エロ集団vs類稀なるアホね……
歩いて酒本薫子の家へ向かうミハエル達。薫子の食堂でじっくり霊波動で動かなくなった彼女の腕を動くよう治すつもりだ。
ヴァーレンスに病院なんてない。
薬の白衣のセールスマン(原油、石油を加工して錠剤の形にして薬と称して人を車みたいに石油の飲まそうとするアホ)なんてオーヴァン国王が許可出していない。
ただ、自然療法士なら(自然の薬草やビワで人を治療する、海水療法で人を治す)許可は大いに出している。オーヴァン国王が。
それに、霊波動や治癒魔法、切断部位の接合魔法、再生魔法までもが『庶民の間で実用化』されている。
病院なんて死神の住処は地球でしかありえない。
「おい、薄い本に出てくる女の子を襲う役割の男集団に見えるのがいるぞ。
今秋だから季節違うけど、夏のビーチだったら女に無理矢理酒のまして前後不覚にさせた上でひわいなことしてそうだな」
そういうミハエルの視線には、河原ではしゃいでるガングロ男どもが4人いる。舌をベロンべロンだして騒いでいる。全員身長180cm超えている。女性には怖いだろう。
「あの人達……! わたしこの前あの人たちに襲われそうになったんです。こわい……。胸触られた……」
と、酒本薫子が怯えたようにミハエルの服をチョンと左手で掴む。
「ああいう振る舞いしたの見たことあるなぁ、ヒャッハーとか言いそうな人で」
アリウスが汗を一筋垂らしながらうめく。
「舌すご~いベロンベロンしてるなぁ。爬虫類が人間に化けてねぇかあれ? キニニゲンっていえるか試してみようか?」
フレッドがそんなことをいいだす。
キニニゲンとはアトランティスで本物を殺し政治家に化けたレプティリアンを暴くために使われた合言葉で、たまにヴァーレンス王国でも使われている。
「あいつら狩っていい?」
サリサが犬歯を見せてすり足忍び足で狙いを定めている。野生の虎の動きだ。
「やめておけ。狩り甲斐ないぞ、ああいうの本当に戦闘訓練積んだ人からすれば物足りない。素人相手には威張れるだろうがな。体格と見せかけの筋肉で」
ミハエルがサリサを止める。
「やめておきなさいよ。本当に面倒なだけだから、あーいう、いえーいに関わった所で」
フィオラが半眼でガングロ男4人を見る。
「団長。どうします? 僕が行きましょうか?」
イケメン騎士のクロード=ガンヴァレンが警戒しながらミハエルに指示を仰ぐ。
「サミュエルいかせる?」
ミハエルが冗談のような口調でそういう。
「ちょっと待ってくださいよ! 僕じゃ無理ですって! クロードさんならともかく。体格差! 体格が違いすぎる!」
サミュエルが悲鳴を上げる。
「じゃあ冬華、波澄。他の人より1段抜けた黒髪美人コンビで囮頼む」
「はぁ~、来ると思った。相手したくないんだけどああいうの」
「君も舌ベロンベロンする?」
「しないわよ! みっともない!」
といいつつガングロ4人組に近づいてゆく水鏡冬華。
そして悠々と 余裕を持ち、ゆったりと歩んでいく水鏡冬華と対照的におそるおそる近づいてゆく東雲波澄。
波澄の態度の方がまだありがちである。
「こんにちは。行楽日和ですね」
普通に水鏡冬華が首を傾げてガングロ男ども4人に挨拶する。
ガングロ男の間で下品な歓声が沸き起こった。
「うへぇ~~~~い! ほっほ~~~~~~う! とんでもない美人が2人もきたぜ~~~!」
「まじで! 最高かよ!」
「ち〇ぽこ!」
(……………………イラッ)
最高かよの後の言葉が、水鏡冬華にはフレッドの声に聞こえたが。
ガングロ男たちの下品さに作り笑顔をしながら水鏡冬華は汗を1すじ垂らす。
「ここの川って何が釣れるんですか? わたしたち最近釣り始めたばかりで、まだ知識浅くって……でも、渓流魚は臭みがないから食べやすいですよね」
「ここの川? オイカワとかじゃね?」
「ホッケホッケ! めっちゃ釣れるホッケ!」
「君が釣れたうぇーい!
この女の、ストッキングに包まれた肉付き良いけど決して太り過ぎとは言えないくらいのバランス良い足! 男好みのムチムチ具合の足!
