第74話 王城に立つマイコニド
建国祭ということで、王都の中は市井を含めてもお祭りムード一色だ。普段では見ない屋台や大道芸などの催し物も開かれている。なにせ国中の貴族が集まるのだから。
モエたちの乗った馬車は城の中へと入っていくが、すでに朝一からパーティーに参加する貴族たちの馬車が列を作っている。
モエがお世話になっているガーティス家は子爵なので、列が切れなければ後回しにされる。
「すごい馬車の数……」
「それはそうだろう。今日はこの王国中の貴族が集まる日だ。いうなればこのくらいの貴族がこの国には存在しているということになる」
「ふぇ~……」
マイコニドであるモエは、世間知らずを隠せていないような腑抜けた顔をしている。
「それはそうとモエ」
「なんでしょうか、旦那様」
ガーティス子爵に呼ばれて反応するモエ。
「頭の上のそれは、絶対に気付かれてはいけないぞ。それと今日は子爵様と呼んでくれ。使用人ではなく令嬢として参加するのだからな」
「わわ、分かりました。ルス、絶対おとなしくしててよ」
「ばう」
頭の上を押さえながら、モエはルスに話し掛ける。分かったと言わんばかりの鳴き声が聞こえてくる。
実はモエの頭の上には、プリズムウルフのルスが乗っかっている。そこがルスの定位置だから仕方はないものの、はっきりいってハラハラしてしまう。
今日のモエの頭は笠が久しぶりにむき出しになっているのだ。アップにした髪は笠の中へと押し込み、帽子だと言い張る予定なのである。
「でも、プリズムウルフが乗っているなら、その能力でどうにかごまかせないものかな」
「そうだな。光を操るから、笠だけを見えなくするというのも可能かもしれない。ルス、できるか?」
「ばうわう」
イジスの提案に子爵が乗っかる。子爵がルスに声を掛けると、任せろと言わんばかりの鳴き声が響き渡った。
しばらくすると、モエの頭の笠がすっと姿を消した。
「おおっ」
イジスと子爵が反応するが、同時に見てはいけないものを見た気がした。
そう、マイコニドの笠は頭から生えている。その笠が見えなくなるということは、笠の根元が見えるということだ。それはつまり……。
「すまん、ルス。やっぱりやめておいてくれ」
「くぅん……」
モエから顔を逸らす子爵。ルスは残念そうに小さく鳴きながら、力を解除していた。
「むぅ、私の頭、どうなっていたんですかね」
「モエ、気にしないでくれ。私たちが悪かった……」
イジスは申し訳なさそうに謝っていた。なんとも釈然としないモエは、少し頬を膨らませていた。
長らく待たされて、ようやくガーティス子爵の馬車が中へと案内される。なるべく早く来たかいがあったか、待たされた時間は思ったより長くなかった。
「うわぁ……、きれい……」
思わず感嘆の声を上げてしまう。
「そりゃまあ、王城だからな。私の家と比較になんかならないぞ」
モエの肩に手を添えながら説明をするイジス。モエは初めて見るような景色に、目をキラキラと輝かせている。
「ガーティス子爵様でございますね。控室にご案内致します」
感動に震えるモエを微笑ましく見ている子爵とイジス。そこへ使用人が近付いて声を掛けてきた。
「そうか、では頼む」
「はっ。では、こちらへどうぞ」
使用人の案内で城の中を移動する子爵たち。その間も、モエはずっと城の中をきょろきょろと見回している。
「モエ、あまりよそ見をするなよ。危ないぞ」
イジスがそういった時だった。
「きゃっ!」
うっかりドレスの裾を踏んでしまい、モエはこけそうになる。
だが、イジスは素早い反応でモエを抱きとめる。
「も、申し訳ありません、イジス様」
「いや、大丈夫だ。それよりケガはないかい、モエ」
「は、はい。ちょっとうっかりしましたけれど、ケガは大丈夫です」
イジスを手で押して距離を取ろうとするモエ。その顔は恥ずかしさなどいろいろな感情が入り乱れて真っ赤になっている。
「お気をつけになって下さい。今日はおめでたい日なのですから」
「は、はい。申し訳ありませんでした」
使用人が困ったような顔で注意すると、モエは小さく頭を下げて謝っていた。本来貴族は使用人には頭は下げないものだが、モエはメイドをしているので、ついつい下げてしまったのである。
だが、そのことは特に誰も気にする事なく、子爵たちは客間に案内される。
「それでは、パーティーの開始までこちらの部屋でおくつろぎになって下さい。では、ご用がございましたらお呼び下さい」
使用人は丁寧に頭を下げると、部屋から出ていく。
外にはまだまだ貴族たちの馬車が連なっているので、開始まではまだ相当に時間がありそうだ。
イジスに手を引かれたモエは、ソファーに腰掛けるとようやくひと息つけると深呼吸をしている。
「ようやく来たか。ガーティス子爵」
ところがどっこい、のんびり休憩できると思ったのも束の間、部屋の中に声が響き渡る。
「だ、誰の声なんですか?」
モエは思わず立ち上がって辺りを見回してしまう。
「陛下、何のお戯れですか!」
「陛下?!」
子爵が叫ぶと、イジスとモエは揃って面食らっている。
客間の奥の扉が開いて、そこから王冠をかぶった渋い感じの男性が出てくる。
そう、この男性こそがこの国の国王なのであった。




