うるわしゅ
マリナとティムがようやく話しかけてきた。
「ミハエルさんごきげんよう」
「うるわしゅ」
ごきげんようにてきとーな挨拶を返すミハエル。
「な、なんですかその返し」
「いや、ごきげんよう言われたらこう返す事にしてるから……
映画出たい?」
「出たくありません!」
「あ、そ。やりたい事できた?」
「う~ん、奴隷のままでいたいという人が意外に多かったのが意外でした」
マリナの言葉にミハエルが続ける。
「まあ自立しなくてもやっていけるからな。自立めんどいという人間もそこそこいる。
異教徒は人間じゃないという理由で奴隷をムチで打て船漕がせたり兵士にしたりするのは国が亡ぶ最後期だけだ。
それ以前は戦うのは『市民』の義務だから奴隷に戦わせる事はない。
カイアスの奴隷と地球とかいう地獄の球の現代のサラリーマンは基本的に同じ。
『サラリーマンやめろ! 悪徳政治家に逆らえ! 目立って富裕層に反逆しろ!』
って言って正直にうんという人少ないでしょ。
地球の方がひどいけどな。日本人なんてカイアスの奴隷より労働時間が長い。
僅かな娯楽を与えられて、満足させられて奴隷の自覚も失わされ自分を守るための闘争もしない。搾取に格差に社畜という言葉、実際そうだろう。
その影響かこの星、火明星にまで転生ブームしてるしな、
『もう、奴隷制度の時代は終わったんだ!←実質変わってないのに口で言っただけでした』
日本の大多数のサラリーマンなんて、自由民の名札を付けられてるだけの奴隷みたいなもの。
それから逃れるためにムーンショットで転生だ。火明星としては迷惑。自分の星で解決しろや日本人。富裕層なりなんなりと戦って解決しろよ他の星に転生すんな。
全員で茹でガエルの『日常を捨てて体制に逆らえ』
平和の道はそれしかない――とは言わないけど、たった一つの冴えたやり方はそれだよ。
冴えない下手ならもっとあるだろう。仮初めしか手に入れられないやり方なら。
だからさ。政治的なプロセス必要だと思うよ。
そりゃあむち打ちひどーい死ぬ程労働させてるとかはすぐに止める必要あるけどさ。
だから君たちの現場で奴隷解放って思ったより効果ないのよ。
大体、奴隷から飛び出したい人は自分で自分を買って、奴隷解放を、大いなる自由を自分で行っている。つまり当人が助けを求めてこない限りは空回りになる可能性が大きい。
奴隷制度があろうが、翼を持ってる人はとめられんよ、心の翼がざわめき立つ。殺してもこの世から自由になるしな。羽ばたける。
自由とは何か、自らの自由を買う解放奴隷こそよくわかってるんじゃないのかな」
「…………」
「君は我慢できずに目の前の何かに飛びついて何かやった感を出そうとしただけさ」
「…………それでも、何かは変わったと思いますけどね」
ティムがマリナをフォローする。
「まぁね。今回の経験を何か活かせればいいんじゃないかな。
「で、カイアスに住むのヴァーレンスに戻るの」
ミハエルはマリナとティムにそう尋ねる。
「戻ります」
マリナがそういう。
「もっと勉強が足りないというのが分かりました」
「自分が至らないと分かれば十分じゃないの。自覚できればそこから成長できる」
マリナは仏頂面でその言葉を受けた。
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「さて。カイアス王国でやり残したことはありませんか」
ミハエルが皆にそう告げる。
「わたしはなし! 水鏡冬華と桜雪さゆは!」
ミハエルが問う。
「ないわね」
「ないよーん」
「マリナ、ティム!」
「ないです」
「できる事はとりあえずしたんじゃないかと」
「フレッド、勇者ジェムズ!」
「ないよ」
「ないぞ! はっはっは」
「鬼頭千紗、リュディーナ=ローズ!」
「ん、ない」
「ありません」
「フローター・クレーヴ!」
「ありません」
「ないよー」
「ありませんわ」
「ないです」
「あの、ちょっと……」
「どうした、リディア?」
「少し心残りが、服も持っていきたかったかなって」
「あー……。君たち仲間への入り方がああだっだから服持っていく暇なかったな。
飛んでいくか。船までの時間まだあったよね。
リディア空飛べないなら、おんぶ。わたしがおんぶするから」
「え、ちょ、恥ずかしい……みんな見てるのに」
「そんだけミニのタイトスカートでもおんぶする一時的な時以外パンツ見えないって。わたしの背中が君のパンチラ防御するから、ほら」
「う、うん……」
リディアがミハエルにおんぶされる。
「それじゃちょっと行ってくる」
「気をつけてミハエルさん」
おんぶミハエルが霊波動で空を飛ぶ。リディアから場所を聞くとアジトはヒメネスから西にいった海沿いらしい。
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霊気をそこまで惜しまず飛んだので、歩いて何日かのところを1時間もかからずに行けた。
「寒ーい~足! 足が凍り付く! 足がー! 雪降ってる時に気合いで素足で投稿する女学生みたい!」
リディアの足がガクガク震えるのが分かる。
「我慢して! いや、寒すぎておしっこしたくなったら我慢せずいって! いくら美人のでも背中おしっこまみれになるのは勘弁」
「そ、そんな事しないわよ! ……多分。てこんな時に言うのもあれだけど美人って言ってくれてありがと」
「いや、実際美人だから…………本当我慢せず行ってね」
「うん……」
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ミハエルとリディアは、空き家と分かる家に訪れた。
「ここが君の家?」
「空き家勝手に使ってるだけだけどね。魔導器具わたしが魔力出せば使えるからお風呂も台所も使えるし。井戸もあるし」
「なるほどね。魔道具は便利だもんね。他の金儲け機関と契約しなくてもお湯出る明かりつく」
「そーそー、わたしたちフローター・クレーヴみたいに戦争で女5人片寄せ合って生き延びなきゃいけないって立場には助かるわ」
「服そんだけ? 何か入れるもの……これかな。これに服入れな!」
「ん、ありがと」
そんな様子で服を詰め込んでリディアとミハエルは家を後にし、再びスパロウへ飛んだ。
びゅううううううう!
風が強い。かばんから何か飛び出す。
「ちょ、パンツ空飛んでる! ちゃんといれてない!
ああっ、あれ部下……じゃなくて、わたしの! ううっ取るからあっちに寄せて! あああ!」
「これ放っておいたら怪奇現象になるな。空から少女どころか女の着ている物だけが! って」
「そんな恥ずかしい現象起こさせないわよ!」




