危機感なしのピンチ
そして依頼とやらに準備して出発していった巫女装束の下がミニスカの袴……というか赤いプリーツスカートで、和風柄のニーハイソックスを履いて肌の露出を抑えつつ色気を出している天馬蒼依、銀髪、やんちゃそうな黄色基調で白でところどころ彩った服装のミニスカ剣士アン、ヒーラーの銀髪のボブカット、大人しそうなガートルード=キャボット、そして青い髪で薄いピンクのブラウス、下は薄い水色のフレアミニスカートのユーナ、そのうち3人がでていく。午前10時。
「行ってきます。フレッド。ごめんなさい、デートの続きは依頼終えてからで」
「あぁ」
「い、行ってきます……フレッド」
「はい」
「………………」
ユーナは行ってきますといったまま、フレッドの瞳を見つめている。足が動こうとしない。両手は大きな胸の辺りで組まれている。
「い、行って――」
「わかりました。聞こえてますよ~行ってくるんでしょ。なんかならずものどもを退治しに女4人で。何を求めてるの君は。今の俺に言うべきところは言わないとエスパーじゃないからわかんないよ~」
「ご、ごめんなさい」
それだけ言って伏目がちになり、黙ってしまった。ユーナ。胸の辺りで組まれている両手にギュッと力が入る。
10分くらいその場で足をもじもじさせつつ立ったまんまで、やっととろとろ先に行った3人に追いつくために走り始めた。何度もフレッドの顔を見るため振り返りながら。
「ねぇ、ついてかなくていいの?」
桜雪さゆがフレッドにそういう。
「俺依頼受けた人間じゃないんすけど。ついていってどーするてのよ」
フレッドがココナッツジュースのおかわりを飲みつつうめく。
「でもさ、霊気量相手側の方が大きいんだけど、あの4人より。こっから感知してみたら」
「相変わらず感知能力高いねーさゆちゃん」
「まあね。木花咲耶姫の右腕ですから」
「ふう。じゃあココナッツジュース飲んだら助けに行きますか。なんかこのままだと『あんなひどい事』が繰り返されるようだから」
「おけー」
「で、俺でも勝てんの1人で。ミハさんよりはよええぜオレ」
「おや~? わたしの力はいらないとー?」
「下界の戦いには積極的には参加しないゲッシュあったろ天界人には」
「ゲッシュってケルトジャン。わたし日本なんですけど~」
「わりいわりい。そんでどーなのよ勝てる? 勝てねーんなら策練らねーと」
「瞬殺はされない。変な霊気で自分の能力20倍くらいにブーストかけてるけど息子さんに比べたら雑魚だし。でも1人1人、一般人の中じゃ雑魚として最高レベル? 油断もできないね。下界の肉人形は。
策練るつーかさ。フレッドが急行してわたしがギルド『誰か助けて』に救援求めればよくない? それで息子さんたち呼べるでしょ」
「お。んじゃあ、それでいくかー」
フレッドはそういって食事を終えてレジに行く。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
午前10時46分。そこには4人の女が横たわっていた。そしてそれを取り囲む無数の赤いオーラに身を包んだ俊敏な(100mを0.001秒の速さ、直線移動にかぎる)男たち。そのボスであろう貴族っぽい服装をした男が前に出てくる。
軽い軽いらくしょーという意気込みで行った4人の危機感なしのピンチということだ。
その男はカイアス王国のゴッドノーサンキュー・ウィリアムと自分を名乗った後、こういった。ちなみに彼の名前は親からつけられたのとは違う。火明星では自分の名を自分自身で設定しても良いという風習が根強い。彼は神を憎むあまりゴッドノーサンキューと自分自身を名付けた。
「巫女に銀髪美人にヒーラーに前グオリ卿側の穏健派について、オレに立てついたから家ごと潰してやった元貴族の娘か。あまりこれ以上痛めつけるな、奴隷として商品価値が下がる。
まあ巫女はすでに顔面ボコボコにしちゃったが……意地張ってあがくからかわいい顔が腫れ上がるほど殴られるんだよ。従順にしておけば気持ちいい思いだけできるというのに」
と痛々しくはれあがった顔になってしまった天馬蒼依を見下ろすゴッドノーサンキュー。
そして彼が天馬蒼依の髪を乱暴につかんだ。
「痛い………もうやめて…………もう参りました……あなた達の勝ちですから……もういじめないで……」
ガクガク震えながら涙を流しながらそう訴える。フレッドに突っかかっていた時の彼女とは大違いだ。
男に対する恐怖が見え隠れする。
「くっ……蒼依を殴るのはもうやめてあげて! それ以上顔殴ったら元に戻ならくなる!」
アン=ローレンが必死に訴えかける。
「ぐふっ、ぐううぅううっ、ゲホっがはっ」
アンは赤いオーラを纏った2人に蹴られまくる。正直体格的にはアンが一番耐えそうだ。
「蒼依ちゃん……! あがあっ、いっ、いたい………いたいよっ! 腕が、腕が!」
癒しの魔力で友達の腫れあがった顔を元に戻そうと手を伸ばしたが、ガートルードは、赤いオーラを纏った別の奴に両手を霊気を込めた足で思いっきり踏まれ、へし折られた。そして泣き顔を靴で踏まれる。
