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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある自殺願望者の何処にでもありそうな日常

作者: 入水璃穹

 死とは何か____それに対する俺の答えは唯一つ。

 救い。

 この色褪せた世界で、鮮やかに散る命。

 それほど綺麗なものはこの世には無いんじゃないかと思っている。

 そして___それは今でも変わらない。

 あの日も_____


  ×××××××××××


 キーンコーンカーンコーン

「凜月帰ろっか」

「うん帰るか」

 何気ない日常

 起きて、飯食って、学校行って、帰って、殺して、飯食って、寝る。

 欠伸が出るほど何も無くて、空を見上げれば飽きる程見た夕陽。

「__でさ!彼処のボスってどうやって倒せばいいわけ?」

「___ん?あぁ、彼処は近距離はショットガン使って、怯んだらアサルトライフルぶち込んだらいいぜ」

「アサルトかー。リロード遅いから外したら怖いよな」

「あーなら___」


  ×××××××××××


「んじゃまた明日!」

「うん。じゃーな!」

 雪斗と別れ人っ子一人居ない道を一人歩きだした

 カツカツと俺の足音だけが響く。

 携帯が鳴った。

「ピッ__もしもし」

「仕事だ。標的は___」

 はぁ、課題があるってのに...

「了解した。そのまま向かう。」


  ×××××××××××


 錆びれた倉庫街。

 裏社会の人間が武器など密輸品を保管するために使われている。そんな灰色の場所。

 今は夕方で、少し見渡せば夕陽に輝く海が見える。

 そんな静かな場所に響き渡る銃撃の音。

「クソッ、通信が繋がらん!妨害電波か!」

 そこでは2つの非合法組織が争って...いや、片方が一方的に蹂躙されていた。

「おい、A班は前線で足止めしろ!B班はA班の援護!C班は退路まで走れ!」

 銃撃の音と悲痛な叫び声が戦場音楽として鳴り響く。

「隊長助けッ___」

「嫌だ、まだ死にたくな__」

 倉庫の中は暗く。誰が何処に居るかも分からない。

 仲間の流れ弾に当たって死にゆく者。

 闇に潜むナニカに殺される者。

「おい!ライトをつけろ!相手はこの闇の中でも此方が見えている!」

 ...........静寂。

「おい!聞こえないのか!ライトを__」

 彼は気付いた。いつの間にか銃撃音が止んでいることに。誰の声も、気配もしないことに。

 カツカツと足音が聞こえた。

 音がする方に男は灯りを向ける。

 そこには14、15歳程度だろうか。小柄で白いパーカーのフードを被った少年が立っていた。

「全員死んだ。君以外はね」

 銃口を向けているにも関わらず、少年は通学路を歩くかのように男に向かって歩いていく。

「う、動くな!今すぐ止まらねば撃つ!」

 震え、汗が滲む手で銃を構える。男は今迄幾度もの戦場を駆け抜けてきたが、ここまで手汗滲む思いをした事が無かった。

 少年は警告が聞こえていないのか、それとも聞こえているが無視しているのか、変わらず近付いてくる。

 短機関銃から銃弾が飛び出した。

「銃弾は効かない」

 少年に銃弾は届かなかった。

 少年の周りに分厚い氷の壁が表れ、防がれたのだ。

「その氷、そして血に濡れたような髪色。お、お前、もしかして教会の狗の__」

 男が言い終わる前に男の真横を氷柱が掠めた。

「俺は狗じゃねー。そもそもネコ科だし」

「唯の噂だと思っていた。本当に実在したとはな.....氷血の死神」

「死神ねぇ...俺の方が死神に迎えに来て欲しいくらいだよ」

 少年は掴み所のない笑みを浮かべながら男に近づいていく。

「なぁ、オッサン。今から君、死ぬわけだけど言い残した事ある?」

「ああ、どうせ俺は死ぬんだ。聞いてくれよ」

 男は何処か諦めたような、だが恨みを持ったような瞳で少年を見つめた。

「何?出来れば手短でよろしく」

 聞いた割には面倒くさそうに返事をする少年。

 男は少年に掴みかかり、叫んだ。

「その白いフードで隠したってお前が血に濡れた”バケモノ”だってことは隠せねぇんだよ!その汚れた手で何人もの命を!知ってんだよ!お前は人間でも獣人でもねぇ!”バケモノ”だっ____」

