草むらになっており、普通の人間がここから飛び降りたら骨折するはず。

慌てて爆風により壁がぶち抜かれているそこから下を見てみると…

———————そこには、情報課課長が仰向けになりながら、重力に逆らうようにゆっくり落下をしていく姿が見えていた。

これは一体どういう理屈なんや。

何故、あいつはゆっくり落ちているんだ?

風が舞い上がっているのを感じる。

空気が渦を巻いていた。

そうか。『モーメント』の効果により竜巻のような渦を発生させ、自身の体の下から風を巻き上げていやがるのか。

先ほど、10発撃ち込んだホーミング爆撃による熱反応も、風を操り凌いでいたということか。


仰向けになり3階から地面に落ちていく情報課課長と目が交差するとニヤリとされた。

勝ち誇っていやがる。

ここから『ホーミング爆撃』を撃ち込んだとしても、課長を守る球体に迎撃され、発生する熱反応は風を操られてしまい、うちの攻撃を凌がれるというのか。

このままやと、うちは復讐を果たすことが出来ない。


その時、気が付いた。

そう。

課長が余裕綽々の表情をしながら、ゆっくり落下しているあそこ。

ここに昇る前、『戦術眼』の指示に従い『ホーミング爆撃弾』をばら撒いた草むらだ。

うちの『戦術眼』は課長が3階から飛び降りるかもしれないことを想定していたのか。

だが、状況は変わらない。

地面に置いてある『ホーミング爆撃弾』は、上へは発射出来ないからだ。

奇跡でも起きてホーミング爆撃が地面から浮き上がれば別だが、これではどうしようもない。

―――――――絶望感に襲われたその時、その奇跡が起きてしまった。


情報課課長のSKILL『モーメント』の効果により発生していた竜巻が、草むらに転がっていた『ホーミング爆撃弾』を空中へ巻き上げたのだ。


マジか、これでホーミング爆撃弾が撃てるじゃないか!

用心深い情報課課長は、うちの動向を見落さないように凝視してきており、周囲にホーミング爆撃弾が浮いているこの状況を気が付いていない。

自身を守る高速回転している球体達も、うちからの攻撃に備え、全て課長の全面に集結している。

課長の側面ががら空きな状態だ。

自然の笑いが込み上げてくる。

10年前にうちを破壊してくれた恨みをはらさせてもらう。

ホーミング爆撃弾を発射する。

―――――――――FIRE!


舞い上がった『ホーミング爆撃』のエンジンに火が入り、情報課課長をロックオンした。

精製していた5個体が標的めがけて飛んでいく。

着弾する寸前、課長がその存在に気が付いた。


「何だとぉぉぉぉ!」


ええ断末魔を聞かしてくれて、有難う。

情報課課長は爆死を確認した。

空に、うちの勝利を告知するメッセージが流れてきた。


HERMIT WIN

POWER LOSS

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