神隠し
(まだ意識はある! まだ望みはある! あの思い描いていた未来をこの手にする望みは! あのミハエル、不死身の皇帝の妨害すら何とかかいくぐれる! 俺を信じろ! ロリを信じるオレを信じろ! ヴァンパイアか何か知らないが、腕も動きそうだしシルバースターってのの邪魔さえなければ……こいつが俺の動きを阻害してる)
ガラル=エン=ベインはまだ諦めていなかった。
アリウスの魔法球に捕らえられ、ミハエルに一刀両断されつつ、シルバースターを胸に撃ち込まれながらも、まだ彼は諦めていなかった。
どういう理屈か不明だが、両断された頭で念じると、両断されて頭とは繋がっていない方の右手が握りこぶしを握った。
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彼女の腕を魔法でじっくり治すため、落ち着ける、酒本薫子の実家兼食堂に戻ろうとしている最中。
ガラルの眼から紫色の霧が染み出す。
突如、ミハエルたちは紫色の霧に包まれた。
「む? おなら? 紫芋食べ過ぎた人誰~?」
ミハエルがそんな緊張感のないことを言う。
「アホ!」
水鏡冬華がミハエルのそんな言葉に罵声を浴びせる。
「これこれ。ボクが閉じ込めてるこれから出てる」
と、アリウスの声。
もう紫の霧にまかれて五里霧中である。
「こいつムーンショット求めてたよなあ! ガラルとか言ったっけヴァンパイア化したの。ヴァンパイアって霧化するしこいつまだ諦めてねーな」
左手をユーナに掴まれたフレッドがのんびりとした口調でそういう。
「フレッド、絶対手ぇ離さないでね!」
「はいはい」
窮地かもしれないのに気楽なフレッドだ。肝の据わり方が違う。
そして、霧が晴れる――――
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「俺はガラル=エン=ベイン。ヒーローに憧れるティーンエイジャーだ。
不死身の皇帝ミハエルが教会で発狂し教会の子どもたちを斬り始めたのを止めようとして体を真っ二つにされた。俺が、ヒーローの俺が狂った皇帝を止めねば誰がやる!」
「おい! 霧はれたらいきなりナレーションぽいものがあたりに響いてるぞ!
しかもわたしがトチ狂った事になってるし! わたしがもうひとりあっちにいるし! 凶悪な顔で!」
ミハエルが悲鳴を上げる。
当然このナレーションは真実ではない。
「俺ガラルは、ミハエルに対抗すべく運命絶対神プランの力でヴァンパイアとして復活した。ヴァンパイアって女性人気すごいし女作家ってヴァンパイアものよく描く印象があるし、これでオレの女性好感度30UP、それにこれで、ヴァンパイアの力ですべての女を助けられる!
ヴァンパイアは正義の味方だ!
ミハエルの嫁にされている奴もフレッドの嫁にされている奴もアリウスの嫁にされている奴も全員俺の嫁として助け出す事ができるんだ!!」
「略奪婚したいってさ。行く? 冬華」
「ふっ、ざけんじゃないわよ! なんであんな肝っ玉の小さい野郎の嫁になんか」
にべもない水鏡冬華。
と、そのとき――――
「ちょっ、なに!? スカートが……! パンストも!」
まるで水鏡冬華のミニスカートに何か透明の手が引っ付いているかのようにめくれ上がっていく。あとパンストがひとりでにビリビリに破ける。
「なんでパンストまで!」
「ちょっと、何なの!? 風吹いてないのに」
天馬蒼依の声だ。霧も晴れたので皆の姿が視認できる。
だが、天馬蒼依も冬華と同じくひわいな目に遭っていた。
「きゃああああっ! いやあっ!」
ユーナも摩訶不思議な現象でスカートがひわいな事になっていた。
サリサとフィオラのスカートもめくれあがっていたが、悲鳴を上げるタイプの女性ではなかったため、ミハエルの顔の見て赤くなりながらもさりげなくスカートを元に戻す。
東雲波澄が叫ぶ!
