消失と出現
一同は図書室に椅子を戻すと、もはや慣れた並び順で、厨房へと向かった。
クロも行ったり来たりの蛇行を繰り返す通路を抜け、寝室へ続く扉を引き開けた。
そこに、先行していたエルディンとポーリエ、ミルファとウィテーズがいた。後続を待っていたようだが、困惑した表情で一斉にこちらを見る。
コルテリアがいない。
「コルテリア様は?」
「コルテリア様を見なかったか?」
クロの問いに、エルディンが問い返した。
「いえ。ミルファ様より先にいらしたのでは?」
「そ、それが、わたしがこの部屋に着いたら、エルディン様とポーリエ様しかいらっしゃらなくて」
「わしがこの部屋に入って、いったん他の方たちと隊形を整えようと待っておったのだが、ポーリエ殿の次に入ってこられたのがミルファ様だったのだ。遅れておられるのかと思ったが、ミルファ様もご覧になっておらぬとのことだ」
「それは、どういう……」
そこへ扉を開けて、スーテが現れた。
「お待たせしました。コルテリア様は?」
「それが見当たらんのです」
あり得ない。
コルテリアは前後を守られて移動した。聖域は部屋と通路が一続きに連なっており、脇道は存在しない。前後の人間に分からないうちに姿を消すなど不可能だ。
「お手洗いに行かれたということですか?」
状況が分かっていないらしいスーテが、再度尋ねる。
「いや、それがしとポーリエ殿が待っておったが、コルテリア様だけがいらっしゃらぬのです。お手洗いはこの部屋より先にある。先行した我々の目に触れぬように行けたはずがない」
「途中の、どこか物陰で倒れられたとか」
「後続が見落とすとは考えにくいが、可能性はある。戻って捜すことを提案する」
ウィテーズの言葉に、皆がうなずいた。
とはいえ、捜すべき場所は多くはない。
念のために、隣のもう一つの寝室を捜索し、誰もいないことを確認してから、玄室の方向へととって返す。
二つの寝室を確認する。机や寝台の下、棚の陰など家具の周辺をくまなく捜すものの、コルテリアは見つからない。そもそも人が隠れられるほど大きな家具がないのだ。
「最悪の状況を想定した方がよろしい。とにかく素早く捜索していきますぞ」
「分かりました。皆様、コルテリア様本人だけでなく、何か痕跡もないか気をつけてください……血痕ですとか」
エルディンに応えながら、スーテが皆に指示した。『最悪の状況』という言葉のせいか、顔色が悪い。
「スーテ隊長、しっかりなさってください」
「分かっている。行くぞ」
再び狭い通路を、先ほどと同じ隊列で行く。コルテリアが抜けてはいるが。
先頭からエルディン、ポーリエ、コルテリアが抜けて次のミルファ、ウィテーズ、クロ、スーテ。
通路は両腕を広げたほどの幅。横二列に並べなくはないが、いざ戦闘が起こった時に動きを制限される。ただでさえ武器を振り回すのが難しい上に、カーブしていて先が見通せないのだ。
「ウィテーズ様、前後の方と距離を空けませんように」
曲がり角に差しかかるあたりで、クロが声をかけた。
「分かっ……る……」
さほど離れていないのだが、壁に半ば隔てられるだけで声が聞こえにくい。人が常時発散している魔力も、ほとんど感じられなくなっている。やはり一般的なダンジョンと同じく、聖域の壁も音や魔力を遮断する機能があるらしい。
通路には何の発見もないまま、図書室にたどり着いた。
図書室で、一通りの捜索を行う。
「やっぱり、いらっしゃらない……」
「残るは、前室と玄室。エルディン様、先頭をお願いします」
「心得ました。皆様、行きますぞ」
短い通路を抜け、前室の扉の前に行く。
「開けます」
クロからはよく見えないが、エルディンが扉を開けたタイミングで、ポーリエやミルファが驚いたような声を上げた。
「そんな……!?」
「何があった!」
前方にいる者たちが部屋の中に駆け込む。後方のクロたちも、中に入ると共に、眼前にあるそれを見た。
それは、祭壇前の床に仰向けで横たわる、コルテリアの亡骸だった。




