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太陽よ、ムーンショットを止めろ!  作者: 白い月
ヴァーレンスに帰りましょう
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十六夜にうつしよからとこよにいざなう昔馴染みめ

(へスラー=ヴァイツゼッカーとアルヴェロ=カルティエ。

 気づいてるよなぁ。同じ店にいるんだから)

 とミハエルは胸の内でぼやく。

「外で待ってる」

 そういってミハエルの横を通って行ったのは背が低い男の方だ。身長250cmと比べたら誰だって背が低いが。

 へスラー。身長250cmの野性味あふれた強大な剣を担いだ筋肉男。

 剛力により力任せになぎ倒すのが本来の彼のスタイル。

(だが動き自体はとどめ以外コンパクトな所が多い。だからイメージに反して隙が少ないから、迂闊にかいくぐろうとするとこっちが攻撃防がれた後、拳の乱舞を食らう。野生と理性が融合している)

 アルヴェロ=カルティエ。身長170cmの外見はイケメン大学生ぽい剣士だが、異世界で剣魔の二つ名を持っていたミハエルの次代の剣魔。剣の腕はミハエルより上。

 へスラー、アルヴェロ、ミハエル、この3人がトップとして【血の竜巻】という名で殺し屋をしていた。何人殺してきたか分からない。給料のために。

(お前が死ねばわたしが食べていけるんだよ。元の世界に戻る調査資金もな)

 ミハエルの総合的な見立てでは、アルヴェロとへスラーは同じ実力だろう。

「ごうそうさま。おいしかったぜ」

「あ、ありがとうございましたー」

 酒本さかもと薫子かおるこがその雰囲気に怯えつつレジを済ませる。

(そりゃ怯えるわな。野生のライオンや虎を生きたまま踊り食いするような奴だから、野生の猛獣はなつよりも怖い)

 1人ずつが霊気全開でのミハエルでも骨が折れる強敵だ。

 とミハエルは二人の事を思い出しつつ、

「アルヴェロ=カルティエ。怖い昔なじみが秋に現れましたよ~。十六夜ってもう過ぎたか。十六夜にうつしよからとこよにいざなう昔馴染みめ」

 とぼやきながら食事を終え、外に出る。ミハエルも戦闘モードに意識を移行しながら。

「どうしたんだい、いきなりフルネームで呼んで。後俳句? 短歌? 僕そこらへん不勉強なんだ。

 それはともかく、腕は落ちてなさそうかな」

 アルヴェロがそう言い終わるや刹那――

 アルヴェロの剣がミハエルを襲う。

「そちらこそ」

 ミハエルはそれだけ返す。喋ることに意識を持ってかれたくない。

 アルヴェロという剣士はそういうレベルの男だ。

 真っ直ぐ切りかかるようで、左にずれている。

 アルヴェロの剣が下からやってくる。

(上。袈裟斬り)

 ミハエルは下を守らず上から剣が来るように防御した。

 下からの剣が本当だったら首を串刺しにされる。

(脇腹)

 ミハエルはアルヴェロの気配を察知した。ほとんど勘である。

 手練れ同士の戦いでは計算などしている暇はないこともある。

(体勢で左からそう見せかけて、最後は死角から来るな)