 グサッと音がした。

 男の腹からは氷が突き出ている。

 その上から降りかかるように氷塊が男に打ち付ける。

 グチャッとなんとも気持ちのいい音ではない音とともに男が肉塊となった。

「あー、すまんオッサン、話長すぎ。つい殺しちまったじゃん」

 ヘラっとしながら喋る声はもう、男に聞こえていなかった。

「もう、聞こえてねぇか..」

「俺が”バケモノ”だって?___そんなん俺が1番知ってんだよ」

 濁った水色の目は何も映さない。

 彼は__凜月は__何も存在していなかったかのように歩き出した。


  ×××××××××××


 俺には母親も父親もいる。ごく普通の家庭だ。

 まぁ父母は両方とも義理だが。

 俺は所謂実験体と呼ばれるもので、バースト__まぁエジプトの猫の神様でバステトなんて呼ばれてもいる__と氷の能力を掛け合わせて造られたモノなのだ。

 まぁ、詳しい事は省くが、人間そっくりな器にバステトと氷の能力を持った奴の遺伝子を足して、其れを制御する人格__制御装置(プログラム)__を入れたモノ。

 其れが俺だ。

 勿論、最初は信じなかった。獣人だって学校に1人はいるくらいの珍しさだし、能力持ちだってこの世に少なからず存在する。

 義父母も優しいし愛情を注いでくれた。

 其れが偽りでも___


  ×××××××××××


「おはよ」

「おはよー」

 朝は弱い為何時もよりテンションの低い気怠げな声が出る。

「なんかずぶ濡れだね、どうした?」

「あー川飛び込んできた」

「また?」

「うん。...また失敗だよ。やっぱり入水は死なないなぁ..」

「それは凜月だけだよ」

 苦笑いでそう言ってくる雪斗。

「てかさ自殺とか、俺には理解出来ないんだけど。なんで死にたいの?」

 何気なく聞いた質問。でも、その質問をした時、世界が一瞬止まったように見えた。

「それじゃあ聞くけど...」

「なんで死んじゃダメなの?」

 それは、純粋な疑問だった。

 本当に、何故駄目なのか分からない、というような目だった。

 それは、何時も大人びていて、何処か世界を達観している凜月が初めて少年らしい顔をした時だった。


  ×××××××××××


「____は?え、___ああ、もう一回言ってくれないでしょうか」

 数日後、上に呼び出され、告げられたことは、とても__俺には出来ない仕事だった。

「君の冷酷に淡々と仕事をこなす様は聞いているよ」

「___お褒めに頂き光栄です」

 別に好きでこの仕事をしている訳じゃない。逆らって死ぬより痛い目に遭うのは嫌だし。この、死を身近に感じられる世界なら、何か見つかるんじゃないだろうかと思っただけだ。

「だからね。今回の仕事を君に任せたいんだ」

「一つ、宜しいでしょうか」

「なんだい?」

「その、標的(ターゲット)は一般人です。銃の扱いも知らない平和ボケした人間です。俺などに任せなくても__」

「今は忙しくてね。人員不足なんだ。だから丁度暇が空いてる君に回ってきたというわけだ」

「__そうですか」

 嘘だ。これは俺の忠誠を試す試験(テスト)だ。

 だって、今回の標的(ターゲット)は___

「いい報告を期待しているよ」


  ×××××××××××


「どうした?こんな所に呼び出して」

 深夜、廃ビルの屋上にある2つの人影。

 一つには猫耳と尻尾が生えている。

「ああ、話したい事があってさ」

「ふーん。で、話って何?」

 今回の任務は”空圸一家の処理”

