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第100話 意外な組み合わせの来客

 モエは慌てて移動していく。

 一体誰が自分を呼んだのだろうか。それを確認するために、応接室までとにかく急いだ。

「お待たせしました。モエを連れて参りました」

 マーサがノックをして中に呼び掛ける。

「おお、ようやく出てきたか」

 中からは聞いたことのある男性の声が聞こえてきた。

「モエさん、無事でしたのね」

 ついでに聞いたことある女性の声も聞こえてきた。

 中に入って確認してみると、男性はピルツ、女性はスピアノだった。

 一体どういう組み合わせなのだろうか、モエは思わず首を傾げてしまう。

「えっと、スピアノ様と……ピルツさんでしたっけか」

「ほう、俺の名前を知っているか。名乗った覚えはなかった覚えはなかったんだが、子爵にでも聞いたかな? まあ、どうでもいいがな」

 ピルツは怪しく笑いながら話している。

「えっと、お二人はどうしてご一緒に?」

 ピルツの反応はとりあえず無視して、モエはスピアノに状況を尋ねている。

 なにせ、子爵領の領都の怪しいお店の店主と、隣接する領地の令嬢が一緒にいるのだ。不思議に思わない方がおかしいというものである。

「たまたまですわよ。わたくしがこちらに向かっている際に、この男性が前に飛び出てきましてね。危うく轢いてしまうところでしたわ」

「くっくっくっ、その節は悪かったと思っているさ。だが、少しでも早く届けるなら、この方がいいと思ってな」

「迷惑ですからおやめになって下さいまし」

 悪びれる様子のないピルツに、スピアノはぴしゃりと雷を落としていた。

「いや、悪かったって……。で、俺がここにやって来た理由なんだがな。これを持ってきたんだ」

 ピルツは先に自分の用事を喋り始める。貴族に囲まれているというのに、まったくマイペースな男である。

「わふっ」

「どうしたのよ、ルス」

 突然、ルスが吠え始める。

 留守は相変わらずモエの頭の上が気に入っているので、今日も乗っかっている。それにしても少し大きくなったようだが、大丈夫なのだろうか。

「おっ、頭の犬っころはさすがに分かるか。こいつは魔道具だ。今頃は子爵が王都で約束を取り付けているだろうが、それでもお前さんを狙うやつはこれからも出てくるだろう。お前さんは攻撃能力を持たないから、護身用の魔道具を頼まれたのさ」

「魔道具、ですか?」

 ピルツが差し出したものを見て、モエは首を傾げている。

「お前さんの癒しの胞子の力を増幅させるものさ。あんた自身には影響がないように調整してある」

「あら、どういったものですの?」

 モエよりもスピアノの方が食いついてきていた。

「このマイコニドの嬢ちゃんの胞子は癒しの胞子だろ? それを増幅させて相手を眠らせるのさ。眠りは究極の癒しなんだからな」

「なるほど。眠ってしまえば大抵の相手は無力化できますものね」

「そういうこった」

 ピルツの説明に、あっさり理解を示してしまうスピアノである。

「まぁ、用意できたのは遅かったみたいだな。でも、念のために持っておくといい。お前さんが願いを込めれば、発動できるようになっているし、止めることだってできる」

「ありがとうございます。頂戴しますね」

 モエはピルツから魔道具を受け取っていた。首飾り型なので、すぐさまモエは見つけていた。

「似合いますでしょうか」

「ええ、いいですわよ、モエさん」

 スピアノからはとても好評のようだ。

「ところで、スピアノ様の方はどういったご用件でいらしたのですか?」

 ピルツとの話が一段落すると、モエはスピアノの方に話を振る。まったくこういうところでは抜けのないマイコニドなのだ。

「私の方は謝罪でしてよ。婚約者のパーカス侯爵家がやらかしたと聞きましてね。婚約者として止められなかったわたくしにも責任はございますわ」

「そ、そんな、スピアノ様は悪くございませんのに……」

 突然の謝罪に、モエは困惑している。

「まあ、受け取っておきなよ、嬢ちゃん。貴族ってのはあんたの思っている以上にややこしい世界なんだからよ」

 様子を見ていたピルツは、モエにそのようにアドバイスを送っていた。

 それでスピアノの気持ちがおさまるのだったらと、モエは仕方なくその謝罪を受け入れていた。

「パーカス侯爵家に関しては、わたくしたちの方からも正式に抗議を入れておきますわ」

「しかし、パーカス侯爵家の仕業だと、まだはっきりしたわけではないはずですけれど?」

 謝罪は分かるとしても、抗議を入れるとは何事か。モエは状況を思い出して、思わず慌てて指摘をする。

「いいえ、知らせを聞いた時にすぐにピンときましたわ。そこでたまたま来ていたピエールに話をしたら、露骨に悔しそうな顔をしていましたから、間違いありませんわ」

 スピアノからはこのような答えが返ってきた。

 なるほど、スピアノはしっかりとした確証を持っているというわけのようだ。

「お気持ちは頂いておきます。ですが、やはりスピアノ様が謝罪をするのはおかしいです」

 モエもモエで一応謝罪を受け取りながらも反論をしている。

 ジルニテ伯爵家にはまったく責任がないのは明白だからだ。

「モエさん、ありがとうございます。これでようやく私の気がおさまりましたわ」

 モエからの反応が予想した通りだったこともあり、スピアノはほっとした様子で椅子に深く腰掛け直していた。

「せっかく来たわけですし、モエさんの作るお菓子が食べたいですわね」

「ふっ、それが真の目的ってわけかい」

「さて、どうかしらね」

 ピルツがツッコミを入れると、スピアノは笑ってごまかしていた。

 その後、モエが作ったお菓子が振る舞われる。

「ふふっ、モエさんは料理もすっかり上手になりましたね。以前よりもおいしいですわ」

「ほほう、こいつはうまい」

 スピアノもピルツも満足したようで、最終的にはいつものように和やかな雰囲気になるのだった。

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