モンテーロの聖女は春女でビビる
妖怪春女桜雪さゆは、モンテーロの聖女について調べていた。
まずは聞き込み。
「おばちゃーん、モンテーロの聖女って何~? わたし観光客だから分かんなーい!」
「ええ? あの聖女はいずこから出てきてねー」
「うんうん」
まとめるとこうだった。
ある日なんか癒しの力を振りまく女が現れる。
カイアス王国は彼女を利用しようとし始める。
うまくいけば彼女ひとりで軍隊を不死の軍団に近づけることができる。
あわよくばヴァーレンス王国にも勝てるかもしれない。
しかし、聖女は自分の力の軍事利用は拒む。権力の狗としては活動したくないという。
というわけで、カイアス王都のカイアスから適当に距離置きつつ、適当な教会から教会に移り住みつつ放浪癒し手として生活しているらしい。
あと聖女はトランプが好きで暇なときは周辺の子どもとトランプして遊んでいるらしい。
それと雷が怖いらしい。凍えた犬のように震え始め、しまいにはおしっこもらしたとかなんとか。
「気を探ったけど聖女とやら悪魔とリンクしたパワーで癒してるわけじゃなさそうね……黒いオーラはない」
悪魔は奇跡を演出させるため癒し手の能力を与えることはよくある。
別に悪魔の目的は人間を殺す事そのものではない。癒しで悪魔を信仰させるにはちょうど良い手口だからだ。
「あそこだねー。わたしもトランプまざるか~」
桜雪さゆは、子どもと聖女がトランプで遊んでいる、切り株のところへ歩いて近づいていった。
「わたしもー混ぜてー!」
「あなたは……ここら辺では見ない人ですね」
と聖女。
「うん~、観光の帰りでね。ここより南にあるスパロウの港町まで行って、ヴァーレンス行きの船に乗るつもりなんだ」
「そうなんですか……それってマリーローズの服装ですか?」
「え? これ十二単だよ? 今地上でこれ着てる肉人形いるの?」
「肉人形……?」
「マリーローズってどこだっけ?」
「えと、ここから東の方、水色の竜神が下界に怒りこの大陸の5分の1を一撃で消し飛ばした――瀬織津姫の怒りと呼ばれる海になってしまったエリアの海底都市です」
「瀬織津姫さまかー闇霎さまほどじゃないけど竜は怒ったらすごいのよね~怒り貯めて貯めて吐き出すから竜神て」
「…………」
「ああ、そこの着物と似てるんだわたしの十二単。竜宮城意識しておけばいいのかな」
「竜宮城……話には聞いた事あります……」
「ゲームしながら話そうよ、子どもたち暇そう」
「あぁ、はい……」
「こっちにもカード頂戴~」
そしてゲームしながら数十分情報を得る桜雪さゆ。
「しかしこの街は平和だねぇ~わたしたち盗賊団に何回か出くわしちゃったよ」
「え、大丈夫だったんですか?」
「あ~大丈夫じゃないね」
トランプのカードを出しながら、さゆ。
「え、連れの方に大けがした人が出たんですか? その人のところに連れていってください」
トランプを伏せて置きながら、準備態勢に入ったような聖女。
「え。いやーわたしの相手した盗賊結構怯えてたからなあ」
「え、いや、盗賊側でなくって、あなた方の事を言ったんですが……盗賊側も悪い事しないって約束させたうえで癒さないといけないかもしれませんが……」
トランプを再び手に持ち、トランプのカードを出しながら、聖女が言う。
「いやー最初こうやってね、ずどーんてね」
と言いつつ桜雪さゆは左手のひらを天空に向けて春雷を放つ。
ドガガガァァァァァァァァァァァァァァン!
桜雪さゆの左手のひらから雷が空へ向かって走ったようになる。音無用にたてるように構成した春雷だ。
「ひゃゃうううぅぅぅあああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーああっ!!」
聖女がそれを見て泣き出しそうな顔で、というかほぼ泣き出している状態で体を硬直させながら叫び声を上げる。足がガクガク震えている。もちろんトランプはその場に落ちる。パラパラと。
ニヤァッ!
妖怪といえばいたずら好き。桜雪さゆは妖怪の例にもれずいたずら大成功に満足してニヤニヤ顔を隠せなくなった。
(この人、悪魔です!)