「この現象――――風も何もなしで望んだ現象を呼び出そうとする術。呪禁! 蒼依ちゃん! 招来呪禁領域よ! ガラルの念の展開を防いで!」
東雲波澄もスカートに違和感を感じていたが、タイトスカートなのでがばっとめくれ上がるにはよりパワーが必要だったため、水鏡冬華みたいにパンツをさらすことはギリギリなかった。
「えっと、え~っと印は午、辰、戌で、招来呪禁領域!」
天馬蒼依が不可視の力にスカートめくられながら自分の周りに呪いを防ぐ結界を展開する。
スカートが普通に戻った。
「冬華さん、気づくの遅かったですね。これまっとうな呪禁じゃないにせよ、呪禁みたいなものです。
しかもかなり、女が身の毛もよだつほどの、エロい願望だけで現実改変を行っているわ。
これが、なろうパワーって揶揄されるものなのかしら…………欲望が真っすぐすぎる」
タイトスカートを抑えながら、ガラルのエロ願望に寒気が走り、体を震わせる東雲波澄。
「ちょっと。雲の上から見てたら、えらい事になる予兆見えたんで来たよ~。
半竜、なんで呪禁のエキスパートのあなたがこの紫の霧発生前に気づかないのよ!! 酒飲みすぎ!」
と、頭上からピンクが舞い降りてくる。
そう、十二単の雪女の突然変異、桜雪さゆだ。
ちなみに上空から来たので十二単と言えどもパンツは見える。パンツも薄いピンクだった。ミハエルは鉄面皮で彼女のレアい太もも露出とパンツの色を焼き付けた。
「お見苦しい所、ごめんなさい~息子さん! 大変、恥ずかしいもの見せてしまって心に波紋発生させちゃって、ごめんなさいね」
と足をもじもじしつつ自分のはしたなさを殿方に詫びるさゆ。
「いや、構わん。こんにちは。さゆ」
「はいは~い、こんにちはー」
ミハエルに向かって手を振るさゆ。
「春女…………、ごめん、そう言われると申し開きすらできないわ。
ホント酒控えた方がいいかしら」
「朝から一升瓶何本も空にするのはやめた方がいいかもね~いくら竜の因子で酒強いって言っても」
「う~ん…………」
「呪禁道:【念(情報)をエネルギーに変えるのが基本】不幸を禁じる事が本義。
竜神闇霎が他人を不幸にする術に怒り狂って広めたのが原点。
相手を恨むことでもなく、幸せを強引にもぎ取ることでもなく、悲しみの連鎖を断ち切ることこそが正道の目的。
目に見えぬ不幸の種を全て断ち切ってしまえば、結果的に幸運とはいえなくても人としてまともな状態が訪れる。
それが目指す道。
【いたいのいたいのとんでけ~!】は基本にして最大の呪禁道である。
このような原理から、術の名称、術式や動作に決まったものはなく、言葉も動作も発生する前、つまり心の中で思った時点(または”思った瞬間を起点として時間を巻き戻って発動”する逆因果の性質を持つ)で発動する術である。
よって、凶悪な心を持つ者が呪禁を使うことは極めて危険。
バックファイア(人を呪わば穴二つ)がすごいが、あらゆる過程を無視(失血死、焼死、溺死などの過程抜きで)して、相手の死を何の脈絡もなくいきなり実現させる事もできる。
当然エロ目的で使えば、女の服だけ透けて見えるとか、女の抵抗を抑えられる術の強ささえあれば女の心だけ全部自分に惚れさせるとかもできる。制限時間はわからないけどね~。
だからこそ、呪禁使いにはより高潔な人格が求められる~によぉ~ん。にょんにょん! にょにょにょん!
一番分かりやすいのは防御の呪禁。
呪禁は物理法則を完全に超えた術
(神が扱う術だから当然だが)
であるため、まっとうで高尚な念やとてつもない怨念で貫く場合を除いて、
{呪禁師には念を込めにくい物理攻撃は効かない:銃弾、核兵器などは完璧に0ダメージ}
呪禁師は、「気、霊気、妖気や魔力などを伴わない」物理現象に対しては完全に無敵である。
歴史上、原爆の爆発にさらされてなお無傷だった人の種明かしはこれである」
じゃじゃ~ん、と言いつつ桜雪さゆが言い終える」
「それ、呪禁のエキスパートのわたしに説明して何になるの」
不満そうに、水鏡冬華。
さゆは、チッチッチッといい、人差し指を左右に振って、
「この原理を悪用すれば邪悪な呪いに早変わり~~~~。紫の霧がそういうもんだって一番はや~く気づくべきだった半竜さん?」