男なら見ちまうぜ! 男の目に毒だわ! なめまわしてー!」
「わたしのお尻釣ろうとしないでくださいね」
水鏡冬華が作り笑顔のまま、あせを1すじ垂らしてガングロ男の手をおしりから引きはがす。
「天性の男を惑わす色気だねアンタ」
「少なくともあんたを誘惑するつもりないんだけど」
「へ~、誘惑するつもりないのにそれだけの色気? 魔性の女じゃんおめえ!」
水鏡冬華は、カイアスにミハエルの仕事についていった際にスパロウで不意に大男にスカートの中に手を突っ込まれた事を思い出していた。大男のセリフを思い出しながら。
あの時もこういうふうに男との力比べで危機を脱したのだ。
(はぁ……色気出したいのは1人の男の前だけだってのに)
と冬華は、無意識に視線をミハエルに向けていた。
恐ろしい目で。
(冬華のあの目…………朝のあの眼だ。
自分の魅力ある部分を見せつけながら、こちらを上目遣いで見る冬華。
まだ冬華は自分のその卑しい女としての自分に気が付いていない)
とミハエルが冬華の、妖力でも籠っていそうな、そう思えるような艶やかな上目遣いを受けとめる。
水鏡冬華は、パンストに包まれた、膝上30cmのミニスカートだから股間より下は隠すものがない、チョコレート色の色っぽい足を強調するようにミハエルに向かって見せつけていた。無自覚に。
「ちょっ、意外と力あるお姉さん! 筋肉自慢の俺が押されるなんて……! マジかよ……! でかいのおっぱいとケツだけじゃねえ! 力もおっきいわお姉さん!」
「よく言われます。お姉さん顔に似合わないほど力あるねえって!」
冬華がそう返しながら、ガングロのおっぱいやお尻をわしづかみにしようとする合計8つの手を作り笑顔で払いのける。
(半分竜神だからね。人間だったときの男に力づくで押さえつけられて、いいようにされた悔しい日々はもうわたしには来ない)
いやな思い出を思い出しそうになる水鏡冬華。好きでもない男と…………。
(何が美人の宿命よ。ったく)
胸の内で呟く水鏡冬華。彼女の瞳には怪しい光が宿っている。
それに気づいているのは――
上目遣いで視線を向けられているミハエルと、
(まだ気づいていないのね。霊覚するどいくせに気づいてないということは、フラストレーション溜まりまくりでそれどころじゃないのかしら? うふふ半竜。ヴァンパイアが変化起こしそうになってる事、自分の中のエッチな気分処理できない事が気になって気づいてないでやんの~)
天上界にいたがガラルの変化に気づいて天から降りてきた桜雪さゆだった。
(半竜、桃色の感情が膨れ上がってるなぁ……まぁ、半竜みたいなボンキュッボン! の体つきで毎日他の人からうっとりした目つきで見られて、しかも旦那様は(嫁がたくさんいるから)たんぱく気味ときた。
それでガングロ男どもからけだものじみた目で見つめられ囲まれけだものの手が自分を汚そうと襲い掛かってくる。
余裕でいなせると思っているからこそ、ヒマ(いやらしい考えに耽る)ができるってものよね~わかるわ~同じ女だもの。
そりゃあ女だってたまるもんもたまりますよ~って感じだろうね。半竜気取った顔崩さないけど)
と桜雪さゆが上空からミハエルに足を見せつけながら、ガングロ男4人をさばいてる珍妙な光景をニシシシシ、と笑いながら見ている。
「経験が違うわね……わたしあんなに華麗にチンピラの攻撃さばけない…………!」
東雲波澄が汗を流しながら、冬華vsガングロ4人の攻防を見ている。
手が8つから12つに増えた。
水鏡冬華はたまらず増えた4つの手の主2人の首を左右の腕でがっちりホールドする。
「ねえ。アンタラ向こうの味方すんの!? それならそれでこっちも考えあるけど!?」
さすがに作り笑顔が怒りに変わりつつある水鏡冬華。
「これも芝居の一つ芝居の1つ」
首を捕まえられたミハエルが言い訳を漏らす。
「そうそう。こっからよ!」
首を捕まえられたフレッドも言い訳をする。
(エロ集団vs類稀なるアホね……)
「お姉さん、まあそんないきりたたずに~」
そういいつつ、言葉の主は、水鏡冬華の肩に手をまわす。
水鏡冬華はそれを払いはしなかった。
それを言ったのはガングロども…………ではなく、ミハエルだったから。
「……………………」
さすがに呆れた表情で水鏡冬華はミハエルを見上げる。
ミハエルは、ニコニコの表情を崩さずに
「お兄さん、筋肉すごいねえ。騎士団にははいらないの?」
ガングロの1人の肩に手を回したミハエル。
「だるいっすわ……騎士団だなんて!」
「まあ、そういう気持ちも分からなくはない。遊び惚けて女捕まえて回す日々の方が楽しいもんね~」
「そーそー! わかってんじゃんにーちゃん!」
ガングロもミハエルの肩に手を回す。
「気が合う者同士、握手しようか?」
そうミハエルがガングロに言う。
「え~~~~? いいっすよ~~」
(このなれなれしい貴族、握手で手をへし折ってやる)
ガングロはそう腹で思って悪い心と共にミハエルと握手をした。