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第102話 スピアノのアタック

 イジスと夕食をしたスピアノだったが、イジスからもう少し待てという話があった。

 このガーティス子爵邸の地下に捕らえた賊たちから証言は取れてはいるものの、パーカス侯爵がしらを切ればそれがまかり通ってしまうからだ。

 なにせ相手は侯爵家。伯爵家や子爵家からの訴えだけでは跳ね返される可能性があるのだ。

「承知致しましたわ。冷静になりましたので、わたくしも少し我慢致します」

 さすがは一度は一目惚れした相手。スピアノはイジスの言うことを素直に聞いていた。


 食事を済ませて客間へと戻ってきたスピアノは、寝間着に着替える。

 侍女が着替えさせる手際はさすがである。

「私もメイドとしてとても感心致します」

「ありがとうございます。これでも幼少の折よりお世話をしておりますので、スピアノ様の癖はだいたい把握しておりますゆえですね」

 スピアノの侍女は少し照れくさくしながら、モエに説明をしている。

「ナギは、私専属の侍女ですからね。このくらい当然ですわよ」

 スピアノは胸を張っている。

 着替えも終われば後は寝るだけ。というわけで、スピアノは侍女を下がらせる。

「さて……と」

 モエと二人きりになったスピアノは、鋭い眼差しをモエへと向けている。

「えっと、スピアノ様?」

 スピアノの鋭い眼光に、モエは思わず怯んでしまう。

 じりじりと詰め寄ってくるスピアノに、モエはベッドへと追い立てられてしまう。

「こ、怖いですよ、スピアノ様。どうか落ち着いて下さい」

 モエが一生懸命なだめようとするも、スピアノはまったく止まろうとはしない。しまいにはモエはベッドにぶつかってそのまま倒れてしまった。

「あたたた……」

 いくら柔らかいベッドとはいえ、いきなり倒れてしまえばダメージが入るものだ。

 受け身も取れずに倒れてしまったモエは、思わず頭を擦っている。

 マイコニドの笠があっても痛いものは痛いらしい。

「えと……スピアノ様?」

 再び前を見たモエは、思わずぎょっとしてしまう。なにせ、目の前にスピアノの顔があったのだから。

 自分の体の上に乗っかるようにして迫ってくるスピアノに、モエは思わず恐怖を感じてしまう。

 だが、スピアノはすぐさまモエの体からのいていた。脅すのは本意ではなかったからだ。

「いけませんわね。つい怒りに任せてしまうところでしたわ」

「……えっと?」

 思わずきょとんとしてしまうモエである。

「いいからお座りになって下さいまし」

「は、はい」

 体を起こしてベッドに腰掛ける。隣にスピアノが改めて座り直す。

「まったく、あなたたちの間はまったく進展してなさそうですわね」

「えーっと?」

 さっきからずっと同じ言葉しか出てこない。

「いい加減にして下さいませ。なんのためにわたくしが身を引いたとお思いなのですか」

 何度も瞬きをしてしまう。モエはスピアノの言っていることが理解できていないようだった。

「はあ、本当に困りましたわね。モエはいつになったらイジス様とくっつきますのよ」

「私と……イジス様が……?」

 モエはなぜか首を傾げてしまう。

「鈍いというか、もはや直視していらっしゃいませんわね」

 呆れてため息が漏れてしまう。改めてモエに眉間にしわを寄せながら視線を向ける。

「モエは、イジス様と運命的な出会いをしております。その時に、イジス様には確かにときめいたはずですわ」

「あー……っと、確かにそうだったかもしれませんね。マイコニドの集落を飛び出て、右も左も分からない時に暴漢に襲われましたからね」

 スピアノに指摘されて、モエはイジスと初めて出会った時のことを思い出していた。

 確かに、あの時は助けてくれたイジスに何かを感じたようだった。

「でも、私はマイコニド、イジス様は子爵令息です。私なんてやっぱり不釣り合いですよ」

 モエは困ったような笑顔でスピアノに言い返している。

 ところが、スピアノはイラッときたらしい。

「あいたっ!」

 モエの額にデコピンが炸裂する。

「な、なにをなさるんですか、スピアノ様!」

 額を擦りながら、モエが大声で怒っている。

「何を仰いますのよ。それでは、わたくしがイジス様を諦めた意味がありませんわ。モエだって気が付いているはずです。イジス様があなたしか見ていないことを」

「そ、それは……」

 スピアノの真剣な指摘に、モエは額を押さえながら困った顔をしている。

 確かにそうなのだ。

 思い出してみれば見るほど、どんな女性がいたとしても、イジスはずっとモエの姿を追い続けていた。王都で開かれた、あの建国祭の時だってそうだった。

 いくら思い出してみても、イジスの視線はほぼ常にモエに向けられていたのだ。

「うう、私なんてマイコニドという、危険極まりない種族ですのに……」

「いい加減に気持ちを認めて楽になればいいのですわ」

 スピアノはモエの手の上に自分の手を重ねている。

「早めに身を固めた方がいいですわよ。モエは美人ですから、ピエールのように言い寄ってくる不埒な殿方が出てくるかもしれませんもの」

「そう……ですね……」

「ええ、気持ちに正直になるのですわ、モエ」

 スピアノの言葉に、モエはすっかり黙り込んでしまった。


 自分の正直な気持ち……。

 モエはその晩、ずっと悩み続けることになったのだった。

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