第109話 断罪
証拠を集めるなどしてばっちりと対策を行ったガーティス子爵たちは、パーカス侯爵を告発する。
主だった容疑はガーティス子爵への殺人容疑だ。
王族からの出頭要請であるため、さすがのパーカス侯爵も拒否はできない。
こうして、王城内にある法廷の中で、パーカス侯爵への断罪審判が始まった。
もちろんパーカス侯爵はでたらめだ濡れ衣だと喚いて徹底的に否定をしてくる。しかし、証人として登場したスピアノや子爵邸襲撃の暗殺者たちから飛び出す数々の証言によって不利に追い込まれていく。
さらにはスピアノによって提出された資料の数々によって、パーカス侯爵の数々の疑惑が暴かれていく。
こうなってくると、さすがにパーカス侯爵の形勢が悪くなっていく。
それでも悪あがきを試みるが、プリズムウルフとルスが登場して唸られると、もはや万事休す。神獣から嫌われているということは、悪いことをしたという事実の裏付けになるからだ。
数々の証拠から、国家の防衛の要であるガーティス子爵家への襲撃が認められ、パーカス侯爵は有罪判決を受けたのだった。
その結果、パーカス侯爵家は爵位剥奪、夫人は実家へ、子どもたちは血縁関係のない家へと養子に出されることになった。今回認められたのは侯爵本人の罪だけだからである。
パーカス侯爵領だった土地の三分の一は、隣にあるジルニテ伯爵領へと編入され、残りは王家の直轄領として管理されることになった。
「ふう、ようやく終わりましたわね……」
裁判がひと通り終わり、スピアノは疲れた様子でソファーに腰を下ろしていた。
「お疲れ様です、スピアノ様」
一応王都までついて来ていたモエが、スピアノにお茶を出している。
「ありがとうですわ、モエさん。でも、今はできれば甘いものも欲しいですわね」
「申し訳ありません。そこまで気が回りませんでした」
「いいですわよ。あとで王都の有名なお店にでも食べに参りましょう」
裁判が終わったばかりだというのに、なんとも自由なスピアノである。
「あっ、いいですね。私、王都の街の中をゆっくり歩いたことがないので、楽しみです」
モエもモエで乗り気のようだ。
「お前たち、裁判が終わったばかりだというのによく食べる話ができるな」
ガーティス子爵が部屋に入ってくる。
「いやですわ、子爵様。乙女の部屋にノックもなしに入ってくるなんて」
「ノックはしたぞ。反応がなかったが話があるから入ってきただけだ」
「あら、そうでしたのね」
スピアノは本当に驚いていた。
「スピアノ嬢」
「なんでしょうか、子爵様」
「今回は感謝している。おかげで思ったよりも早く片をつけることができた」
「いやですわ、子爵様。言いましたでしょう、惚れた相手と友人のためですわよ。この程度でしたら、いくらでもして差し上げますわよ」
子爵のお礼に対して、スピアノは得意げに笑いながら答えていた。あくまでもイジスとモエの二人のためだと言い張るのである。
だが、そのためだとしてもここまで精力的に動いてくれたわけだから、やはり子爵としては礼を言わずにはいられないのである。
「それと、見返りは要りませんわよ、これはわたくしが両親にも黙って勝手にしたことですもの。戻りましたら、両親からこってりと怒られるのでしょうね」
「ああ、そうだろうな。だが、これからもジルニテ伯爵家とはいい付き合いをさせてもらいたい。後日伺わせて頂こう」
「承知致しましたわ。お父様とお母様にしっかりと伝えておきますわよ」
にっこりと笑顔を見せるスピアノである。どう見ても余裕そうだ。この肝の据わりよう、本当に伯爵令嬢なのかと疑いたくなるくらいである。
「それよりも、あの催眠魔法によって操られていた方々は、正式にガーティス子爵邸で雇うことになりましたのね」
「ああ、利用されただけだし、反省もしっかりしている。リーダー格の男は今回侯爵と一緒に裁判にかけたから、おそらくは極刑だろうな」
「左様でございますか。とはいえ、罪が罪ゆえに仕方ございませんわね」
スピアノは納得しているものの、モエはまったく分からなくて可愛らしく首を傾げている。
「あ、あの、極刑って?」
「モエさんは知らないのでしたら知らないままでいいですわ。どうせ二度と会うことのない相手なのですから」
「は、はあ……」
スピアノの二度と会わないという言葉で、モエはなんとなく察したようである。
その後、さっさと城を出て街を歩こうとしたモエたちだったが、よりもよって王族に捕まってしまう。
そのまま食事誘われてしまい、その日は王都の散策をする余裕がなくなってしまった。
ちなみにその食事の席では、証人としてやって来た元暗殺者たちも同席しており、ガチガチに固まりながら食事をしていた。
あまりにも微笑ましい光景だけに、食事はとても楽しく行えたようだった。
こうして、ガーティス子爵と子爵邸を襲った暗殺未遂事件は終焉を迎えた。
これでガーティス子爵領から、貴族絡みのしがらみは消え去ったことだろう。
領地に残る問題は、もうあとひとつくらいなのである。