陰きわまれば陽に転じ、陽きわまれば陰に転ずる
モンテーロを南に発ったミハエルたち。スパロウに再び舞い戻るために。
盗賊を警戒しないといけない。とはいえ、これまで暴れてきた噂でも広がっているのか、ミハエルらには襲ってくる乱暴ものはいなかった。
こうなると、暇つぶしは会話しかない。
「ミハエルさんの国ってどんな国なんです?」
リディアがそんなことを聞いてくる。
「日は霊であり、心であり、これは『霊主体従』と言って、精神的な事を先行させる国である。だからこの星で一番霊気が発達している国なんだ」
「……結果だけを追い求めはしないってこと?」
「そうそう。あと言霊信仰も強いね。他でもない男の天照と竜神瀬織津姫。それに闇霎がヴァーレンス全土に言霊で結界を張っている。神が直接、大地、人民を守護しているわけだ」
「神が直接守護してるなら安全ね……」
「まあね、完璧ではないけど」
「そーなんだ」
「なんでも完璧を目指そうとすると穴が大きくなるものなんだって。
神の結界に関しては、厳格なる秩序を快く思わない不快に思う邪神たちが一斉に共謀し、男の天照に隠退を迫った。つまり綺麗なものによってたかって泥を塗りたくなるって心理だな結界によって来るってのは
それが壊れると、体主霊従(物質尊重主義)に堕ちる、人民がね。
人心に邪な思いが発生し、物欲が芽生える、嫉妬、怨恨、猜疑などにより世が乱れる。
『自分さえよければ、人は倒れようがどうなろうが知ったことではない』
と言う
『われよし、強いもの勝ち』
の世が降臨する。今のカイアスみたいにな。
そして秩序を失った人民は、自己の利益を肥やすため、力を振りまわす。破壊のためにな。殺人包丁を。
人が人を殺めると言う、恐ろしい時代が発生した。
悪魔が最も喜ぶことはなんだい?
それは人が憎しみあい、妬みあい、罵りあい、傷つけあい、殺しあうこと、そして神(=自分より高次のものすべて)を否定することだ。
悪魔は、こういった人類の破壊の気持ちときたない言葉、行いなどの邪悪な気を自らのエネルギーとして強大に成長していってる。
戦争は最も悪魔が成長する、彼らにとってなによりめでたいお祭りなんだよ。そして生け贄の儀式でもある。人いっぱい死ぬからね。
では、悪魔が一番嫌がる事、苦しい事は?
人類が愛と善をもってお互いに和合することだ。
『戦わないで問題を解決する』
悪魔を退治するベストな方法が戦わないこと。和合こそ悪魔退治って言うのを義務教育で学ぶ国」
「へぇ~しっかりしてるのね」
リディアがそう返す。
「しっかり、とまではいかない感じかな。大人でも理解していない人多いし、がっちりはしないよ。こんなん自発的にさせずにがっちりしたら洗脳に近いしな。
陰陽思想も同じだ。
陰きわまれば陽に転じ、陽きわまれば陰に転ずる。
完璧を求めると魔がさす。
逆さ柱の意味だよ。
何事も80%くらいでいい、100%はダメ、て事さ」
「なるほどー、カイアスよりは良さそうね」
リディアがそういう。
「まあね。そしてヴァーレンス王国でそう言う事を理解した連中が増える事に超能力の使い手も増えてきた。
が、失ったテレパシー能力を取り戻した人はごく一部だ。
テレパシー能力を失った人間は言語によってコミュニケーションをしている。
名前などの基本語が多くの世界で共通しているのは、もともと人間が共通のテレ
パシーの世界でコミュニケーションを取っていたからだ。
テレパシーを失った後、色々な言葉はそれぞれのコミュニティーによって独自に命名され、また集団の思考の仕方により言語上の文法が民族によって特徴づけられた。
言語によるコミュニケーションっていうのは、耳から取り入れた音から意味のある音を抽出し、特定の単語に当てはめ文節を構築し、前後の文節から意味を取り出すというプロセスを辿らなければならなくなった。
また音声を発するために口の形や舌によって音を振動させなければならないから、文字からの情報に比べてもより多くの時間を要するようになったんだよね。
結果音声を発し、その時間の掛かる情報発信にタイミングを合わせて音声をサンプリングして意味を分析するため、脳内におけるのコミュニケーション処理能力は、情報を直感によって得て居た時代に比べ数千分の一以下の遅さでしか認識できなくなった。
言語処理というのは、テレパシーありの時に比べて、脳の処理速度を人間が本来持つ能力の数千~数万分の一にまで劣化させることとなった。
この数千~数万分の一の脳の劣化をバベル現象と呼んでいるらしいな。他の星では。
人間の脳がMAXでも3~5%しか働いていない理由はここにあるんだ。というのも義務教育で学ぶ」
「そ、そんなの学んだ覚えない……」
リディアが言う。
