正直人に化けた犬に見えるから怒って剥がしたりする気が起こらないのよね
「オウ水鏡冬華! 元気してッか! 力溜まってんな~!」
「うっさい、髪の毛逆立たせて変身でもしておけ」
と言いつつ、冬華は枕をレアに投げる。レアはボフンと顔でその枕を受けた。
「それとあんたボケるときも真顔のまんまね……。表情筋死んでるわけじゃないのは見てれば分かるけど。
そこが春女との違いね。
前わたしが言った気軽に接していいって言葉受けたんだろうけど、なんか違うのよね~」
水鏡冬華は、レアに関しては不思議な感情を抱いていた。
目で見ると女だ。
まぁ当たり前だ金髪の髪グリーンの目の色気もあるキリッとした感じもする女だ。だからメイドが主人といやらしー事をしようとしている、と取るのが普通だ。だが――
(飼っていた犬と本当同じ行動取るのよね。この子
寂しいとこちらを見ながら、おしっこをするとか、寂しいと飲み物のコップばぁーんと手でぶぉーんして倒すとか。
抱っこしろとさいそくがすごいとか。
さすがにおしっこそのものはしないけど、でも紅茶を机の足にわざと垂らしてこぼしている。ミハエルがいる時はミハエルを真っすぐ見つめながら犬がおしっこで嫌がらせをするように紅茶を机に垂れ流す。
今回の机のあの濡れっぷりもそうだろう)
この子は前世犬だったのではなかろうか。という考えが水鏡冬華から抜けない。
「正直人に化けた犬に見えるから怒って剥がしたりする気が起こらないのよね」
「よく言いますね、それ」
「アンタの顔見るたびに飼ってた犬思い出すからよ! シャルって呼ぶわよ!」
「それが飼ってた犬の名前ですか。犬種は」
「パピヨン。アンタ本名シャルじゃないの?」
「残念ながら。わたしはレアです。わたしみたいな人間はレアいです。どーです参ったか」
「…………確かに人間語を話す犬はレアいわね」
「まだ言いますか」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「すいませーん。おはようございますー、リディアですー」
ミハエルのドアをこんこんと叩く音と共にそんな声。
「どうぞ」
ミハエルが言うとリディアが入ってくる。
「どしたん?」
ミハエルがきりっとした顔に似合わず気楽な感じで言う。
レアはリディアにまだ慣れておらず、警戒しまくりな猫といった感じでふしゅーと警戒している。
「ミハエル様の安全のため、まずはわたしを通していただけますか? どのようなご用件か伺っても?」
ふしゅー。
「え?」
びっくりした様子で一度固まるリディア。
「あ、あ~。公爵様だもんね。いつも気楽に接してくれるから忘れがちだけど」
「いや、このままわたしに直接言って構わん」
「あ、いいの? そこのメイドさんめっちゃくちゃわたしにふしゅーしてるけど」
「よくありません」
「いいよ」
「よくありません!」
(この警戒の仕方もうちの犬と同じ……)
水鏡冬華がそんなことを思う。
「いいよ、話して」
ミハエルがそういうと、
「う、う~っ、メイドとして主人を守る行動したのに……」
とレアがティーポットを持ち、紅茶を机の脚に垂らす。犬が嫌がらせおしっこするがごとく。
しかも真っすぐミハエルの目を見つめながら。
その光景を水鏡冬華が半眼でみやる。
(やっぱ犬そのものだ……女同士って前に犬って感想が先に来る……)
「ちょっと。この人やたらあからさまに拗ねてるんだけど……」
リディアがびっくりといった感じで指摘する。
「いつものことだから」
「いつも……? これが……?」
リディアが言葉を反芻する。
「まあ、いつも……かしらね……」
半眼で水鏡冬華が答える。
「えと、えと、じゃあいうわね。
でも大したことないと言えばそうなんだけど」
「ん。この部屋の雰囲気だと話進まん恐れあるから内容をさくっと」
とミハエルがいう。
「ええ。あの……平和すぎて暇ってわたしのメンバーから苦情、苦情? まあそんなのが出てて……何か適度にスリリングな依頼ないかと思って……」
「良い事じゃん。暇で給料出る。世の中には奴隷労働しいられて給料雀の涙とかたくさんいるぜ? 特に第3次世界大戦で悪魔に占領された核汚染まみれで人間は薬と称された遺伝子改変毒薬で人間としての遺伝子失っちまってる地球なんか」
「それはまあ、そうなんだけど……毎日部下のひまひま大合唱聞くのもつらくなってきたといいますか」
「ん~、ヴァーレンスから北のファブリス諸島で超投資戦が始まりそうでうちらも一応参加するっていうのはあるけどね」
「超投資戦? なにそれ」
「要はいい資源もってる相手に機嫌とって相手にこっちに有利に動いてくれるよう促す行為だ。投資してうちのおかげであなたの街はこれほど発展しましたよー資源うちに融通してくださいね~って
それが一つの国からなら単純だが複数の国が関わってる場合」
「あ~なるほど。そりゃあ争いになるわね」
「しかも相手がついさっきいった君のいたカイアス国。この嫌がらせしてるメイド長の出身国でもあるけど」
「う。それは下手したら暗殺とか発生するんじゃ……」
「かもね。いやそうでもないかも国の内部結構がたがただから国の外でまで陰謀する余裕ないかも」
ミハエルは机の脚にとぽとぽと紅茶を垂れ流しているレアをみつつ続ける。
「という風に国の外に行く感じならある。この街じゃあ下水道掃除かな~行った? 冒険者ギルド」
「いったいった。見事に水道の掃除しかなかったわ。部下には不評だった。掃除屋さんじゃあスリルも何もないじゃ~んて」
「まあわたしいかないつもりだったんだけど超投資戦」
「え! そうなの」
「うん。投資で頑張ると国家貢献勲章てのがオーヴァン=フォン=ヴァーレンスより出るんだ。それを貯めると爵位と交換できたりする。投資により爵位も上がりますってわけだ」
「つまりもう公爵であるあなたには関係ない、と」
「関係ないとまではいわないが、メリットは少ないね~」
「それ、わたしたちだけでもいける? って投資できるほどお金なかった……」
「いけるけど君たちがいくならわたしのグループ参加してもいいよ」
「本当? 心強いわ~」
「じゃあオーヴァンくんと話付けてから君たちにも言うよ」
とミハエルは答えた。