 ミハエルはそう断言して、剣を持っていない右手で死角にくるであろう剣を素手で軌道をずらす。少しずれていれば右手とさようならである。

 完全に勘である。《《目での情報速度など遅すぎる》》。そんな遅い情報に頼るわけにはいかない。

「どうやら、鈍っていないようだね」

 必殺の剣の1つを防がれたアルヴェロは満足そうにミハエルを見つめうんうんと頷いた。そして剣を鞘に戻す。

 そしてアルヴェロは後ろで戦いを見ていたへスラーの所までゆったりと戻る。

「ちょっと、あの剣技なに…………何をやったか頭に入ってこないんだけど…………2人とも何やったのかよくわかんない…………」

 天馬蒼依てんまあおいが汗を垂らしながらうめく。アン=ローレン、ガートルード=キャボット、ユーナ=ショーペンハウアーも似たような反応である。目をひん剥いている。

「ちっ。化け物め…………」

 水鏡冬華すらそううめいて、汗を一杉垂れ流している。

「…………」

 桜雪さゆはつまんなそうな顔をしてヘスラー=ヴァイツゼッカーとアルヴェロ=カルティエを見ている。

 と、いつの間にやらアルヴェロの背後に回り込んでいたサリサが飛びかかる。

「やんちゃだね」

 アルヴェロはそういい、剣を鞘から抜いた。

 サリサの霊気で包まれた爪とアルヴェロの剣がつばぜり合いとなる。

「ねえ、剣ひっこめないでよ。食後の運動、付き合ってよ」

 肉食獣の眼つきをしたサリサがそう言い、霊気に包まれた左手で剣を押す。

「わたしじゃぁ、敵わない…………なんでこんな猛者が平和なこの国に…………」

 空夢風音そらゆめかざねは、汗を何筋もたらして戦慄している。

 ミハエルは、異世界に島流しにあって最初に自分を助けてくれた男2人に向き合った。

「お前、まだ甘ったるい理想主義抱えてんだろうなその眼。

 あの時理想を言った時の眼と変わってねえ。

 この世の90%以上が鳴き声以外の言葉を口から出す、ファッションで自分を着飾る豚だ。恋だの愛だの騒がしい豚。その豚について俺は言っているんだ」

 ヘスラーが笑顔を見せる。

 もっとも、肉食獣みたいに犬歯を見せつけて野生のライオンですら、いや幽霊ですら怯えて逃げそうな凄絶なものを笑顔というならば、だが。

「平和にあぐらをかいて、脅威が目の前に来てやっとピーチクパーチク騒ぐ豚だ。津波舐め腐ってるアホかよ。

 お前が異世界島流しで手足封印された時、ファッションで着飾った豚は助けてくれたか? 動けないお前を厄介な奴を見るような目で避けていっただろう? ああ、あとサンドバックにしようとしたガキもいたなぁ。俺がサンドバックにしてやったが。助けたの俺ら人殺しじゃねえか。皮肉なことによ。

 お前が助けてやる価値あるのか? ミハエル?

 人間語を話す豚に必要なのは飴と鞭だろ。野生動物のエサにした方が良くないか? 野生動物飢餓から救えるぞ?

 今の社会その豚小屋の豚が政治家と名乗り社会を豚小屋のように汚くしている。まあ、ここの王様はマシな方だがな。筋肉の鍛え方が特に」

(そう。ヴァーレンス王国国王オーヴァン=フォン=ヴァーレンスとへスラー=ヴァイツゼッカーには共通点がある。

 筋トレしすぎてその筋力でブラックホールを生成できるようになった物理法則を筋力で無視する筋力の使い手という共通点が)

 とミハエルは思い返す。

(これは天之手力あめのたぢからおの神通力と同じである)

 だが、二人は天之手力あめのたぢからおの力を頼って力を発現させたわけではない。自分の筋トレパワーだけを信じて力を発現させたのである。

 おそらく二人は天之手力あめのたぢからおが目の前に出たとしても筋トレパワーで捻り殺そうとするだろう。とミハエルは予想している。

「たぶんね。オーチャンとお前が戦ったら戦い終わる前にブラックホールだらけになって見てる方が命がけになりそうだよ。てか周りの星滅ぶわ。地球も滅ぶだろ」

「お前ブラックホールくらい耐えられるじゃねえか。あと地球はお前がこの前滅ぼしただろ。あれでお前の事見直したんだがな。ようやく人間の形をした豚に情けをかけるのやめたか。それで普通なんだよあんな地獄の球って」

「耐えられようがブラックホールが道端に転がってる生活風景はやだわ」

 ため息とともに、ミハエル。

「お前はさ、オーチャンと同様に、地球から来た核ミサイルだって気合いだけで消滅させる筋トレパワーを有している。胸に思いっきり空気吸い込んで

 『かーーーーーーーーーーーーーーーっ!』

 『あいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやーーーー!(拳を1撃核ミサイルにぶち込むごとに『あいや』と1回叫ぶ)』

