別れの季節
(水鏡冬華が、あの子やばいって言うのはなんとなくわかる)
家庭に問題ある子だ。
その眼、そういう瞳をしている。家庭内に彼女を怯えさせる何かがある。それが親なのか何なのかは分からないが。
たぶん、鬼頭千紗は、家庭内に居場所はないだろう。もしかしたら食事も出してもらってない。自分で作るぶんには何も言ってこなさそうだが。
(じゃないとあの豊満さは維持できない。
「ふう。どうして非凡な人間てのは不幸な星の元に生まれるんだろうな」
「ミハエルさん?」
「ん~? 思いを巡らせてたのさ。
千紗って子、美人で他にも才能ありそうだったけど家庭やばそうだなって思ってさ。
君も幕末で苦労した。
わたしも母親――人として地上に降りてた闇霎がルシファーに魂を売った父親に殺された、それにわたしが怒り狂って決闘の形で父の首を跳ね飛ばした、それが13歳の時、わたしはその時に瀕死の重傷を負った。で、わたしは20歳の時に異世界に島流しにあった。
子どもの時は家に帰ったら台所で父親にあばらへし折られた血まみれの母が倒れている、それが毎日だった。太陽が沈もうが家に帰りたくなかったそんな子供時代。
フレッドだって苦労した。今は弟のランドル=ローレンスと気楽にやってるけど。
アリウス君だって前の世代の根性腐ったヴァーレンス貴族に恋人殺されてわたしと同じように異世界に島流しにあう所だった。
不幸が付きまとわなかったのってサリサくらいじゃない? さすがホワイトライガーの因子を持つ破邪の属性。寅年。天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊《あまてるくにてるひこあめのほあかりくしたまにぎはやひのみこと》が直接作り上げた知的生命体だ」
「まあ生まれ方の時点で全然違いますからね、サリサ。お父さんが男の天照みたいなもんでしょ」
「まあねえ」
と鬼頭千紗が戻って来た。
「あの彼、君の彼氏じゃないの?」
ミハエルが問う。
「違います」
「…………そう」
(恨めしい視線で睨んできてるんだが)
ひと悶着あるかな……と警戒しておく。
「ついてくるつもり?」
「とりあえず親に挨拶に行った方がいいんじゃない? それなら」
とミハエルが言う。
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「お姉ちぁぁぁぁああぁゃん! 何嬉しそうな顔してんだよ! その貴族のお世話したのかよおっっっっっっっっっっっ!」
ガッ!
ヒュン――!
鬼頭千紗によく似た、背丈も同じな鬼頭千紗を姉と呼びその姉に右足で顔を蹴り飛ばす位置で蹴りをぶち込んだ彼女。
だが、蹴りはクロスアームブロックみたいな防ぎ方を左側でしたミハエルに防がれ、その後の動きは、水鏡冬華のヒュンと風を切った居合い抜きで制される。
鬼頭千紗は、とっさに途中に入った2人のおかげで吹っ飛ばされて顔を怪我するコースにならずに済んだ。
刀、水鏡冬華に居合い抜きで首に刃突きつけられてるのに、構わず姉だけに食って掛かる妹。
「おい、黙ってんじゃねえよお姉ちゃん。姉ちゃんお前浮かれてたもんな! 出会いの季節イベントが近づく度に。
で今割って入った貴族っぽい男ひっかけて自宅に凱旋かよ。
楽しかった? ブラなしお乳で貴族の男惑わせて楽しかった? あんたモテるもんねえ、お姉ちゃんってくらいくらい暗~いから、陰キャ男でも行けるんじゃないかって希望持たせちゃうもんねえ! アハハハ、罪な女! このっ!」
割って入ったミハエルと水鏡冬華を無視してお姉ちゃんにばかり食って掛かる妹。
水鏡は、警戒は解かないが、刀を突きつけるのはやめる。
「ひぐ、ひぃぐっ、ごめんなさい。萌……」
萌というのが妹の名前だろう。
(だから鬼頭萌という事になるか)
「泣いてんじゃねぇよ、愚図がっ!」
「ひぐ、だって、サイズあうブラ高くて買えない、ひぃぐっ、ごめんなさい、ごめなさ……」
その場でうずくまりかけた千紗の胸ぐらをつかみうずくまることすら許さず姉に向かって吠える萌。
「おいやめろ。横で見ていて気分のいいもんじゃない!」
ミハエルが声をあらげる。
「危険視した子だけど、ボコボコに殴られるのをスルーなんてできないわ、いますぐ乱暴はやめなさい!
何なの、実の姉の顔にいきなり飛び蹴りって! あんた頭狙うって殺意あるってみなされても仕方ないわよ!」
(顔が似ていてもこうまで中身が違うなんて)
自分と姉とは違いすぎる関係に水鏡冬華は内心仰天していた。
「……ふん。あんた、危険視云々は賢いよ、わたし結婚まで考えてた彼氏お姉ちゃんに取られたもん。ま、その彼氏も捨てたようだけどね、こいつ」
一応乱暴はやめるようだ。妹の狂暴性に気を取られて気づかなかったが、父親が扉開けて見ていた。だが心配している顔ではない。
父はごみを見る目で千紗を見ていた。
「うぅぅ……うあぁぁ……!」
千紗のくぐもるような泣き声がその場に響く。
「なんなんだ、この家庭は……機能不全の家庭で育ったわたしですら戦慄するんだが……」
とミハエルが気を抜けない様子でいる。
「訳が分からないわね。頭病めそう」
水鏡の家族は戦乱で消え去ったが家族仲は良かった。そんな彼女ではこの光景は理解できない。
刀を未だに抜き身で持ち鬼頭妹を警戒する水鏡。
フレッドと桜雪さゆが子どものように鼻水まで垂らして泣きじゃくる鬼頭千紗につきっきりでいる。
「ミハさんこれは挨拶どころじゃねえよ……」
フレッドが鬼頭千紗の顔を覗き込んでそういう。
「いや、形式的にでもやっとくさ」
そういって鬼頭父のとこに歩いてゆきお金を出して父と交渉を始める。
しばらくたってミハエルが戻ってきた。
「90万ウサギ。即金ではらってきた」
ミハエルがそれだけいう。手をひらひらさせつつ。
「もっとぼってくるかと思ったら安いな、カイアス王国の人の価値。コーヒー4500杯かー」
とフレッド。
この国では人は時としてただの商品としてあつかわれる。家族からも。
「俺たちの国に来る?」
「……うん……連れてって、捨てないで……置いてかないで……」
フレッドの言葉に肯定の意思を示す鬼頭千紗。
「……何か、大事なものあったらもってきなさい、千紗」
「あぁ、替えの下着とか何着か取ってきた方がいいわね」
ミハエルがしゃがんで目線を合わせてそういう。水鏡も言葉を重ねる。
そしてミハエルが水鏡冬華をじ~っと見つめる。
「な、なによそんな顔してミハエルさん! あんなの見せられたら置き去りなんて無理でしょ…………わたしもそこまで鬼じゃないわよ……はぁ」
「鬼頭ちゃんには別れの季節、かねえ」
フレッドがしみじみ言う。




