あああのあっ、手って手手を、握ってもらえますか
「さて。こっちの準備は終わったわけだが。
ムーンショッター側が問題だな」
「えっと、どう言う事でしょう?」
パオラ(陽夏)が尋ねる。
「今まで自分のものと思ってたスキルとお別れしないといけない。
それに抵抗を示す人は多いだろう。
ここで戦いが発生する可能性もある。
ルシファーの力DLしなくとも、遺伝子、人間のイントロンさえ修復すれば神の手助けできるくらいには超能力すぐに使えるのに」
じゃあと、陽夏が申し出る。
「わたしとグリンくんが100人のうちに戻って訴えかけましょうか? 死んだ二人ほどではないけどわたしたち2人ってムーンショッターのまとめ役だったんですよ」
グリンて誰だろ。と、ミハエルは思ったが横から冬華が注釈入れてくれた。
「わたしと斬り合う寸前までいった子ですよ。ほら女の子がいつもへばりついてる」
「ああ、君が大笑いした子ねスティィイイイタスだっけ」
「やめてよ、アレの真似不意できたら笑いそうになる」
あはは、と笑いを挟んでパオラが口を挟む。
「悪ぶった感じで無理してる感じ出てますよね、あの子。
なんかこう中学生の弟が悪い友達に合わせてるようなそんな無理な悪ぶりだなって感じてました」
と、話題の人物がやってきた。
「パオラさん。俺ってそんな風に見られていたの……? 中学生の弟が悪い友達って」
「あ、グリンくん。別に悪い意味じゃないよ。
むしろいい意味! いい意味だから!
ね! 悪い振りが似合わないって、いい意味だから!!」
両手をパタパタさせてフォローするがどこまで効いてるか分かったものではない。
「なんかパオラさん凛々しい騎士って雰囲気消えて姉ちゃんて感じしてきた……」
拗ねた表情でグリンがアリウスに呼ばれていくのが見えた。
「だってわたしの騎士スタイルは演劇みたいなものだもん~」
困った表情でそう呟く。
「わたし、他の人がステータスて叫んで変な画面出すのできないんですよね。
これってもしかしたらルシファーとの繋がり浅いってことじゃないですかね。
みんな強化したスキルがどーのこーの言ってましたけど、わたし剣Sくらいですし。後は自分の運動能力でどうにかなるかなって思って選びませんでしたし」
と言いつつパオラはミハエルが操作する遺伝子修理サポート装置の近くに立つ。
(この子、こんなこと言うなんてサリサと同じくらい素の運能力あったりして)
サリサ。ホワイトライガーの因子を持ったウンサンギガであり、ウンサンギガ=混ぜ合わされた物=分かりやすく言うなら獣人である。
そんなことを考えながらミハエルの視線はパオラの太ももで止まっていた。
真実は
”足を見て神が直接作ったホワイトライガー+人型のサリサにどれくらい迫れるか”
だったのだが、ここで真実を言う事になぁんにも意味はない。
端から予想される通りの、
”女の足に見とれていた。時間を忘れてしまうくらいに”
の方を甘んじて受け入れておく。
「わたしの足に何かついてますか? ふふっ」
パオラも世間一般の取り方をしたような。まぁそりゃそうだろう。男の視線が女の太ももで停止していればそう受け取る。
(確かに剥き出しの太ももとかストッキングに包まれた足によく視線は行くしなぁ)
とミハエルは心の中で独り言ちた。水鏡冬華が巫女装束を着ていない時はよくパンストで足を強調するファッションを見せつけている。
「いや、失礼した。気分悪くしないでくれ」
「ふふっ。むしろ気分いいですよ?」
ウンサンギガ。ミハエルの国ヴァーレンス王国にもたくさんいる。動物の耳に加えて人間の耳もあるから基本彼らは耳聡い。
歴史書を紐解いて見てもその名前でちらほら出ている。