「だからカイアスの民は粗暴なの多いんじゃない? 目に見えるものしか信じない連中てのは、粗暴なんだよな話してて! 自分の歴史を受け継ごうとしない種族は野蛮だ」
ミハエルが呆れた口調で言う。
「以心伝心。阿吽の呼吸。これテレパシーが化石化した能力だよ。
こっちならヴァーレンス、地球って第3次世界大戦で悪魔に占領された星なら日本人。彼らは遺伝的に太古の神人の特徴を最も多く継承している。
瞑想によって脳の働きを3歳児のような無垢の状態に保ち、直感的に情報を認識する訓練をすることによって封印を解除し失われた能力開眼することができるんだけど……」
「お話し中、悪いんだけどね息子さん」
リディアの横から桜雪さゆが口を出す。
「なに?」
「前。あの外見は10代の男の子、ルシファーのオーラある」
「あ。今すれ違うあの子ね赤い髪の男の子。女みたいに髪伸ばした直毛」
「うんうん」
「適当にあの子供のルシファーのリンク外しといて、さゆ」
「おっけー」
と桜雪さゆはすれ違うタイミングで10代に見える仲間に囲まれたその子に話しかけに行く。
「こんにちは~」
「あ、はい。こんにちは」
「あなた転生してこの星にきたの~?」
「え、ええ。まあ」
「わたし富士山出身。富士山」
「え、ええ! そうなんですか」
「そうそう。だからお茶にはちょっちうるさいよ~」
と同時に特殊な波長の妖気を10代の男の子に当て始める。
「あの、なんですかこれ」
「木花咲耶姫から教わったおまじない~悪魔ルシファーの力に捕らわれている人を開放する方法」
「木花咲耶姫って、富士山の……神?」
ピンクのもやが10代の男の子を包みこむ。
変化が見られた。
ピンクのもやに包まれた10代の男はその姿を変化させてゆく。
背は伸び、姿は大人っぽくなる。
「これは、これは、元の姿に!」
10代の男の子は、背広姿の40歳くらいの姿に変わっていった。
「おい! ちょっと! 元の姿に戻してくれ! あれ!? スキルも使えなくなってる! ちょっとー!」
「それが元の姿じゃ~ん、ルシファーにいい夢見せてもらう悪魔のいい夢タイムは終わりよ~その姿があなた! 錯覚しないでね。それがあなた! そーれーがー、あなた! いい夢、みれたかな?」
「違う! 違う!! さっきの、10代の姿で赤い髪で色んな魔法使ってる時のが元の僕だ! 会社員の姿は違う! 戻してくれ!」
「戻せってまたルシファーのリンク繋げってー? そんな悪魔みたいな真似、木花咲耶姫の右腕のわたしができないよ~」
「とにかく早く戻せ! 脳天生娘かと思ったら化け物かよ!」
「無理。悪魔と同じ行動無理。アンタそれ何言ってるか分かってる? 人は結局見たいものしか意識にしっかり入らない=ムーンショットさせろってわめいてるのよ。脳だけの化け物にならないうちに気づきな~。
人間電池にされかけてるよ~ルシファーに~。
空間と時間の制約→ たとえ部屋の中でも仮想現実の中だから平気
身体の制約→ たとえ身体が不自由でも仮想現実だから脳さえ動けば平気
脳の制約→ たとえ自分の脳で考えなくてもAIが考えてくれるから平気
自分がどれだけムーンショットされてたか元々の体で考えてみな~じゃあね~」
背広男のお供が必死にさゆに攻撃を仕掛けてくる。
「いやぁん~上半身と下半身ぱっくりいっちゃった~」
と背広男の取り巻きの攻撃に合わせて上半身と下半身を分離させ叫んださゆは嬉しそうにはしゃぐ。
さゆの上半身は踊っているかのように腕をぶんぶん振り回し下半身も踊っているかのように下半身だけで踊っている。
さゆがまず下半身を最初にミハエルのところに戻し、上半身が遅れてミハエルのところに戻る。
「ルシファーリンク取ってきた!」
「ちょ、お供追いかけてきてんじゃない」
と、向こうから襲い掛かろうとしてくる相手のお供を見て水鏡冬華。
「どうしよっか、焼き殺すのもかわいそうじゃない」
「それはやりすぎね。あんた炎出力上げすぎると空間どころか時間まで燃やし始めるからねえ、現在未来過去が燃えてバラバラにくっついちゃって逆因果で過去改変しちゃうからね」
と、水鏡冬華。桜雪さゆはう~ん、う~ん、と悩んだ後、
「アリを潰さないように掴むのって大変なのよね。木花咲耶姫さまも、力の低い時のわたしにそう思ってたのかな」
「かもね。それだけでもないと思うけど」
と、水鏡冬華がさゆに答える。
「結晶火炎陣!」
さゆは相手の周りを結晶と火炎陣で包んで身動き取れなくする。
火炎は妖気由来の炎なので酸欠にするしないはさゆの自由。八百万の神に混ざってもトップクラスの強さを持つ桜雪さゆは、意志で物理法則捻じ曲げ放題であるからしてそこらへん自由である。
「まあ、火炎陣の結界術やんわりなら大丈夫でしょ」
水鏡冬華がそういう。
リディアが前を見て声を上げた。
「スパロウですよ! つきました!」