 雪斗の父親がコチラ側の人間だったらしく、裏切りが判明して死ぬことになった。

 勿論、裏切り者にはその家族にも粛清が及ぶ。

 家は焼かれ、遺品は全て燃やされ、家族は殺されて見せしめにされる。

「なぁ...」

「俺を殺しに来たんだろ?」

「!?」

 気付かれていた?何処で____

「父さん、お前んとこの組織の人間だったんだろ?昔、父さんの仕事が気になって尾行した事があってさ。」

「凜月が殺し屋って事もそこで知った。」

「じゃあ..俺が、俺が”バケモノ”って事も知ってんだろ...なんで仲良くしてたんだよ」

 こんな”バケモノ”何かと態々仲良くするなんて訳が分からない。

「”バケモノ”?凜月は”バケモノ”なんかじゃないだろ。唯の獣人だ。何処にでもいる普通の。」

「はは。何処にでもいる普通の獣人が殺し屋なわけねーだろ」

 乾いた笑みが零れる。

「普通だよ。お前は特別でもなんでも無い。その辺にいる中学生で俺はその普通の奴の友達」

「俺が普通___普通か...はは、そうか、普通かぁ」

「ああ、普通だよ」

 非合法組織の構成員が普通とか本当に此奴は__

 本当に此奴は訳が分からない。

 でも、その言葉に救われてるんだ。

 こんな”バケモノ”を”普通”だと言ってくれるお前に救われているんだ。

 数分の間、俺らは笑いあっていた。何処にでもいる学生のように__

「俺さ。ぶっちゃけ死ぬの怖いんだ。母さんもこの後殺すんだろ?」

「___ああ、殺すよ」

「でもさ、俺、お前が殺すなら良いかなって思ってるんだ。知らない奴に殺されるよりよっぽど良い」

 雪斗はビルの、フェンスも何も無い縁に歩いていく

「っ、そっちは危ない!」

「でも、やっぱり殺されるのは嫌だし、こんな状況になったこと恨む。」

「だからお前に呪いを掛けてやるよ。一生解けない呪い」

「ああ、呪いでもなんでも掛けろ。だから、そっちに、そっちには行くな..危ねぇから」

 雪斗は、あと一歩下がればビルから落ちる、というギリギリの場所にいた。

「お前はさ、いっっつも煽ってくるし、隠し事してるし、勝手に悩んで頼らねーし、だから俺はそんなお前になんて殺されてやらない」

 雪斗は笑っていた。清々しい程の笑顔で、何時もみたく悪巧みをするように。

「俺はこれから死ぬけど、お前は死ねない。少なくとも自殺で死ぬ事は出来ない__」

「だから__お前は生きろよ凜月」

 そう言い残して__雪斗は落ちた。

 落ちる瞬間、雪斗が見せた笑みは今まで見たどんなモノより綺麗だった。

「雪斗っっ!!!」

 急いでビルの下を覗く__そこにはもう、一生俺に話しかけることの無い雪斗がいた__


  ×××××××××××


「クソ...死ねなかったか..」

 起きるとそこは美術館だった。

 少し古いようだがボロいというよりかは趣があって西洋ファンタジーに出てきそうな雰囲気だ。

「は?なんだよ..此処。俺、あの後飛び降りた..よな?」

 雪斗が居ない世界で生きる位なら、死んでやる。怒られたっていい。

 それ程までに雪斗は、俺にとって大事な人だったんだと、今、気付いた。

 そして、気付くには遅かった。

 それはそうと、彼処ら辺に博物館は無かった筈だ。

「へぇ、好きに絵を飾っていい..か」

 少し見て回ったが、まだ数点程度しか無いようだ。

「君、絵が好きなの?」

 ふと、声を掛けられた。

 誰かと思い振り返ると、俺と同じくらいの年齢の猫耳少女が立っていた。

「え、あ、あぁ。はい。まぁ、絵と言っても絵画というよりはアニメや漫画とかそっちの類いのものですが」

 最近はあまり絵を描いていない気がする..