それを意識して歴史の授業を受けると授業が面白くなる。
「ミハエルさんあなたなら、わたし失敗しても許せちゃいます。
もっと、いいですよ。がっつりさわっても、わたし……。
あああのあっ、手って手手を、握ってもらえますか。こう」
「いや、遺伝子修理で失敗したらオオゴトでしょ~
なんでもない風邪で致命傷おっちゃう体になるからねぇ。最悪。
これ基本、遺伝子がまともな人が取り扱って、霊波動で遺伝子狂ってる人を修理するのをサポートする装置だから失敗はまずないよ」
「ん……っ、胸もっと必要ですか?」
「なんか湿っぽいんだけど君の声……。
心臓と脳は自然には細胞が入れ替えしない再生しないのは分かるよね」
「はいっ!」
「だから心臓と脳は霊波動で一気に正常な物に置き換えるんだ、心臓と脳の時は――」
「はい! あなたなら、もっと触っていいですから! 一気に行ってください」
それを見ていた巫女装束の女――水鏡冬華は誰がどう見ても分かるような表情で足音も大きくミハエルとパオラ(陽夏)のもとへ行こうとする。
だが、十二単の女がそれを阻止する
「まあまあ。お二人の楽しみを邪魔しちゃあ悪いんじゃな~い、ねえ半竜!」
「あんた、わかってんでしょっ」
「まぁまぁアレはアレでルシファーのリンクちゃんと取れてんじゃーん。
霊気で感知してみなよ~
作業は順調に進んでるんだから邪魔しちゃダメ」
「ふっ、ぐぅぅ、ぐう!」
少し離れた所のそんなやり取りは知らずの二人。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「あーLNPが卵巣に溜まってるね」
「えっ、治るんですか。確かに女神に授かってからちょっとその、重いんですよね卵巣が。男の人に言うの恥ずかしいけどそんなの言ってる場合じゃないし」
「当然治るよ。霊波動で君の卵巣を浄化すれば、次から卵子正常になる」
「あぁのそれってそのさっき胸に手を当てて心臓に直接霊波動当てたように、その下にあぁあて」
「いや心臓や脳と違ってそこまでしなくていい。こう、ちょっと離れても、服の上からでも大丈夫だ。何も脱がなくていい」
「あぁ、な、なんだ。そうでしたか」
「そろそろ入れかえ完了。この後手足の皮むけると思うけどそれ正常な反応だから」
「あ、はい! わかりましたー」
お腹をさすさすしながらパオラ(陽夏)が言う。
「お疲れ様です」
「いや、お疲れなのは君の方じゃないかな。
全身まっさらに変えたんだこれでルシファーに穢されていない体に戻せた。
(穢されていない体……)
何となく陽夏はそれを胸の中で繰り返した。
剣Sとかは消えたけどそんなのまた欲しかったら学び直せばいいでしょ」
「そうですねぇ。髪も地球にいた時のように黒髪に戻ってる。あなたは黒髪の方が好きですか?
わたし、あなたの好みのわたしになりたい……。
あっ、あなた汗かいてますよ。わたしが拭きましょう」
グリン君もこれ受けてるんですよね今」
「え。まぁ、わたしは黒髪好きだけど。
グリン君はアリウス担当だからわたしよりうまいんじゃない」
黒髪が好きという言葉を聞くと、満足したような笑みを漏らすパオラ(陽夏)。
「黒髪に戻ったし陽夏って名前メインに持ってこよっかな~。
でもこれ100人近くするのは大変ですねえ。日が暮れますよ」
お腹をさすさすしながら陽夏が言う。特にお腹が痛いわけでもない。
「今何時ですか?」
「んー3時」
3時と聞いて陽夏が苦笑いを漏らす。
「日が暮れますね」
と、遺跡の方でどかーんばこーんという音が聞こえた。
女神(ルシファーが化けた)からダウンロードしたスキルを手放したくないため武力で反抗しているのだ……。
「そしてああいう抵抗。こりゃ日が沈むわ」