当然癒しの魔力は霧散した。
「おーおー派手にやっちゃって」
ゴッドノーサンキューが軽い調子でそういう。
「わたし、あなただけの女になります」
とそこでユーナが意を決したように唐突に口を挟んできた。土下座している。
「ん?」
ゴッドノーサンキューが一言で疑問の意を返す。
「わたしが、あなたの、あなただけの女になりますから、わたしには何をしてもいいですから、友達にひどい事するのもうやめてくれませんか。あなたの、女にィ、なりますから」
土下座している彼女は震えている。声も涙声だ。鼻水をすする音まで聞こえる。
「ふ~ん、じゃあまず犬の真似だな。ほら、ワンってないて。手はこうね、足はもっと開け、むしろ猫の手かこのポーズ、まあいいや」
ゴッドノーサンキューは右足でユーナの大きな左胸を乱暴にいじる。もちろん気持ちいいわけがない。そんな扱い。彼に従い屈辱的なポーズを取るユーナ。涙があふれている。
「ワンッ」
「よし、確かに命令に従う気はあるようだ! ボブカットの折れた両腕を治せ!」
その言葉に、安堵の表情になるユーナ。
「その両腕一気にへし折られて大泣きしてるボブカットのおもらし女の両腕しっかり治しとけよ。しつけて使うにも両腕無事じゃないと面倒だ。まあいきなり両腕へし折られたらおもらし位するか」
「ちょっ、ちょっと奴隷になるのはわたしだけのはずじゃ――だからわたし屈辱的な事にも耐えるつもりで――」
「知らんし。ボブカットの両腕は治せよ。俺にご奉仕させるのに腕へしおれてたんじゃできないからな」
「…………あなたっ、あなたって人はっ、人をなんだと…………うぅぅぅうぅうぅ……」
ユーナが恨みのこもった目で悔し泣きを我慢できずに声を上げる。
「あと巫女のはれた顔も治してやれ。かわいがってやるときにはれた顔じゃあ萎える」
「はっ!」
「はっ!」
「はっ!」
「アーーーーーイ!!!」
と赤いオーラの兵士に紛れていた金髪の男が青い霊気を出して叫んだ。
赤いオーラの兵士の2分の1の数が彼の持つ霊気を半霊半物質化した青い剣に薙ぎ払われてゆく。
「うそ、わたしたち4人でかかっても赤い兵士1人にすら敵わなかったのに……何の冗談なの!? 嘘……わたしたち、の、強さって……」
アン=ローレンが上体だけ何とか起こしてその光景を見る。
「アーーーーーイ!!!」
と赤いオーラの兵士に紛れていた黒髪の男が叫んだ。
その声質にユーナの顔はハッと光輝いたように明るくなる。
「うそ、本当、来てくれたの……! フ、フレッド……涙が溢れてきてぼやけてあなたの顔よく見えないよ! え、えへへ、えへへへへ、うふふふふ、最初からわたしあなたのこと信じてたもんね~、どうだまいったか~、えへへへ、へっへ、へへへ……ヒック、ひぐぅ……! えへへへへ、えへへ、えへへへ、ぐすっ、あなたのこと、信じていました…………! ほ、本当よ! いや、でも、本当は……」
とそんな風に涙を流しつつ鼻水もダラダラ流しつつ穏やかな目になって、ニヤつくユーナの言葉は置いておいて、黒髪の男は右手に滅炎剣(炎を滅する氷の剣)、左手に滅氷剣(氷を滅する炎の剣)を振り回し、赤オーラの兵士の残り2分の1を氷と炎で薙ぎ払った。
「そしておまけだー! これは霊気の高い低い関係ないぜー!」
アーーーーーイ!!! 2号は右手を左腕に添え、左手を握りこぶしにし、地面に向けて構える。
「おいフレッドやめろそれ! あーもう!」
アーーーーーイ!!! 1号が慌てた様子で自分の耳をふさぐ。
空夢風音とレティチュは何かを考える間も惜しみ、アーーーーーイ!!! 1号の真似をし自分の耳をふさいだ。ユーナも直観で耳をふさいだ。
ドォオオオォォォォォォオオオオオオオォォォォォオオオオオオォン! キィィイィィィィイイイン! ドキュン! ドンドンドン!
とてつもない轟音が辺りを支配する。
フレッドの技の一つ、轟音乱気流だ。
赤いオーラの3分の1くらいは脳を直接揺らすかのような轟音に耐えきれず、白目をむいて気絶してゆく。
「こ、これ、耳塞いでないとわたしたちも気絶してましたね」
空夢風音がぼやく。しかし自分のぼやきもかきけされて聞こえない。
「これは耳塞ぐの遅かったらとヒヤヒヤしますね~~」
レティチュがエルフのとんがり耳を必死に抑えつついう。
傷ついた天馬蒼依たち3人は轟音乱気流から離れでいたので普通にうるさいだけで気絶まではいかなかった。
「な、な、なんだぁ!?」
ゴッドノーサンキュー・ウィリアムは気絶はしていないが戸惑っている。
空で十二単が笑っている。と十二単がある方向を向いた。
その方向では空夢風音が小太刀2刀流で、速さで翻弄しながら赤い兵士を1対1で1人で倒していた。
その近くでレティチュが忍者らしい素早さで赤い霊力の男を翻弄し竜巻の術で霊気の竜巻を相手にぶつけ、完全勝利していた。
「一つ、人の世で生き血をすすり……つまりお前ら悪人は蚊です!