 これでもその辺の人よりかは絵は上手い方だと思っている。

「浮かない顔..何かあったの?もし僕で良かったら話してくれないかな。もしかしたら力になれるかも..」

 そう、遠慮がちに少女は聞いてきた。そんなに浮かない顔をしているだろうか。

 だが、きっと、こんな事話したってどうしようもない。

 だって、彼奴は死んだ。

 彼奴の家族も死んだ。

 もう生き返ることは無い。

 俺が殺したようなものだから。

 なのに__

「友人が...死んだんです..おれの目の前で」

「俺にとって他人なんてどうでも良かった。死のうが生きようが関係無かった__筈なのに」

 俺は、ポツリ、ポツリとたった今、初めて出会った名も知らぬ少女に心の内を打ち明けていた。

 いや、初めて会った人間だからかもしれない。もう会うこともないであろう人間だからこそこんな悩みを打ち明けられるのだ。

「分かるよ、友人が死ぬ苦しみ。僕の友人も__」

 死んだから。

 彼女はそう言った。

「ッ...辛いこと思い出させてしまいましたね。すみません」

「いや、大丈夫だよ。__だからさ、君には僕と同じ過ちをして欲しくないんだ」

 俺に気を使って微笑む少女。

「でも!彼奴は!もう___」

「力になれるかも、って言ったでしょ?」

「ッ方法があるのか!?教えてくれ!なんでもする!彼奴と会えるなら!!」

 もし、また彼奴と会えるという可能性が1%でもあるのなら__

「勿論教えるよ」

 少女はニコッと微笑みながら説明した。

「君には時間を遡って貰う」

「時間を..遡る?」

「僕の能力は時間を操る、時間を止めたり__ね?勿論過去に戻ることも」

「!?それがあれば!」

「但し遡れるのは5時間前まで。能力は2、3回が限度。だけど過去に戻ったら僕とはまだ会ってない状態だから連続使用で5時間以上前に戻るのはほぼ不可能」

 そこで少女は言葉を切った。そしてたっぷりと次に紡ぐ言葉を口の中でとってから次の言葉を放った。

「君の意思を聞きたい。君は過去に戻って友人を助けたい?」

 それは、真剣な眼差しだった。友人を失った彼女だからこそ、俺の意思を確りと確認したかったのだろう。

 そんなの__説明を聞いている時から決まっている。

「勿論」

「それじゃあ、行ってらっしゃい。健闘を祈ってるよ」

 そこで、俺の意識は途切れた___


  ×××××××××××


「ッはっ!此処...は?」

 見回すと此処が自分の部屋であることが分かった。

 時計を見ると時間は午後7時。

 本当に__過去に来たのか。

 ということは”前回”任務を言い渡されて帰ってきた後か。

「さて、”今回”はどう動くべきか」

 あまり時間はない、任務を放棄した事が伝われば俺以外の人間が雪斗を殺しに行くだろう。

 まぁ俺もタダじゃ済まないが__それはまぁどうでもいい。

 はぁ..まぁ選択肢なんて1つしかないか。

 雪斗が死ぬことも無く明日からも組織に狙われないで済む方法。


  ×××××××××××


「どうした?こんな所に呼び出して」

 P.M.7:30、廃ビルの屋上にある2つの人影。

 一つには猫耳と尻尾が生えている。

 まだ午後7時ということもあってか少し遠くの方から雑踏のザワザワした音や自動車のエンジン音が聞こえる。

「ああ、話したい事があってさ」

「ふーん。で、話って何?」

 ”前回”の任務は”空圸一家の処理”

