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玄室再び

 チート無双フラグなるものが何なのか物凄く知りたかったが、クロは礼儀正しく無視した。 

「もう一つ疑問が。皆様のお話を伺いますと、お籠もりが終わったばかりの聖女様方が強制的な奇跡の行使に苦しんでおられる間に、先んじてスレイマン様と私がこの聖域に入ったと。賢者様がマナアクシスにいらっしゃるなら、何故そんなに早く聖域に来られたのでしょう?」

「そういやそうだな」

 ウィテーズが、心当たりを尋ねるように聖女たちを見る。

「まずは、聖域への畏れ多さ故に、スレイマン様に先んじて入らなかった我々聖騎士に落ち度がございます」

 躊躇(ためら)いがちに声を上げたのは、スーテだった。

「まあ、残念ながらその通りですな。苦言を申せば、即座に動けぬは実戦を知らぬ者ですが……いや、聖域に入ったスーテ殿とポーリエ殿はその限りではございませんな、これ以上は申しますまい」

「今から考えますと」

 コルテリアがそっと口を挟んだ。

「あの時、接神者は皆、神の強制接続を受けておりました。兵士を指揮するのは上位の聖騎士、彼らは意識を失ったり苦痛で適切な命令が出来なかったのではないかと。ために部下も混乱していたのでは」

「はい、上官から何の指示も来なかったのは事実です。私は未熟ゆえ、強制接続の苦痛は少ないものでした。それでクロ殿の疑問ですが……ここだけの話にしていただきたいのですが」

アーウィズ(うち)といい、ここだけの話が多いですな」

「非常時です、私もウィテーズ様と同様、機密の維持よりも情報共有の方が重要だと判断しました」

 苦笑ぎみに言ったエルディンに、生真面目な顔で答える。

「スレイマン様は、この聖王国に深い関わりがおありでした。ご自身が加護持ちであること、多くの喜捨をなさっていること、そして仄聞(そくぶん)ではありますが、聖王国の重要な施設の警備系の術式付与を担当しておられたようです」

 エルディンが片眉を上げる。

「警備?」

「魔術の鍵ですとか、侵入者を感知する術式などです」

「なるほど。賢者スレイマンは術式付与の達人と聞いている。あれは魔法威力に左右されないからな。しかも学者で政治的中立の立場、加護持ちだから為人(ひととなり)も信用できる。魔術面での警備を任せるならベストの人選だ」

 ウィテーズが納得したようにうなずく。

「その関係で、非公式ですが定期的に聖王国を訪れていらしたようです。詳しくは存じませんが、メンテナンスと申しますか、新しい術式に書き換えるですとか」

「なるほど、ということは」

「大神殿と学院とを直接繋ぐ転移陣が設置されているのだと思います。もちろんダイレクトに連絡が取れる通信手段もあるでしょう。今回の件ではそれを使って学院から大神殿、大神殿から聖域前まで転移したのではないかと」

「それなら素早く聖域にやって来られた説明はつきます」

 クロがうなずいた。正直なところ、スレイマンが来るまで聖域に入らなかった聖騎士たちに相当問題は感じる。意識を失っていた聖女たちを、同意もなく危険な聖域に放り込む訳にはいかなかったろうが、彼らとて神の力を現世に降ろす接神能力は持っているのだ。まずは自分たちが突入して神の力を聖域に通し、状況を確かめるべきだった。それを思えば、邪神が完全に復活してしまえば確実に死ぬと分かっていながら、この聖域に突入した我々はすごく勇気があったわけだ。自分については記憶がないが。

