生霊さんこんにちは
「冬華。これ見える?」
ミハエルがそういう。ミハエルは目の前の壁を見つめているように見える。霊感なしの人からは。だがペットを飼った事のある人は思い当たる節があるだろう。ペットが虚空を見つめてそこに人がいるかのようにふるまうのは。
これは特に猫に多い。
「ええ、見えるわ。黒髪の、わたしが家族失う前の箱入り娘の時の雰囲気に似てるかしらね」
「彼女、結構前からの知り合いでね」
「え、と。今死んじゃったの?」
冬華の問いにミハエルはあきれた口調で返す。
「君なら分かるでしょ。これは――」
「ええ、わかるわよ。本体じゃない生霊ねこれは」
「今この時期に生霊が現れた理由――」
(ルシファーを崇める父との決闘。父が家庭内暴力で母を殺してしまう事が明白になった昔。ミハエルは母が殺される前に父を切り殺す事を決断した。
そんな時に、悲壮な声で、可憐な声であの決闘の時に声援飛ばしてくれてた声。あの場で悲壮で可憐な声でかなり印象強い。
『いや、決闘してるのわたしなんですけど』
といいたくなるほどだった。
「綺麗な子だよ。リィルは。生霊見えてるなら分かるだろうが、生霊まんまの姿だね」
「なるほどね……これ恋愛問題で出た生霊でしょ? ここまで強い生霊だとわかるのよどんな気持ちで飛ばしたか」
「まあね、彼女があの時から今までずっと思っているなら、こんな影法師を無意識に飛ばしてしまうのも無理ないか」
「写真撮ってみるわね。これ多分思いっきり心霊写真取れるでしょ」
パシャ。水鏡冬華は机の上においておいた魔導携帯端末で写真を撮った。
「霊感が強いと理屈抜きでわかるんだけどさ、普通の幽霊より生霊の方が怖いんだよね生霊払ってもすぐ増援来るからね、本体が無意識でエンドレス生霊してるから」
と、ミハエル。
ミハエルは自分の携帯端末を手にしパシャってからリィルに連絡を取るため魔導携帯端末を使い始めた。リィルは幼い頃から魔法使いとして優秀だった。魔導形態端末も使えるだろう。
「はい……」
リィルの声が聞こえて来る。元気があまりなさそうだ。
(生霊飛ばしてるんだ、元気いっぱいなわけないわなかなりエネルギー消費する、自分のダブルを生存させるんだから。"そのエネルギー"は"他でもないその人本体"から消費される。疲れないわけがない)
「ハロー。リィル? お久しぶり。ごめんなさいね朝早くにマジックフォンして」
「えっ、ミハエル様! い、いえあなた様ならいつでも、本当にいつでも、あなたの声聞きたくて、そんな気持ちで……あ、えと……どうしたんですか」
「いや。わたしの部屋にさ」
「はい」
「君がいるんだよ。といってこの現象わかってもらえるかな?」
「はい?」
「君魔法の扱い小さい頃から得意だったよね。自分のダブル作るの練習しなかった?」
「えっと、わたしの影法師がミハエル様の部屋にいる……といいたいのですか」
「はい。まさにその通りです。君のダブル写真に撮ったよ」
「は、はぁ……ドッペルゲンガーですか」
「君が作ったドッペル。取りに来てくれない?」
「え、えと……はい、わかりました。ミハエル様の屋敷に向かえばよろしいですね。急いで支度していきます」
「あんま急がなくていいよー」
「いえ、予想外のこととはいえ、あなたから招かれたんです急いでいきます」
「別に逃げはしないし。わたしから誘っておいて。それと色々昔話含めて時間結構とると思うからそのつもりで。昼ご飯くらいはごちそうするから。後、移動系の魔法使わなくていいから空飛んできたりせずに普通においで。待ってるから」
「はい。あなたとは、ずっと……」
「ずっと?」
「い、いえ。とにかく了解しました」
「あと冬華にも同席してもらう」
「あ……あなたの第一夫人ですか。は、はい、わかりました」
「第一夫人は冬華の友達の明日香~」
「あ、はい。すみません」
冬華のことを言った瞬間声が沈むのがはたから聞いてよく分かった。あと生霊の方も冬華を見て恨めしそうな顔をし始めた。
「やっぱ連動してる。そんな顔されても。出会いはできたけど縁をうまく繋げられなかったのはもうしかたないよ……。ごめんね、あなたより遅く出会ったわたしが彼と結婚して」
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「い、いそいで、き、きました。空飛ばずに、は、走って、き、き、ました。おまたせ、し、しました」
そんなことをいいつつ両手を膝の上に置きぜーぜー息をするリィル。白い服だから腕のあたりとか汗で肌が透けている。そして転んだのかストッキングが右ひざの部分で破けている。そこは血もにじんでいる。
