情報通になるにはどうすればいいの?
「……………………ぽっ」
瞳を潤ませてミハエルを見る酒本薫子。
間違いなく恋のターゲットとしてミハエルを見つめながら足をもじもじさせている酒本薫子の恋の視線から逃れるように酒本食堂を去ったミハエル達。
「ねえねえ。ミハエルさん」
「なに」
子どものような口調で話しかけてきた天馬蒼依に何気なく返事を返すミハエル。
「あなたたち3人ってさ、なんか色々物知りだけどさ。それ一体どうやってるの? ずっと疑問に思ってた。頭の出来だけの問題じゃあなさそうな気がして。
あなた方3人て今まで見てきた男の子たちと頭の良さの質が違う気がして……!」
「アリウスくんに聞いた方が早いんじゃない。恋人ヅラして付きまとってるんだから聞きやすいでしょ」
「恋人ヅラじゃなくて恋人です~~~~!」
「そうなの? アリウスくん」
「え? どうなんだろうねぇ~あはは」
「もっとはっきり恋人宣言しなさいよ。足もセクシーでおっぱいもでかいわたしがラブラブ光線出してるのに! 男の子ってわたしのような体型好きなんでしょ!」
げしっ!
蒼依のつま先がアリウスの足に当たる。
「痛いから」
困り顔で訴えるアリウス。
「力入れてませんよ~だ」
あっかんべ~をする天馬蒼依。
「え~じゃあね。君の健康的でまあるいお尻触らせて。そしたら教えてあげる」
はい、の返答は来ないだろうと期待してのミハエルの返答だったが、
「いいですよ! はい、お尻触ります?」
お尻突き出して天馬蒼依が振り向いた体勢でミハエルを見る。
「きみ、ど~なってんの?」
予想外の答えが出てきてミハエルは慌てる。眉間にしわを寄せて困惑した表情だ。
「何がですか? いいなって人でアリウスさんからペケくらったら次に突撃しようって思ってた男に言われたからお尻出したんですよ?
わたし、アリウスさんに弾かれたら、次はミハエルさん、あなたに恋の突撃する予定だったんですよ? フレッドは友達が狙ってるから友達のためにやめとこってなったけど」
「普通嫁10人いるような男やめとこってならない……?」
ミハエルが天馬蒼依を恐れつつツッコミを入れる。
「いいえ。だから、その予定だった男にお尻くらい触らせてあげますよ。さあ、早く! わたしもタダで便利な情報得るなんて厚かましい事思ってませんから。さあ、お尻早く触ってください!」
お尻をミハエルに向かって突き出す天馬蒼依。
「え、えぇ~~~~っ」
戸惑うミハエル。そんな彼は水鏡冬華に助けを求める視線を送る。
「自分で言ったことでしょう? わたし知~らないっ!」
とほっぺを膨らまし、そっぽを向きへそを曲げる冬華。
そして冬華の後ろで桜雪さゆがお尻フリフリ天馬蒼依の真似をしてお尻突き上げてフリフリしている。だが十二単なのできわどい角度にはならない。
水鏡冬華はさゆに気づき、アホか……という目線を投げかけている。
「僕からは、助け舟は無理だよ……」
とミハエルから目を反らすアリウス。
「アリウス~~~~っ」
「ミハさん見てるとさ~、異性追いかける分にはいいけど、異性から追いかけられる方に回るとつれえなあって思うわ」
とフレッドがお気楽にぼやく。
「そんなに緊張しないで。こっちまで恥ずかしくなるから! ほらほら、わたしのお尻! ミハエルさん、お嫁さんのお尻かわるがわる全員のを触ってるんじゃないの毎日!」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
水鏡冬華とサリサとフィオラと東雲波澄の視線が痛い。
「じゃあ、触りまーす。君の足からお尻見ると、本当健康的な体だなって思うよ」
顔が赤くなるミハエル。
「やだーもう! 恥ずかしい~」
というわりにはお尻を積極的に突きだしてミハエルの顔を見て反応を楽しみにしている天馬蒼依。ミハエルがおずおずと天馬蒼依のお尻を撫でまわす。
