ヴァーレンスディアドコイ戦乱
それから王宮内でアリウスと天馬蒼依と合流した。
「ねえ、ヴァーレンスってわたしが生まれる前か生まれた時、すごい戦乱があったって聞いたんだけど」
ヴァーレンス王宮内でアリウスにおっぱいを押し付けながら、天馬蒼依がいう。
「ヴァーレンスディアドコイ戦乱ね。始まったのが今から20年前? わたしが15の時。青春も何もなかったわ戦争だらけ」
ミハエルが苦虫かみつぶしたみたいに嫌な顔をして答える。
いや――、泣き笑いのような表情が垣間見えたような気がする。
天馬蒼依は自分の隣のアリウスもミハエルと似た表情をしているのに気づいて、自分が男2人の古傷に自覚なしに塩を塗った事に気が付いた。
「あれはきつかったね。ミハエルくんあの流れで一番最初の妻と子ども殺されて異世界に島流しにあったんだから」
アリウスが悲しい顔で言う。
(わたし、あなたにそういう顔して欲しくないのに)
天馬蒼依は無自覚に拳を胸元に置いた。そしてその拳を思いっきり握った。
「ごめんなさい。ごめんなさい。やめましょうこの話。ごめんなさい……」
天馬蒼依は俯き、下を見ながらそう言った。
彼女は、明るいふるまいからちょっと無神経っぽく見られることもあるかもしれないが、むしろ逆である。
「わたし、アリウスさんにも、ミハエルさんにも、そんな悲しい顔して欲しくない…………」
人の感情に機敏だからこそ、うるさく騒がしいタイプの女である。
「…………」
水鏡冬華の厳しい視線に天馬蒼依は怖さを、いや申し訳なさを感じる。
「まぁまぁ。過ぎたことだし、一度船をこぎだした話題だ。しばらくしよう。
アリウスくんだってあの政争で因縁つけられて恋人殺されたじゃんねー最悪だよ後継者戦争だなんて。
金って概念形骸化してもあんな醜い争い起こるんだからまいったもんだよ。
別に後継者なんて望んでなかったんで、何も野望に乗ったアクションは起こさなかったわたしとアリウスくんが集中攻撃されたわ、あの時。意味わからん」
「20年前てわたしが生まれた年ですね…………」
と、蒼依がストレートにミハエルに聞く。アリウスに胸を押し付けながら。
「で、結局どうなったんですか? 後継者争い…………」
天馬蒼依は感じた。ミハエルもアリウスも自分の言う事は聞かない。
(なら、わたしも話題に参加して早く話題が終わる方向に変える!)
そう気持ちを切り替える天馬蒼依だった。
「結局ね、ヴァーレンスの王の血の直系が神隠しにあったのが発端だったんだけど今王してるオーヴァン=フォン=ヴァーレンスのこの世界への帰還により事は収束に向かった。らしい」
ミハエルがそう答える。
「らしい?」
「ミハエルくんも異世界に島流しにあったからね。オーヴァン王が元のこの世界に戻ってきた時はミハエルくんはまだまだ異世界島流しだったんだ」
「そゆこと。で、オーチャンが戻ってきた時筋トレパワーなんていう謎のパワーを身に着けていた」
ミハエルが謎のパワーを言い出す。
「え? なに? それ」
「今度オーチャンにあったら頼んでみるといいよ。手ぇちょっとグッパグッパしてくださいって」
「え? どうなるんですか。グッパグッパって、これですよね」
と、天馬蒼依が右手グーの形にし、すぐパーの形にするのを繰り返す。
「それそれ」
ミハエルが気楽に答える。
あの筋肉王様が手をグッパグッパすると、グッパグッパしたあたりにブラックホールができる。
「はぁ!? 嘘でしょ!?」
グッパグッパしながら天馬蒼依が大声で驚く。蒼依の声が王宮に響く。
「わたしも異世界島流しから元のこの世界に戻って初めて見た時びっくりしたわ」
ミハエルが気楽な様子でこたえる。
「世界の全ての物質を飲み込み集める現象だ。あれは。当然霊波動も学んでいない人間が不用意に近づいたら、吸い込まれてゼロ次元に行くかもしれない」
アリウスがまじめな口調でそういう。
「ゼ、ゼロ次元て…………!?」
「でもオーヴァン国王は筋トレを重ね。うまくグッパグッパできるようになって、グッパグッパして元の世界へと通じるブラックホールを作り出し、ブラックホールを耐えられる筋肉を生み出し戻ってきたんだ」
アリウスがまだまじめな口調でそういう。
「それって…………」
「王を異世界転生させたら国乗っ取り放題じゃん! を実際にやったアホがいたというとこだ。でもオーチャンの筋トレパワーにはかなわなかった」
ミハエルがそういう。
「うわ~~~~ーー…………最強ですやん。ここの王様最強ですやん」
天馬蒼依が口調を変えて驚く。
「え~、オーヴァン国王わたしやミハエルくんと同じ強さだよ。3人で宇宙まで飛び出して試したけど、本気で撃ったオーラキャノンやミハエルくんの黒竜光波はかき消せないしオーヴァン国王」
アリウスが天馬蒼依を見下ろし自分を指さして言う。
「じ、次元が違う…………ミハエルさんもアリウスさんも最強ですやん」
「まぁまぁ、僕たちだって敵わないのいるし、八百万の神のトップの面々は僕ら以上だし」
アリウスが天馬蒼依を見下ろし笑いつついう。