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太陽よ、ムーンショットを止めろ!  作者: 白い月
カイアス王国潜入
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夢見る人よ、この物語は、あなたが胸に秘めてるその切符を持ってる人専用よ

 水鏡冬華はどんどん目がつり上がってゆく――

 暴漢に手を出そうと拳を出そうとした瞬間。

 暴漢が横に吹っ飛んだ。暴漢は壁に打ち付けられる。

「逃げよ」

 水鏡冬華にはそのミハエルの声がとっても優しく聞こえた。

自分が夢の世界にいる、そんな感覚に包まれる。

 そして自分に向かい差し伸べられているミハエルの左手、なぜかわたしのようなものが、自分が、この手を取っていいのか疑問に思う。つり上がりかけた目がどんどん夢見がちに変わっていく事に彼女自身は気づかなった。

(15前から刀握って男に混ざって血なまぐさい幕末を送らざるを得なかったわたしが、お姫様みたいな――)

 と思ったが、体は動いていたようだ、彼女はミハエルの手を取り、連れられて暴漢がら逃げていた。

 彼女はドキドキする自分に戸惑っていた。

(なんで、だろ…………)

 状況もそうだろう。

 興奮している。さすがにそれくらいの自覚はある。

 自分が異性から強く性欲の対象として見られたから?

 いや、それはあるかもしれないが、それが一番ではない。

 そりゃあ、女を求められるのは気分良いけれど、好みのシチュエーションでもどっちかと言えばそりゃあ生理的に受け付ける相手に抱かれたくはある。

(本当に見も知らない男に襲われるのが大好きとか、そんなのはさすがに女として精神ぶっ壊れてるわ)

 今、極度の興奮状態だが、そのへんは断じておく。

 Hな妄想のような、これから裸にされて、かわいい女にひどい事をしようとする暴漢からすんでのところで助けてくれた。

 その状況の”可愛い女”の範囲に収まれた事……たぶんこれだ。と分かりつつも興奮を抑えることはできないでいた。

 むしろこの彼に引っ張ってもらえる瞬間が状況ずっと続いて欲しいとさえ思っていた。

(そう、わたしは、気になる異性に助けられるって、武力を持った今では、わたしには最高にレアいシチュエーションを手にできて、異常に興奮している)

 頭の中ぐちゃぐちゃだが、それはなんとか脳の中で言語化できた。

 そしてそれを自覚してから彼の左腕に思いっきり自分の大きな胸と体全部をこすりつけている自分の卑しい動きに気づき、頬がさらに染まる。

(だって幕末から自分で刀握って刀振らなきゃ生き延びられない人生だったもん。

 ただ助けを求める娘に何度憧れたか。

 そしていい男が助けに来た場合は……あぁ、あの時のわたし嫉妬してたんだ。

 強い女は選ばれない。どれたけ美人でも。そんなの自分の人生で味わってきた。

 でも自分で切り開かなきゃいけないから、そういうことができる女としても周りから見られて、守ってくれるなんて男は現れなかった。もしくはすでに維新志士がわに切り殺されて死んでいた。幕末の京都では)

 元々彼女は生まれ育った村では箱入り娘扱いされた事も少なくない。それが幕末の戦火にのまれ、今の自分に変わるきっかけとなってしまったわけである。

(明治の世、わたしと同じく京都の見回り組をしていた永倉さんも嫁を貰い映画をよく見に行ってた。

 ミハエルさんは闇霎くらおかみさんの息子だから、最初から仕えるものの息子を守りに行かねばッて気も最初にあったし……)

「ミハエルさん……離さないで、ずっとこのままで……」

 もう、欲望のまま言葉を口から出す事を我慢できない。

 もう、欲望のまま胸を彼の左腕にこすりつけるのをやめられそうにない。

 もう、この荒ぶる吐息を彼に吹き付けるのを抑えられそうにない。

 そんな卑しい自分に驚いて彼女の両目から大粒の涙がこぼれる。

 自分はこんな卑しい人間だったのかと驚愕する。その驚きで涙が我慢できない。

「夢見る人よ、この物語は、あなたが胸に秘めてるその切符を持ってる人専用よ――」

 親友のひとり、桜雪さゆが、いつか何かの拍子に言ったセリフ。いつかどんな流れかは、この色ボケした思春期の女子中学生かって自分でつっ込みたくなる、今の自分のあたまでは思い出せそうにない。

(あなたを失うと、わたしの歩みは止まる――あなたがいるから、わたしには、もう縁がないと思った事も自分の足で歩み寄ってこの左手で掴める)

 ミハエルを、彼の瞳を真っすぐ見つめる。彼の左腕に自分の乳房をこすりつけながら。

(わたしを止めたければ、わたしの唇をあなたの唇でふさいで見せなさい)

「ア、アァ………」

 水鏡冬華は、自分でも何を言いたかったか、のぼせた頭ではわからない。ただ無意味な言葉が漏れる。

「なにも喋らないでいい。あぁ、あそこのケーキとか売ってるとこでちょっと買ってこよっか。何か食べたら落ち着く――」

「やらぁ。やぁ――離れないで」

 彼女は首もぶんぶんと振り、胸もふんぶんと彼の左腕に押し付ける。

(抱きしめ合うたびに自分の欲望がどんどん膨らむ。あなたに対して欲張りな自分を自覚してゆく。

 抱きしめ合うたびに心の飢えが全然なくなってゆく。

わたしという湖があなたで全部埋まってゆく。

 わたしは、あなたが思うよりもあなたが好き。好きだから隙間なくくっつきたい。

 踊りも歌も得意な自分は、彼に対してだけの愛の歌と踊りを披露したくなってくる)

「…………」

 ミハエルは困った顔で水鏡冬華を見下ろしている。そんな彼を上目使いで見る冬華。

「…………わかった。しばらくこのままでいよう」

 しがみつきながら、水鏡冬華は大人ぶって隠していた本心を漏らし始める。

("愚かしくも"大人ぶって隠していた本心。今なら口の中から滑り落ちそう)

「あなたひとりのために、わたしは幕末に生まれ、時を旅して女として綺麗になった。

 すべてをなくしてでも掴みたいと思える愛は、あなただけ。

 時々あなたを思う時、わたしの娘心むすめごころが悪さします。

 だから、そんなわたしを笑って、わたしと一緒に踊ってくれると嬉しいです」

「うん。…………本心打ち明けてくれてありがと。

 心はわたしにはないって話一度したよね。

 好きって心は誰かが誰かを思った時に出るものだ。

 だから、正確にはそれは《《わたしと君の間》》にできる感情であって、わたしだけの気持ちじゃない。

 時々、そんな風に本心でぶつかってくれる君が好きだよ。だからわたしと君の間に好きって感情が生まれる。冬華」

 と言葉と共にミハエルが水鏡冬華の頭をなでる。

(このまま時が止まればいいのに)

 水鏡冬華はそう思いミハエルの左腕に自分の頭をこすりつけた。

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