もちろんスカートの上から触るのだ。
さすがにスカートめくっては無理。
水鏡冬華、東雲波澄、サリサ、フィオラの嫁が半眼で監視している中では。
「あははっ! くすぐったーい!」
天馬蒼依の反応、いやらしさはない反応だった。
「わたしのお尻撫でまわして満足した? じゃあじゃあ、早くっ! はやく情報集めるコツを教えて!」
ミハエルにキラキラした瞳で追いすがる天馬蒼依。
「えっとね。仮説を立てるの」
「仮説?」
「うん。魔導ネットや図書館で調べるのはあくまで補助。
『【相手の挙動で一喜一憂してたら間に合わない】
戦うなら千の仮説を準備するつもりで、その中で1個でも当たれば御の字』
相手より先回りしてスピードで追い抜くことが肝心。
情報戦ではね。
だから
『デマだデマだ騒ぐ連中はただの平和ボケ
【生きる姿勢】が違う』
んだよ。情報戦だって戦いだ。
負けたら死ぬんだよ。
死なないために、死ぬ思いして、自分で千の仮説くらい用意するさ。
命かかってんだ。
『だから【公表される情報で真実はわからない】
【ソースソース信用できるものを探してる連中なんて、他人に寄り掛かる根性なし】
わたしは醤油派、なんちって。
悪が情報を丁寧に全部よこしてくれると思ってんのか。隠してるに決まってんだろ』
『だから状況証拠からの推測で読み解くしかない
全部仮説で組み立てていくのさ』
それができる奴が、本当に賢い奴さ。
ナイチンゲールやマハトマ・ガンジーなんてこの通りの行動してるぜ!
だからあそこまで輝いていたんだ。
『子供たちの存在は、常に衛生状態の最も繊細な試験紙です
一般に、彼らが病気にならずに箱馬車に入ることはできません
つまり、子供が病気になる=その環境に問題がある』
ガンジー(ベシャンの環境理論に沿った行動をとった偉人)は、
『あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。
そうしたことをするのは世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである』
って言葉で有名だが――――
血液不純の状態が一番やばいんですよというマハトマ・ガンジーの言葉がAWESOME。
手洗うとかそんな意味のないこと――ていうかみんな意識せずにやってることを口うるさく言うアホムーブするより、身体の糖代謝が正常に機能しているか&血そのものをきれいにするのが必須。
これこそが対処療法とは違う根治。
糖代謝が正常になっていれば、直接毒ガス攻撃でもされない限り問題ない。エクソソームはあくまでエクソソームでしかないから。
だから、他人からの感染を恐れる前にまず自分の血をきれいにしよう&糖代謝を整えようっていうのが良い対策。
葛根湯とか糖代謝の改善によかったような。あと酒は控えめにする。
という言葉を残した。
「公文書を書き換えたけど改ざんではない」
「武力衝突はあったけど戦闘ではない」
「つぶせとは言ったけど反則しろとは言っていない」
など権力者が言い出せば、いずれ、
「物を盗んだけど窃盗ではない」
「人を殺したけど殺人ではない」
「無理やり性交したけど強姦ではない」
「騙したけど詐欺ではない」
「遅れたけど遅刻ではない」
といいだす。必ずな。無意味だったとしてもこれには逆らわないといけない。
環境理論=外からウィルスなんて架空の恐怖の大王が来るんじゃなくて環境が悪いから病んでいくんだってナイチンゲールは突き止めたんだ。
地球の日本でも流行りの風邪じゃなく、通常の血液培養検査で検出されるMRSA/緑膿菌、どちらもリポ蛋白を持つグラム陰性菌だが、流行りの風邪の患者は陰性反応になったとエンドトキシン血症だと突き止めた人はいた。