聖女は、自分の怯えっぷりを見てにやりとする――その顔を見て春模様の十二単の女は悪魔だ、そう確信したという。
「もっかいうつ~?」
ともう一回撃ちたそうなさゆに、子どもたちは
「うるせー」
「音すっげー」
「うるさいよー」
とぶー垂れる。子どもたちより聖女が一番怯えていた。
と――
バササッ! ボキボキボキ! ドカァァァァアアン!
と変な音が聞こえてきた。
「ちょっと。わたし何か撃ち落としたっぽい。向こうの木に引っかかって落ちたっぽいよ、この悪魔の気、ちょっと感じたことある……」
向こうの大きな音がした木によっていく桜雪さゆ。
天使然とした生き物が倒れていた。が、桜雪さゆは騙されない。気の波長を天使に見せかけても悪魔である。ドラゴンに乗っていたようだがドラゴンはさゆの春雷で即死したようだ。
「あーっ。ヴァラクじゃん。お前召喚も何もしてないのに出てくんなよー。
お前、聖者のふりして聖女とか量産してないだろうなあ! お前天使じみた姿するの好きだからなあ!」
ヴァラクとはレメゲトンに乗っている有名な悪魔である。
桜雪さゆはそれに対して喧嘩腰で対応する。
と、聖女もよちよちと走ってきた。彼女は162cmの桜雪さゆより頭2分の1ほど小さい。
「聖女ちゃんもきたの~? 聖女ちゃんはヴァラクから力もらって癒しの力得たの~? もしそうなら、わたし、あなたの事、最悪殺さないといけないよ?」
「えっ、こんな天使知らないです……!」
「天使の格好してるけど悪魔なのよね~ルシファーもかなり天使然としてる。ドッペルゲンガー的行動好きなんだから悪魔って」
といいつつ春雷を音過激にせずヴァラクに連発する。
ドキュウウウゥゥゥンン! ドキュウウウウゥゥゥウウゥゥンン! ドキュウウウウゥゥゥゥゥンン! ドキュウウゥゥゥンン! ドキュウウウウゥゥゥウウゥゥンン!
「わたしの妖気に押されてやんの。気の差が大きすぎてヴァラク、あんたこの距離だとわたしの妖気が邪魔でろくに動けないじゃん!」
悪魔にケラケラと笑いを浴びせつつ光の衝撃波を連射するさゆ。
「消えろ! 天使ぶる悪魔! 貴様の死因は立ったからよ! そして貴様の死因は生まれてきたからよ! あはははは!」
「貴様反則だぞ! お前ほどの強さを持ってるモノが下界で活動するなんて」
「ええ? ヴァーレンスだとわたしどころか木花咲耶姫様だって普通に道端歩いてるよ? 神が世界作り始めた時の、神代七代王朝ヒノモトと同じ光景だよ」
言い終わると、桜雪さゆは、バク転するような感じで逆立ちするような体勢をとって、いったん体を縮め、両手で地面を押し、両足をヴァラクに向け突き出す!
ヴァラクは顔を蹴られ勢いあまって天空に放り出される!
天空に放り出されたヴァラクを妖力による飛行で追い抜かして、ヴァラクの背中に春雷をお見舞いする。
ドキュウウウゥゥゥンン!
とどめの春雷がヴァラクを貫く。
「さよなら。といってもしばらく魔界で体レギオンで再構成だろうけど。あんたも一回体粉砕したんじゃ致命傷にならないもんねえ。軽いかるーいダメージ」
「くっ、お前が近くにいた事が敗因か……計算外の行動ばかり起こすからな、木花咲耶姫の右腕は。レギオンで再構成中に入るからといって何もできないと思っていろ、ふふふ……」
そう台詞を残してヴァラクが消える。
さゆはゆっくり地上に戻って聖女の隣に立つ。
「もしかして今の強敵だったんじゃ」
聖女がそういう。
「まあ、わたしからしたら楽ってだけで下界の肉人形は泡吹くレベルかな?」
「木花咲耶姫の右腕って言われてましたけどさゆさんて……一体」
「木花咲耶姫様の巫女? みたいなもの。わたしは、地球って星の富士山のマグマの中心部で生まれた雪女だよ! だから火にも水にも親しいの。
『水火相入る』
って神に通じる極意そのままの生まれをしたからこういう性質持ってるわけ」
そしてさゆは聖女に背中を向ける。
「それじゃ聖女ちゃんまたね~もっと背伸びましょうねーちびっこちゃ~ん」
「う、うるさい……です……!」
背をいじる挨拶と共に、背を向けて振り返らずに手を振ってミハエルらに合流にしいく桜雪さゆ。