 だが”今回”は違う、もう間違えない。

「なぁ...」

「俺を殺しに来たんだろ?」

「...あぁそうだよ。そうだったんだよ」

 本当ならお前を俺は殺さなきゃならないんだよ。

「俺の正体は知ってるんだろ?」

「知ってるよ」

「なぁ、雪斗。今から話す事、多分信じられない事だと思うけど、最後まで聞いてくれ」

 それから、俺は”前回”の出来事を話した。

 雪斗は時々相槌を打ちながら、質問をしながら話を聞いてくれた。

「要するに俺は_両親は_死ぬってことか!」

 納得!と手をポンっと叩く雪斗。

「いや、軽っ!...怖くねぇの?」

 此奴...馬鹿か?いや、馬鹿なんだな。

 死ぬってわかっててこんな軽い反応の奴は死にたがりか馬鹿のどっちかだろ。

「え?怖いに決まってんじゃん。馬鹿なの?死ぬとか嫌だよ?」

「それじゃあもうちょっとパニックになるとか文句言うとかないわけ???」

 と、もはや真剣な話の筈が此奴といるとどうもコントのようになってしまう。

「え、だってこの話するって事はどうにかするんだろ?俺らが死なないようにさ」

 雪斗はそう、さも当たり前のように笑った。

「....流石に俺でも出来ない事はあるんだぞ?」

「だから__おやすみ雪斗」

 廃ビルに一つの銃声が鳴り響いた。


  ×××××××××××


 P.M.9:00

 コツコツと響く足音。

 此処は俺が所属する組織”教会”の本部。

 対戦車擲弾(R P G)でさえ破壊できない壁や床には塵一つもなく、鼠一匹さえ入り込むことは出来ない。

 暗い暗い廊下の先。

 その先にはロールプレイングゲームのラスボスが居そうな重厚な扉がある。

 扉の先には教会(教会と言うには血なまぐさいが)の首領の執務室だ。

  ドアを3回ノックして声をかける。

「首領、失礼します。入っても宜しいでしょうか」

「構わないよ」

 執務室には海外製のウン百万とするであろう椅子に座った首領。

 そして背後にはこの組織の最高幹部が立っていた。

 部屋には高級そうな絵画やなんか高そうな壺が飾られており、この部屋だけで一体何千万かかってんだろうと毎度毎度考える。

 気配的には10、いや20人か..

「それで、任務の方はどうだったかな?」

「勿論。全員仲良く寝てもらいました」

 どうせ盗聴してわかってんだろ。と、喉まで出かかった言葉を飲み込む。

「それはよかった。__ところで凜月君。外の警備達との会話が聞こえなかったんだが..何故かな?」

 もうそこに気付いたか..

「それは勿論__永眠したからですよ」

 そこからは早かった。

 隠れていた奴らがぞろぞろ湧いてきて、それを潰して。潰して。潰して。潰して____

 でも、それにも限界がある。

 1人で組織1つ潰すなんて普通できる事じゃない。

 普通なら____とっくに死んでても可笑しくないのだ。

「此処で..くたばる訳には行かねぇんだよ!!此処では死なねぇ。否、死ねねぇ」

 ー永遠の夢 望み眠れど 何せむに

 夢の浮き橋 途絶えして

 今日も今日とて 朝日のぼらむー

 頭にふと思い浮かんだ和歌。その歌を頭で詠み上げた時、力が湧き起こった。

 飛び散った氷の破片に移った姿には、

 燃えるような赤に真っ白なメッシュが入った髪。

 目には雪の結晶が浮かび上がっていた。

 身体にはコスモスの模様が浮かんでいる。

 所謂、能力痕と言うやつだろう。

 次々に出てくる敵を倒した。

 何時もなら逆らえない幹部さえも呆気なく散っていった。

 どれだけ時間が経ったのだろう。

「後はお前だけだな」

「ふふっ。そうみたいだねぇ」

「何笑ってんだよ気色悪ぃ」

「いやぁ、矢張り私の勘は正しかった」

「君ならいずれ私を越えると、殺すと思っていたよ」

「そうかよ。お望み通り殺してやるさ」

「私はね、嬉しいのだよ。君が”覚醒”した事が」

「覚醒?」

「その”姿”その”力”私達が年月を掛けて作り上げた実験が此処で実を結ぶとはね」

「ケッ死ぬ間際まで実験の事かよ」

「それじゃあ、その最高の実験結果の末に死ね」

 俺は猫の爪で首領の腹を貫いた

「____、____」

 最期に首領が何か言った。

 何か、というのは聞こえてはいたが脳がその言葉を理解しようとするのを拒否したからだ。

 ふと、執務机に目をやると、小さな箱が置いてあった。

 箱を開けてみれば中には少し高そうなイヤーカフスとメッセージカードが入っていた。

 ”実験体(モルモット)からの卒業おめでとう。君は自分の意思でその自由を掴み取った。自由になり給え”