二つ、不埒なえっちーな悪行三昧! お前ら女の子のパンツ覗きすぎです!
三つ、醜い鬼を、蚊取り線香で退治してみせようデース!」
決まったデースと決め台詞を言い終えたレティチュ。
「やるじゃん、あのいいトコのお嬢さんだけどおっぱい爆乳&でっかい尻とパンツ見せて片思いの男誘惑お嬢様にエルフ忍者」
ひどいあだ名で呼んで十二単は空夢風音を褒める。エルフ忍者も褒める。
「なるほど、フレッドから聞いたがこんな奴らにまわされるような目に遭ったんじゃ男恐怖症にもなるわ、わたしが同じ立場でも恐怖症なるわ。こんなんにケツの穴狙われたら気色悪い。
こんな奴らが異世界転生目的でわざとトラックにはねられて暑い中走ってるありがたい運送業に迷惑かけてエロ漫画の主人公みたいな特殊能力を神もどきの悪魔からひったくるんでしょ? 神もどきの悪魔もついでに冥界に閉じこもらせたいな」
と赤いオーラの兵士に紛れていた金髪の男――ミハエルが吐き捨てる。
「お、お前! なにをしている! なんだ、女たちの惨状にくだらない良心でも湧き起ったか! ふん、くだらん! どうせこいつら4人は奴隷としてこきつかって、そのあと快楽というご褒美を与えるんだから同情するいわれなんてないぞ!」
「ごめん。生き物に対する考え方が違いすぎて、お前と話したくない。女だって生き物だよ当然男だって立派な生き物だが。ゴッドノーサンキューだっけ。わたしはお前がノーサンキューだわ」
「え? お前……え?」
ゴッドノーサンキューに向けて、ミハエルは左手をパーの形にして霊気を集め始める。
「察しが悪い。じゃあ君は部下に謀反されて死んだでいいよ。黒竜光波!」
ドキュウウウウウウウウウウウン!
ミハエルがカイアスで神にもとどくと言われた魔導士を葬り去った光の衝撃波を放つ。大きな光り輝く蛇竜がその場に現れたと思った人もいるだろう。
「お、お前は。ミ、ひゃあえええええええええええるううううううううううひゅぴいいいいいいいいいいいいいいいいいいいげーーーーーーーーーーーーーーーー」
ゴッドノーサンキューは光に呑まれ、この世界からは旅立った。
「クロード! 残りを君の槍で蹴散らせ! サミュエルは怪我した人の治療を!」
光の衝撃波を撃ち終えたアーーーーーイ!!! 1号は自分の部下に命令した。
「はい! いやぁあああぁぁぁっ! ハリケーンランス!」
イケメンクロードが槍を回転させながらこたえる。自分の霊波動で槍の長さを長くする。青い半透明の刃で!
「はい!」
サミュエルが杖をもって応える。
「僕の出番は、ないみたいだね。手遅れにならないで良かった」
とアリウス=シュレーゲル。
「君が出張るほどの相手ならこの星が戦闘に耐えられないことを懸念しないといけないからな」
アーーーーーイ!!! 1号はそんなことを言う。
「それきみもでしょ僕たち強さほぼ同じなんだし」
「まあそうだけども」
アーーーーーイ!!! 1号は認める。
「わたしもフレッドもスケベだけどさあ。女とわいわいじゃれあって2人で仲良くエチィ事するのが好きなのよね。和気あいあいエチィがさ。あ、でも今冬華、フィオラ、サリサらを、というか他人を治癒する能力高い女たちを後ろに置いてるけど、とにかく後ろに下げてるから言うけど、痴漢プレイなら好きかな。プレイね事前に彼女に許可貰った彼女とのごっこ遊びだから、痴漢プレイにかぎったことじゃないな。彼女とのごっこ遊び全般が好きなのだから。だけど、こんな惨状趣味じゃないわ」
アーーーーーイ!!! 1号は頭を手櫛でかくようにかいた。彼は、魔導携帯端末を手にする。
「グオリ君? 繋がった、もしもーしミハエルデースお久しぶりでーす、あのね。今話大丈夫? えとね、今ファブリス諸島にいるんだけど、君と敵対してるカイアスのゴッドノーサンキュー侯爵あの世に送っちゃった。まずかったかな? 戦闘回避できない状況になったんで……よかった? ふーん君も苦労してんのねー。
きみ側についていた穏健派で爵位剥奪されたショーペンハウアー家の生き残りのユーナ=ショーペンハウアーはわたしが保護した。わたしがって言うかフレッド……わたしの友達がだが」
アーーーーーイ!!! 1号は前カイアス行った時にできたコネの人物に連絡しておいた。