電磁波で全身の血液中に存在する常在の細菌達ソマチッドが多発的に死滅することで細菌達が放出する、内毒素へのショック反応(=エンドトキシンショック)。風邪なんかじゃ全然なかった。
だが補助金目当ての医者に叩き潰されたけどな。
そんな腐った地球だから、この前サリサとフィオラとみんなで宇宙まで飛んでユーラシア大陸や日本などにエネルギー波当てて地球と地球人滅ぼしてきたけど。
まぁそれは置いておいて、
わたしのも仮説と言われたらそうなんだ。仮説さ。
でも前へ進まなければいけない。
いつも石橋叩いて渡れるわけじゃないんだ。
『初めから答えが用意されてるペーパーテストじゃなくて今回は命を賭けた人生の歩みです。【負けたら死ぬんです】 だから死なないために死ぬ程仮説立てるのは当然だ』
そういう人生の瞬間もある。社会って鳥かごに捕らわれたアホにゃあ理解できないだろうが。
特に、食べ処やゲームの攻略等、過度に他人のネットレビューや攻略法を求めるアンポンタン。
【過度に正解を求めるアホ! 失敗する度胸もない現代人】
このタイプのアホは成長しねーよ。自分で味わえよ。料理のまずさを。ゲームで失敗しろよ。自分の五感が成長しねーだろが。
だから、そういうアホは放っておいて、星の数ほどの仮説を準備して、その星の数ほどの仮説を武器に、そのうち1個でも当たれば
『自分で自分の命を拾えた』
と喜ぶ。そんな風に生きる事に対して本気になれと、先人たちに叱咤されているような気が最近はするんだ。
天馬蒼依、聞きたい事あったらもっと聞いてこい。君のことは結構気に入ってる。
だから、何もかも嫌になって、目につくもの全部ぶち壊したくなった時は特に、わたしのところへこい。まずわたしの命を壊させてやる」
とそこでミハエルが天馬蒼依の瞳をまっすぐ見つめて、言葉を切る。
「おおー、なんか学校で教えてくれないような、すごい大事なことを学んだ気がする。
そして最後のセリフずるいよ…………。
胸がきゅんとしちゃったよ。足もちょっと震えちゃった……だめだよ、素で女の子の心惑わすようなこと言っちゃ、あなたに惚れる女の子多いの分かる気がした、今……」
ミハエルを見て、ブルルっと足をふるわせる天馬蒼依。
「……………………」
水鏡冬華が、複雑な表情でミハエルを見る。
「わたしアリウスさんて決めたのに……ミハエルさんにも恋しちゃうよ?
そりゃあミハエルさんみたいなものの考えかたで生きてれば飛び級で進むわ。
でも教授連中はミハエルさんみたいな自立心の塊、煙たがりそうですね。ふふっ」
天馬蒼依が上半身をかがめてうるうるした上目遣いでミハエルを見る。
「まあな。上司の思い通りに動かない、上司が正悪かいちいち判断して突っかかるって意味で、奴らからしたらロボット、手下として不良だからな! はっはっは!
大体学校の先生って能力全然秀でていない、最先端での現場の研究者になれない程度の奴がなるってわたしの家庭教師の先生が言ってたしね。その程度の奴の手下になるかよ。ははっ」
「えへへ。うふふ。あなたにお尻差し出して良かったーって思います、貴重な意見いただきましたっ! ありがとミハエルさん!」
天馬蒼依が、もう一度お尻をミハエルに向けてフリフリしながら振り向いた体勢でお礼を言う。
「あ、ああ、どういたしまして……!」
ミハエルは天馬蒼依の大きめのお尻がフリフリ動くのに夢中になった。
「僕もミハエルくんも、フレッドも僕ら3人はその考え方で他人より一歩先に進んで生きてきたからね。群れを好む臆病な羊には真似できないって事さ」
アリウスがそういう。
「言ってる事はまともなんだけど、目線がお尻追いかけすぎ……! もう、ミハエルのバカ!」
拗ねる水鏡冬華。
にへらにへら笑ってミハエルが冬華のご機嫌を取るのが見える。