人工失楽園しましょ
「こんなにかわいいお前が、どうしてこんな目に合わなけりゃいけないんだ! うおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉ!」
ガラルは永久を抱きしめ悲しみに打ちひしがれていた。
それを見てこっちのミハエルは
「戦場に連れてきてるのが悪いんじゃん」
と呟き、ミハエル(あっち)は、ニヤニヤしながら
「はははっはーーーー!
嘆きこそ我がご馳走!
悲しみこそ我を彩る雨!
もっともっと悲しみの雨を降らせてくれ!!」
「……なんか向こうのわたし大魔王のような事を言ってるんだが」
半眼でミハエルがあっちの自分の見やる。
「似合いませんよねえ。ミハエルさんにあんな言葉」
ほっぺを人差し指でポリポリしつつ、空夢風音がつぶやく。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「あなたを守れて死ぬなら、わたし嬉しいです……大魔王ミハエルを倒すって誓ってください。わたしは天国で見ていますね。
最後にもう一度言わせて……好きよ、ガラル」
「永久、永久……ううう」
永久が弱弱しく呟く。
「とうとうわたし大魔王かい。てーか、あの男食堂で彼女と定食食べてたじゃん。あの彼女どうする気なの。アマリアだっけあの子」
というぼやきがガラルの背中の方、向こうから聞こえる。
「なんか昔の自分に似た女が全然タイプじゃない男に発情してるの見ると思いっきり複雑な気持ちなんですけど~~~~~~~~~~~~~~~~」
水鏡冬華が愚痴る。
さゆはそんな半竜をよそに泣きはじめる。
「お~~いおいおいおい」
さゆが泣きながら永久に近づく。
「来るな! 残り少ない俺たちの時間を邪魔するな!」
「悲しくて見ていられなくなったの! わたしにそのかわいい子を治させて!」
もちろんさゆのこれは演技である。
十二単に目薬仕込んでます。
「治せるのか……! きみが!」
「はい! でも失敗の確率は5%あるわ! 大成功の確率も5%あるわ! 普通に成功は90%よ!」
「それだけあるんなら十分だ! やってくれ! 成功した暁には、十二単の女、キミも俺のハーレムとして加えてやってもいい! 1番の女は楽園永久だから無理だが……」
がっくん!
(ハーレムて。ハーレムに加えてやってもいいって、何様!?)
思わずさゆは肩をこけさせた。
ともあれ、そこは突っ込まず、さゆが自分の妖力をずっこんばっこん楽園永久に入れる。
「桜重ね癒し・妖!」
妖力が形作ったのが幻影か、桜の木が現れ、ひらひらと、桜の花びらが楽園永久に積もってゆく。ビジュアル的にキレイだ。今は秋だから桜は狂い咲きになってしまうが。
(かな~りのいたずらよ~これは。ちょっとわたしも初めてでうまくいくかどうか…………)
いたずらよといいつつも、癒しの術であることは変わらない。
楽園永久は生気が戻ってゆく。肌も土気色から健康な色へ変わってゆく。成功だ。
おや…………。
楽園永久の様子がおかしい。ガラルもそれに気づいたようだ。
「背、伸びてる……? 永久! 永久! ロリ属性が消えちゃう!」
(こいつ…………!)
桜雪さゆはキッツい視線をガラルに送ったが、すぐに取り繕う。
「これは、ある意味副作用ですね……。体が健康になりすぎて、体の隅々まで栄養がいきわたったから急成長してるんです。
これは5%の大成功を引き当てましたよ! 寿命伸びましたよ! おめでとう! おめでとうガラルくん! 永久ちゃんとお幸せに!」
お幸せに! でガラルの両手を握ってお祝いする桜雪さゆ。
「あ、あぁ……ありがとう」
永久ちゃんが、ガラルがちょっと目を離したすきに成長していた。
パンストがもうびりびりに破れていた。
それもそうである。
155cmの子が履いていたパンスト。今の永久ちゃんは【250cm】である。女でも握力200は超えてそうな感じである。むしろ破れていないセーラー服がすごい。彼氏に家に誘われても、ドアをくぐれないから入れないという、ある意味安全モードである。
「すごい! 永久ちゃん1000%だわ!」
さゆが感激したように叫ぶ!
「そりゃパンストも破れるわ」
水鏡冬華が破れた自分のパンストを見てから楽園永久を見やる。
もう人間種族ではないのではなかろうか。
ガラルは別の意味で泣いていた。
「あんまりだぁ~! こんなのあんまりだぁ~~~~!」
「楽園永久ちゃん、もう死にそうにありませんよ! こんだけ世紀末でも生きてゆけそうな健康な体になりましたから。
お二人幸せに過ごしてくださいね。ああ、でも永久ちゃん、ベッドで抱きしめる時加減しないとガラルさん潰れますからお気を付けて、楽園永久ちゃん」
「はい!」
「お前のようなデカいロリがいるか!」
叫ぶガラルを見て笑いそうになるさゆ。
さゆは大笑いしそうな衝動を必死に抑えて、しとやかな笑顔で、身長250cmの女を褒め称えた。
「あのアホ…………あれじゃあ、ロリなわたしを望んでた男の人にとっちゃあ楽園永久じゃなく人工失楽園じゃないのよ…………」
水鏡冬華はそれだけを呟いた。