 で脚力だけで大気圏の外まで飛んで核ミサイル消滅するぞ。放射能の汚染濃度すら、

 『消えんかーーーーーーーーーーーーっ!』

 って地面に拳叩きつける事により放射能汚染キャンセルできる。オーチャンとこいつ、へスラーは物理法則を無視できる筋力だ」

 と、そこでミハエルは鼻から息を出して一息つく。

「地球攻撃したのは、レプティリアンが地球から火明星ほあかりぼしにムーンショッター送り込もうとしてたから、今年の最初の冬の行進とは違い、今度は先手を取っただけにすぎん」

「ははは、なるほどねー」

 へスラーはポリポリと頭をかいた。

「豚に人間の言葉をかけてやっても無駄だとまだわからないか。

 叶うはずないあの日の夢が、いまだに胸で煌めいてんのか? ミハエル?

 自分と同じレベルまで目覚めるとでも思っているのか?

 ミハエル、お前が教えてくれた、両手両足動かなくされた異世界に島流しにあったお前に俺が直々に施して両手両足回復させたルネ=カントンの海水療法。

 あんな効果的な治療法すらトチ狂った民間医療扱いだぞ。

 みんな、実際に効果があるかではなくて権威あるアホの言う事しか信じない豚だ。そんな豚殺すしかないんじゃないのか?」

「カントンの海水療法は仕方ないよ。

 海の水で治られたら病院潰れるって医者という名の白い悪魔が必死にイメージ戦略してるからな。魔法ビジョンで。

 ヴァーレンスではカントンの海水療法広まってる方だぜ? 医者の存在(儲けのために副作用を無視する白衣)認めてないからな、この国、法律で。オーヴァン国王が。自然療法士(儲け度外視で【患者が二度と治療所に来なくていいように努力する】副作用を認めないもの)は大々的に認めてるが」

 ミハエルが(白衣の薬のセールスマンに)呆れつついう。

「そこまでは、皆目覚めさせてやるとは思いつめていないが……望みは捨てられないよ。へスラー、お前がご察しの通り」

「無理だぜ。お前も俺らと同じ、血の雨をかいくぐり抜けながら悟ったはずだ。この世には」

 とそこで指をくるくる頭の横で回すヘスラー。クルクルパーのサインだ。

「この世にはほんのわずかな真なる人間と、大多数の自分は賢いと思ってる刃物をちらつかせたら何もできない豚がいるだけだよ」

 アルヴェロ=カルティエがへスラーのセリフを奪う。

「お前、セリフとんなよ……アルヴェロ……。

 自分から他人に与えもしないのに!

 求めすぎてるんだよ!

 今の奴らはな!

 そんな奴が人間の振りをして人間社会という豚小屋で鳴いてやがるのがたまーにうっとおしくなる」

 憤怒の顔でそういうへスラー=ヴァイツゼッカー。

「そんな豚が一人前の社会人として偉そうなことを魔法ビジョンでコメンテーターとして語ってやがる。

 別に積極的に斬りはしねえが、目の前で、俺にとって邪魔と認識した瞬間に斬るぜ。ぶひぶひうっせえからな」

「ま、ヴァーレンスでは殺人は罪じゃないからな」

「罪と言われてもやるが。ここの王様は賢いって思うぜ? ガスの抜き処、分かってやがる」

 ヘスラーがオーヴァン国王を褒める。

 ミハエルがこたえる。

「霊界を旅したスウェーデンボルグが日記に書いたとおりだ。

『地上の万物は霊界の投影に過ぎない。

霊界には地上にある一切のものが、美しさをもって実在する。

山も川も草木、動物もみんな存在し、地上にない遙かに多くの物があってそれらが調和し、神の栄光を現しているかのようだ』

 だからうつしよで完璧なんて目指さずに法で縛りつけない方がいい。

 きちんとやろうとするアホは、人は死んだら無と思っているアホだけだと」

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