 そのメッセージを見た途端。首領の最期の言葉を理解した。

「よくやったね、君は自慢の子だ」

「最期まで__首領の、父さんの思惑通りかよ..」

 その言葉に返答する者は居ない。

「ハハ、何でだろうな。何で、何で、おれ、ないてんのかな...」

 組織は壊滅して、空圸家は助かって、俺はもう何者にも縛られなくて、コッチの世界には俺の求めたモノは何もなくて__

 それで、それで全てハッピーエンドなのに__他に望むものなんてないのに____

 獣は吠えた。血の海の中で。誰にも聞こえない闇の中で__


  ×××××××××××


 あの後、調べた所によると”空圸一家”の処理など、はなからなかったらしい。

 雪斗の父親は組織に多大な貢献をした人物ということもあって例外的に組織を抜ける事が許されていたらしい。

 とはいえ突然の任務放棄と失踪は組織を裏切っているわけだから処理されていても可笑しくはないのだが。

 まぁ__そもそも俺が心配していた雪斗の死は別段問題無かった訳だ。

「なぁ凛月ーもうちょいマシな方法無かったわけ?あんな近くで発砲音聞いたら鼓膜破れるって!」

「盗聴されてたし、雪斗が死んだと思わせる方が都合が良かったんだよ」

 そう、あの時、俺は雪斗に発砲したと見せかけて俺は雪斗の真横スレスレを撃ったのだ。

 その後雪斗には俺の家に隠れて貰って雪斗の家族には手刀をかまして少し寝てもらった。

 背後から襲ったため俺とはバレていないだろう__多分。

「てか、そのイヤーカフスどうした?」

「あ?これか?___これは__父さんの形見」

「父さん?死んだの?」

「あーいや、そうじゃねぇよ。いや、まぁ義父母は殺しちまったけど__」

 そりゃ帰ってきて早々襲われたら対処せざるを得ない。

 結局、義両親は”俺”ではなく、実験体No.___の絶大な力を愛していたのだろう。

「義両親と言えど俺を愛していると信じていたんだけどな。ハハ..」

「...それじゃあ”父さん”ってのは?」

「俺を創った人__言うなれば生みの親」

「それって___」

「まぁ__今となっちゃ彼奴が何を考えてたかなんて分からねぇし、気にすんなよ」

「そう..だね。まぁ凜月がいいならいいんじゃない?」

 平和な街で、何時ものように何気ない会話をしながら俺らは帰路につく__

  ×××××××××××


 何気ない日常。

 起きて、飯食って、学校行って、帰って、飯食って、寝る。

 欠伸が出るほど何も無くて、空を見上げれば飽きる程見た夕陽。

 何時もと違うのは組織が無くなった事と一人暮らしを始めた事。

 そして、時々あの不思議な美術館を訪れている事だ。(大体、自殺が失敗した後に行く事が多い)

 彼処には猫耳少女(名前は麗夏と言うらしい)だけでなく、”幽”や”聖愛”という奴らも居た。

 俺はあんな事があった後でも考えが変わらない。

 命が散る時がこの世で最も美しい。

 そして俺はもう一つ死ぬ理由が出来た。

 散っていった彼らはどうなったのだろうか?

 人の生きる理由は何なのだろうか?

 死の先にあるものはなんなのだろうか?

 彼らは死ぬ間際その答えを知る事が出来たのだろうか?

 それを知るために俺は今日も自殺を繰り返す。

 俺はある日、この美術館に絵を飾った。

 題名は__



 ”ある自殺願望者の何処にでもありそうな日常”

どうも作者の入水璃穹です。

処女作である本作品。小説素人であり、なろう小説の投稿も初で至らない点など多くあるでしょうが暖かい目で見て頂けると光栄です。

さて本作品、実は私の所属するグループのストーリー編にあたるものでございまして、まだ動画に投稿はされていませんが何時か似たような物語を見かけた場合、私のグループのものだと思って下さい。

さて、まだ語られて居ないことが多くあると思います。

永遠の夢 望み眠れど 何せむに

夢の浮き橋 途絶えして

今日も今日とて 朝日のぼらむ

という和歌が出てくるのですが之は一体何なのか。

何故四月一日凛月は作られたのか。

教会とは何だったのか。

これらはまた、何時かの物語で語られることでしょう。

今はまだ、貴方の想像と考察の中で眠らせて頂きます。


本作品が良かった、と思って下さったならば是非☆をつけて頂けると嬉しいです。

また、コメント等でアドバイスや感想等もお願いします。

それではまた何時か会いましょう。

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