女たちの旅立ちの準備
「いやだ! いやだ! 捨てないでぇ! 戻ってきてぇ! 何でもするから! わたしあなたの近くにいられるならなんでもするから!」
ユーナの泣きじゃくる声が夏空に響く。ユーナが離れてったヴァーレンスの魔導船に手を伸ばして悲痛な叫びをあげる。
「あったまきた。もおおおおおおおおおおおおおおおおおおー! 腹立つー! なんなのー! 女捨てやろー! 鬼! 悪魔!」
天馬蒼依がリスのようにほっぺを膨らませている。
「ひぐっ、ひっ、ひっ、ひっひっ、ぐすっ」
「戻ろ」
蒼依がユーナにぶっきらぼうに言う。そして港に向かって泳ぎだす。ユーナもついてゆく。
「なんで、諦めるの?」
「諦めないために準備するの!」
女たちの旅立ちの準備が始まった。
「ごめん、旅行はこれで打ち切りでいいよね。ユーナ」
「う、うん……」
「わたし親にヴァーレンスに行くって事伝えてくる。うちの親ならやってこーい言うはず。母さんは」
天馬蒼依が決意のこもった目でそういう。
「わたしも、今住んでる所引き払ってくる。わたしが安らげる場所はあの人の隣だもん。それ以外は野宿と変わんない」
ユーナがそこまでの事を言う。天馬蒼依は、それに笑顔を見せる。
「それ、いいね、背水の陣てわけだ。自分で戻る場所を消し去る。
わたしの狙うサミュエル君はそこまでしなくてもって感じだけど、フレッドはかなり手ごわいわ。あいつ色気効くようで全く色気効かない。
どうでもいい時だけあたしのおっぱいとか絶対領域とか見てるくせに、いざというときは全然でやんの」
天馬蒼依がいう。
「うん。印象とかなり違うよね。彼。結局デートしたのに手すらろくに握ってもらってない……。でもミハエルさんとかアリウスさんとか、男にはべたべた触ってるあの人……。表面だけ見てると彼って人間見落としちゃう」
ユーナも彼についての感想を述べる。
と、港に着いた。アンが両手を二人に差し出して街に上がるのを手伝ってくれる。
「ナイスファイトだったよ!」
アンが2人にそう言葉をかける。
「ど、どうなりました!?」
やっとガートルード=キャボットが追い付いた。
「どーもこーもないわよ。これから本番よ」
『え?』
アンもガートルードもそろって驚きの声を上げる。
「わたしもユーナも男追いかけるために海外まで行くって決めたから。住む所まで引き払ってね! ね! ユーナ!」
「うん……!」
決意の目で、ユーナ。
「そりゃまた…………」
アンが途中で言葉を飲み込む。
「そ、そこまで、すごい、愛の力……」
ガートルードが顔を赤らめている。
「あたしもついていっていい? ヴァーレンスって行った事ないんだよね! なんか冒険者ギルドの依頼いつでも下水道掃除しかない平和な場所って聞いてさ。堕天使が攻め入れずに悔しがってるなんて話も聞いたけど、あんまわたしが活躍できそうにないくらい平和って聞いたから今まで避けてたんだけど、友達が人生賭けた恋をするなら応援したい」
アンがそういう。
「エデンって最近呼ばれてますよね。神々が普通に道端歩いている事から。ヴァーレンスって。わたしもいってみたいです」
ガートルードも乗り気だ。
「じゃあルーチアにまず戻って、恋に人生賭ける2人はもろもろの(住んでる所引き払う)手続きすませて、だから2週間くらい?」
とアンが言う。
「うん、そんくらい」
天馬蒼依がこたえる。
「ええ」
ユーナも応える。
「どこ集合? ルーチアでいい? そっからどう行くかが問題だけど……」
アンがそう言って悩む。
「やっぱり安全性重視でルーチア→このファブリス諸島→エデン、ヴァーレンスがいいいんじゃないかなぁ? カイアス陸路でヒメネス、モンテーロ、スパロゥからヴァーレンスは武装盗賊がこわいよ……」
ガートルードがそう分析する。
「船賃高めだけど魔導船で移動するね、ゴッドノーサンキューの退治で結構お金もらったから」
と、天馬蒼依。
「わたしたちが倒したんじゃないけどね……」
アンが苦笑いをする。だから報酬の半分はミハエル達に上げた。