第114話 助けるから
一足先に、マッシュとルスが魔物氾濫の場所にたどり着く。
「はっ、こいつらが魔物どもか。確かに強そうな連中だな」
目の前にはまがまがしいまでの魔力をまとった魔物たちが姿を現しており、今にもガーティス子爵領の領都に向けて突進しそうな感じになっている。
「モエの犬っころ。こいつらはどうにかできそうか?」
「わうっ!」
「そうか。それじゃ、俺もちょっとは頑張らねえとな。俺の胞子で動きを止められればいいが、よろしく頼むぜ」
「ばうっ!」
モエとイジスが子爵たちを連れて駆けつけるまでの間、マッシュはルスと一緒に魔物を食い止めることにした。
多勢に無勢。
マッシュはそんなことは無論承知だ。だが、モエのためにならなんだって頑張れる。男の意地だけで、マッシュは魔物へと立ち向かっていったのだった。
その頃、馬でガーティス子爵邸まで戻ったイジスとモエは、すぐに子爵に状況を報告する。
「なんだと?!」
報告を聞いた子爵が驚いている。
「ルスが感じ取っていたので間違いないです。今はルスとマッシュが向かっています」
「マッシュ?」
「私の幼馴染みです。ルスと二人で無謀にも向かっていったんです。もう、私は心配で心配で……」
モエは落ち着かない様子でおろおろとしている。
「父上、すぐに討伐隊を結成して向かいましょう」
「うむ。グリム、すぐに兵を集めるのだ」
「畏まりました」
子爵が家令に指示を出すと、一気に屋敷の中が慌ただしくなる。
それと入れ替わるようにして、子爵の部屋にとある人物が飛び込んできた。
「ふふん、話は聞かせてもらったにゃ」
「こういう時こそ、私たち亜人の出番というものです。それに、モエに助けもらった魔獣たちも、役に立ちたいとやる気十分ですよ」
キャロとビスの二人だった。
この二人は、以前の賊の侵入の時にも活躍したという実績がある。
だが、それでもイジスとモエは慎重だった。
「今回は大量の魔物たちだ。君たちを危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「そうはいかないにゃあ」
「そうですとも。こういう時にでも活躍しませんと、亜人としての誇りが許してくれませんからね」
キャロとビスが窓際に移動するので、イジスとモエも同じように窓際へと移動する。そこから外をのぞけば、そこにはお行儀よく魔獣たちが集合していた。
「参ったな……」
「あの子たちもルスと同じように感じ取っているのかもしれませんね。これは、連れていかないと拗ねそうです」
「だな」
状況に思わず笑ってしまったイジスだったが、すぐに表情を引き締めて父親である子爵に声をかける。
「父上、私はモエと一緒に一足先に彼らと現場に向かいます」
「むむむ、仕方あるまい。後方のことは私どもに任せておけ。だが、必ず無事に戻るのだぞ!」
「もちろんでございます!」
子爵の許可が下りたので、イジスは騎士団の詰所へと向かい、剣を手にする。
「よし、行くぞ! モエ、ビス、キャロ」
「はい、イジス様」
「もちろんにゃ!」
イジスたちは庭へと出ていき、待機していた魔獣たちと合流する。
その中の獣型の魔獣の背に乗ると、イジスは号令をかける。
「これより魔物氾濫の制圧に向かう。お前たち、すまないが力を貸してくれ!」
「グワアッ!」
「キュキューッ!」
イジスの呼び掛けに、魔獣たちが雄たけびを上げている。
「ふふっ、みんなやる気十分だにゃ」
「ええ、そのようですね。……私も、やる気十分ですよ」
「び、ビス? なんだか怖いにゃ」
「いえ、怖くなんてありませんよ?」
緊張しているはずの場面なのに、なんとも漫才みたいなやり取りをするキャロとビスである。
「ルスとマッシュを助けに行くぞ。進めっ!」
「ガアッ!」
そんなことは気にせずに、イジスは魔獣たちへと号令を出す。
「みんな。魔物たちの脅威から、みなさんを守りましょう!」
「アオーンッ!」
モエも呼び掛ければ、魔獣たちは一気に駆け出す。
キャロとビスによれば、彼らは魔物氾濫の正確な場所を把握しているらしい。魔獣も発生原因が似ているので、とても敏感なのだという。
なので、彼らの走るままに従うとこにして、イジスたちはただまたがっているだけだった。
そんな中、モエは心配そうな顔をしている。
「ルスとマッシュのことが気になるかい?」
「はい。ルスはまだ大丈夫でしょうけれど、マッシュは心配でたまりません」
イジスが問い掛ければ、モエは正直に答えていた。
「彼には弱いながらにも毒の胞子がある。剣の腕はないとはいえど、毒の胞子と組み合わせれば動きを鈍らせるくらいはできるだろう。あとはルス次第といったところか」
「そうですね」
「でも、急いだ方がいいのは確かだ。みんな、頼むぞ!」
「バウッ!」
イジスの呼び掛けに、魔獣たちの速度が上がる。モエは振り落とされないようにと、がっちりと魔獣の背中にしがみついていた。
やがて、目の前からは凄まじい魔力を感じ取れるようになってきた。魔物氾濫の現場に着いたのである。
「ルス、マッシュ!」
心配になって大声で呼ぶモエ。そこで見つけたのは、魔物に囲まれながらもどうにか持ちこたえている、ルスとマッシュの姿だった。