女は恋の天敵はマイナス思考と思っている。実は恋の天敵は
「にゃーにぃうなにゃなんでしょ!? フレッド! あなちゃにゃーΩΨなんБШでしょ!? ああああフレッド、がぽ!」
ユーナが必死に平泳ぎしながら船の、甲板の上のフレッドを見て何かを訴えかけるが、大泣きしながら、平泳ぎしながら、海水を飲まないようにしゃべるなど複数の要因が重なって。ちゃんと喋ることができない。
「こらー! 薄情男どもー! 港の皆もわたしたちの味方だぞ~! 逃げるの諦めろ~! 女の想いは強いんだぞ~、重いんだぞ~! ここで逃げたって、逃がすものか……!」
ユーナと同じ状況下なのに、途切れ途切れではあるが、天馬蒼依が器用にもちゃんと喋れている。
「…………」
フレッドがロープを投げる。それを見たユーナは顔を輝かせ、天馬蒼依は勝ち誇った顔をする。立ち泳ぎしながら。
「ふっふっふっ。良心の呵責に耐え兼ねたわね! こんな美少女2人泣かしてこんな真似させてるんだもんね。当然よ!」
「フレッド…………!」
ユーナと天馬蒼依は喜びと共にロープを掴む。
「俺も鬼じゃないからさ」
とフレッドは話し始める。
「助け舟は出す。でも俺たちに助けられた時点で結婚は諦めろ! その条件なら助ける」
「くそが!! 思わせぶりにロープ投げんな!」
天馬蒼依はかわいい顔に似合わない事を言ってロープを水面へ叩きつける。
「フレッド……」
ユーナは愛しい人の名を呟き、その愛しい人の顔を見上げつつ、悲しそうにロープから手を離す。
「さてここでお勉強の時間です」
ミハエルがいきなりそんなことを言う。
「裏切りとか、敵対心とか、逆恨みとか、憎いと思う相手を思うネガティブな気持ち、これを恨みの念という。恨みという感情は形がない。
彼女ら2人はわたしたちに恨みを抱いている。
『愛しているのに、おいてきぼりにした』
という恨みを。
普通であれば、人の心の中に生まれ、時間と共に大きくなったり小さくなったり、いつか消滅していくことも多い。
ただ、恋愛が絡んであまりに恨みがつのり、大きく成長すると、念として固まり、恨みの持ち主でさえコントロールできないほどの力を持つ。
恨みの念は、人や物などの内側に生まれる。恨めしいにつながるあらゆる気持ちが源となり、成長した結果、消滅させることもできない強い塊となる。
今の2人見たら分かるだろ? 恋愛絡むとプラス方向でもマイナス方向でも加速する。
彼女らの場合関係ないが、よく悪魔が恋のキューピッド役を買って出るのもその恋のパワーの強さが目的だ。人間がちょっと電池買いに行くノリで恋エネルギーを調達している。悪魔は。
恨みという感情は人や物の内側に存在する、だが恨みの念として成長した場合、その存在範囲を広げ、人や物という器から飛び出し、器の死や破壊によって失っても存在し続ける。
あのホラーな家なんかがそうだな。レティチュが説明してくれた。ガンマ波が90超えてる家。
そのため恨みの念の存在場所は、非常に広い範囲になるから、限定不可能だ。
恨みの念は、『誰かを恨むという感情』として、その本来の持ち主から離れた他人の心に入り込むこともできる。
この場合、恨みの念に憑依された人は、実は自分の気持ちじゃあないのに、恨みの感情を自分で育てていく。心霊スポットへ行っちゃだめっていうのはこの気持ちの憑依が起こるからだ。心霊スポットへ行ってから、性格が変わったなんて人もいるだろう。
この恨みの憑依は、恨みの念の持ち主が肉体を失った――まぁ例えば死んだ場合に、その『身がわり』を求めることから周囲の人間に対して起こったり、恨みを晴らすための手段として、周辺の人やモノに憑依したりする。
また、その恨みの対象の内側に、攻撃的な意図をもって憑依する場合もある。内部破壊だな。要するに。
その内側の恨みの念から逃れるには、恨みの念を持ち続けることで怖さを自覚して、恨みそのものを捨てるという心の働きがいい。
恨みを感じた時に、それをできるだけ小さなうちに浄化するとか、恨みの念を持ち続けることに意味を見いだせなくなるのも良い手段だ」
2人の女がミニスカにもかかわらず平泳ぎで船にとりつこうとがんばるのをじーっと見つつミハエル。
「わかったけど、もっと簡単に言えるんじゃね?」
「フレッド…………つまり『恋愛の爆弾』を処理しないと大やけどするよって事だな」
人差し指をたてつつ、ミハエル。
「わかりやすいわかりやすい」
フレッドが少し拍手する。
「フレッドはもう以前から仲間か、サミュエルくん恋の爆弾処理部への入部おめでと~」
「嬉しくないですよーそんな部活~団長~~」
サミュエルが頭を抱えた。
「でもさ、恋の天敵って他にいるのにな、女は気づかないんだろうけど」
と、フレッド。
「ん?」
「いや魔導ネットのMAD動画。女子は早熟だがら小学生でも好きな男の子と結婚してるシーンとか妄想してるのかもしれねーが。
男子の場合あれだぜ。ネットのMAD動画が頭ん中支配してて女子とのエロシーンなんてMAD動画に頭の中から追い出されてんぞ。
気に入った女があんあんいっている光景と、MAD動画どちらかしか見れないってなったら絶対MAD動画でしょ!」
「ああ、それはそうだな。わたし今でもそうかも!」
「でしょーミハさん! 男だもんねえ俺ら! 恋愛よりMAD動画だって」
「どこかの先生が好きな子のアンケート取ったところ、女子はだいたい好きな子がいたのに対して、男子の回答は大半が『誰でも良い』だった。ってデータ出てるもんねえ!」
と2人で盛り上がるミハエルとフレッドを半眼で見つめて。
「男の子ってそうなんですか? わたし女子高だったからわかんなくて」
空夢風音は脱力したようにうめく。
「実際そうよ……」
サリサがくるんくるんホワイトライガーの耳を回しながら言う。
「子どもっぽ…………MAD動画が恋敵って、どう戦えばいいの女として……」
空夢風音はさらにうめいた。
女は恋の天敵はマイナス思考と思っている。――と思っていた貴様の姿はお笑いだったぜ。実は恋の天敵はネットのMAD動画である。