「この聖域にもスレイマン様は定期的にいらしています。その時に同行する担当警備は、私などよりずっと上位の聖騎士たちになりますから詳細は分かりませんが」

「待たれよ」

「ちょっと待て」

「お待ちください」

 スーテの説明を、エルディンとウィテーズ、クロが一斉に遮った。ウィテーズなどは椅子から立ち上がっている。

「スレイマンが聖域(ここ)に警備系術式を貼っているのか? 全く気づかなかった」

「我々がそれに触れておおごとになる可能性もありますぞ。どこに設置しているのか確認せねば」

「居住エリアに術式を敷設すれば、お籠りの聖人聖女様方が触れる恐れがあります。普段立ち入りを禁じられている玄室なのでは」

「は、はい、玄室です。玄室への扉に合言葉を書き込むと、扉が開きます」

「行くぞ」

 ウィテーズが奥への扉に向かう。エルディンも立ち上がった。

「皆様、申し訳ないが玄室まで同行していただきたい。別行動は避けたいですからな」


 一行は、玄室前の通路にいた。ウィテーズが先頭に立っている。

 クロは目を凝らして玄室の扉を見た。

 流麗な浮き彫りの凹部分に沿うように、術式が描かれていた。

「まず『錠』の術式。今は式が起動していない状態だが、これは賢者が入った際に切ったのだろう。それとは別の式もある。クロ、どう思う」

「ここまではお籠りの方々も来られます。『錠』は彼らを立ち入らせないものでしょう。他の術式は、あくまで本体にアクセスして操作する部分。仕掛けの本体は扉の向こう側、玄室の中かと」

「同感だ。開けるぞ」

 ゆっくりと扉を開けた。

「ーーなんてこった、部屋全体に貼ってやがる」

「これも浮き彫りに紛れて分かりにくいですが、確かに」

「俺たち二人で入る。他の者は廊下で待機してくれ」

 ウィテーズとクロが注意深く足を踏み入れた。

 四方の壁と天井にも術式が描かれていた。魔道具開発の途上で編み出された、魔力を通しやすく視認しづらい線を引く技術である。

「最初にクロが中にいたから、てっきり何もないとーーいや、言い訳だな。気づかなかった俺の油断だ」

 クロは壁に指で触れ、わずかに魔力を流した。頭の中で複雑な図形が再構成されていく。術式は視認以外に、わずかな魔力を流して式から身体に循環させることでも構造を把握できる。

「おいクロ、魔封じの首輪がつけられてるのを忘れてねえよな? うかつに魔力を使うと激痛が走るぞ」

「大丈夫です。首輪の術式を読めば、魔道具発動の閾値は分かります。これくらいなら首輪は反応しません……賢者の術式ですが、『錠』と、それとは別に攻撃型トラップで発動に複数条件、どちらもオンオフが出来る仕様ですね」

 ウィテーズが、まじまじとクロを見た。

 触れただけで術式の構造の細部まで読み取る感覚と知識。魔道具が発動しない程度の、ごく少量の魔力を流し続ける制御力。そして、失敗すれば激痛が走ると分かっていても、ためらいなく実行できる胆力。

「なるほど、スレイマンの従者に選ばれるわけだ」

「恐れ入ります」

 特に恐縮することも誇ることもなく答えた。

「どういう術式なのだ、ウィテーズ。入っていいのか?」

 開けた扉を手で押さえたまま、エルディンが訊く。

「入るな。攻撃型トラップがある。今はオフの状態だが、何かの拍子に発動しないとも限らん。クロと解除するから外にいろ。こいつは役に立つから、解除に付き合ってもらう」

「賢者の術式を解除か。できるか?」

「誰に言ってるんだ、ああ? アーウィズの宮廷魔術師のメンツにかけて、やってみせる。ただ、時間は欲しい」

「はっは、後半が尻すぼみだぞ? 前室で待機しているから、通信具への声出しは絶やすな」

 エルディンが出て行き、扉が閉まった。ダンジョンの扉が全てそうであるように、完全に向こう側の音が遮断され、静寂が訪れた。

 ウィテーズが通信具を取り出す。紐をペンダントのように首にかけると魔力を通した。

「私とウィテーズ様の二人きりというのは、どちらかが邪神であったら危険ではないですか?」

「だからこいつで生存確認を行う。常に喋って、通信具で向こうに声を聞かせろ。向こうの五人も同じことをする。通信が途切れたら、そっちに邪神が現れたってことだ。おい、聞こえるか?」

『聞こえる。あとは任せた。……ウィテーズは不調法者ですが、あれができると言うのなら間違いはございません。しばしお待ちくだされ』

 後半は聖女たちに向けたものらしい。

『仲がよろしくてらっしゃるのですわね?』

『魔物討伐で散々貸し借りがございますからな。お互いの手の内はよく知っております』

『イケオジ二人が背中を預け合えるツーカーの仲……尊い……あっ失礼しました』

 何故急に宗教的陶酔が入ったのですか、ミルファ様。

 気を取り直して、クロは術式解析に取りかかった。



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