リィルが湿っぽい目つきでミハエルを見つめてくる。
(この子、大人というには雰囲気が少女っぽい)
と冬華は思った。水鏡冬華自身実際の年齢より高く見える(24歳くらいから老化完全停止している)体だが、その彼女から見ても30歳どころか10代後半に見える。さすがにロリには見えないが。19か20といったところだ。
まぁヴァーレンス王国では、ルシファーに遺伝子操作されたノア(寿命1200歳)の箱舟以前の健康な遺伝子への修復が進んでいるので、彼女みたいなケースも珍しくはない。
そして飲み物を出しつつ、昔話を聞くに
『アタックするチャンスが見つけられなかっただけで、わたしが最初にあなたに恋に落ちた女で30歳となった今でも心は全く変わりません。今までプロポーズされたの全部あなたのために断ってきました』
とのこと。まあ機能不全の家庭を父をぶっ殺して無理矢理父に殺される前に母と水入らずに戻そうとか政治的なアレやで、20歳までは
『恋? 暇人のごっこ遊びだろ! おーおーめでたい事だな、男女ともに下半身でもの考える余裕があるほど幸せな家庭に生まれて!』
って気持ちだったからなー。リリーザみたいな強引に関わってくれる人じゃないと恋とか無理だったろうな~)
さすがに子供の時じゃあるまいしこれはわかる。
黒髪の直毛のロングヘアの女。リィルはミハエル=シュピーゲル=フォン=フリードリヒに恋していた。
(この目は恋の目だ)
それも25年以上前、すなわち5歳の頃から。
思春期まではミハエルと仲むつまじく暮らしている光景を理想として、思春期になり大人の男女が何をするか知識を得てからはその光景を理想の1つとして取り入れた。
だが実現はしなかった。
ミハエルは初の結婚はリリーザ=フォン=フェレという明るく意志の強い女で、内面が湿っぽいリィルとは違う感じで、とても自分が奪える感じではなかった。というか、あまりミハエルに近づくチャンスもなかった。
機能不全の家庭で育ったミハエルにはその時恋などする余裕がなかったからだった。その時の彼に必要だったのは母を家庭内暴力で殺そうとする父を強制的にでも止められる力だったのだ。リリーザがどう近づいたのが天の神様にでも聞きたかった。
その時ミハエルは13歳。リィルは8歳。リリーザは14歳。8歳の少女である彼女が剣聖と呼ばれる彼の父の暴挙を家庭内という密室で力づくで止める手段など、何もなかった。
持つ権力すら雲泥の差である。
そしてそれは親子の決闘という形で決着する。
その決闘はもちろん彼女も見に行った。その頃はリィルは髪は大人の時ほど伸ばしておらず、肩に触れるか触れないか程度だった。
決闘見に行ったが自分が涙と共にとばした声援はその他の声援一としてしかミハエルの耳に入らないのはうすうす感じでいた。
(が、彼女がそう思っていただけでその場ではかなり目立った声援だった。ミハエルがいちいち声援にこたえる余裕がなかっただけで)
リリーザが飛ばした声援にはミハエルはビクンと反応したのがリィルには悲しかった。
(わたしはその他大勢の一名、こんなに愛しているのに何もできない彼の心に住む事すら許されないの……)
決闘はミハエルの勝利で終わった。が、ミハエルもおびただしい出血でいつ倒れてもおかしくなさげだ。
おろおろしているリィル。
リリーザは自分の服が血で汚れるのを気にせず、ミハエルを支える。
そんなときにまで、嫉妬の感情が湧きおこる自分の浅ましさに呆れながらも気持ちの制御なんてできなかった。
そんなリリーザも21歳で、そして彼らの間に生まれた子どもも政争のあおりで全員処刑されミハエルも20歳で別世界に島流しにあう。
自分の初恋の終わりをリィルは認めねばならなかった。
(さすがに異世界に飛ばされてはもう二度と会えないと思ってきた)
でもミハエルは戻ってきた。不死身の皇帝なんて二つ名と共に戻ってきた、その知らせを聞いた時柄にもなくはしゃいだ。子どもの時にすら見せなかったほどぴょんぴょん飛び回ってはしゃいだ。
とそこにフレッドがやってきた。
「良いじゃん生霊だろうが美人でおっぱいでかければ」
「どこまで話聞いたんだフレッド」
ミハエルはあきれ顔でフレッドに応対する。
「おおむね」
「おおむねか。フレッド、お前みたいに男女何気に気楽に考えられたらどれほど人生らくなんだろう。本当羨ましいよ!」
「あ、フレッドさんお久しぶりです」
「ミハさんに惚れてるのまるわかりだったリィルちゃんじゃん。あれから全然あってなかったけど髪肩までだったのに大分伸ばしたのね。胸もだいぶ大きくなっちゃって」
「あ、はい。ミハエル様が長髪の女が好きと聞いて。胸は……見ての通りです」




