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赤瑪瑙の結婚指輪

 一同は再び玄室に足を踏み入れた。

 先ほどと変わらない、台座と、そこから落ちた小瓶とーー物言わぬ骸が彼らを出迎えた。それ以外には何もない部屋。

「全て確認しましたが、誰も隠れていませんでしたね」

 ポーリエが呟く。

 つまり、この七人の中に邪神がいる可能性がほぼ確定したということだ。

「捜索は終わりました。スレイマン様の亡骸(なきがら)を整えて差し上げたいのですが。このままではあまりに忍びなく存じます」

 クロの言葉にスーテもうなずいた。

「確かに。しばらく脱出は叶わないようだから、この玄室から移動させて、簡単に弔って差し上げたい。皆様、いかがでしょうか?」

「異存はございません。ですがその前に、身の回りの物を確認してはいかがか? クロ殿の身元の手がかりがあるやも知れませんぞ」

 

「神よ、あなたの(しもべ)の魂に安息とつつがなき転生をーー」

 コルテリアの鎮魂の祈りを聞きながら、クロは仰向けに寝かせた亡骸を眺めた。

 白髪の痩せた老人だった。横たわっているので分かりにくいが姿勢が良く、矍鑠(かくしゃく)とした雰囲気がある。着ているローブの色や基本的なデザインはクロのそれと同じだが、裾のふちに施された刺繍や金糸銀糸の飾り帯など、より豪奢なものだった。

「死者を清める祈りは終わりました。亡骸を(あらた)めてよろしいですよ」

 手慣れた様子で、エルディンが衣類を探り、ずしりとした巾着袋を取り出した。中身をあける。

「銀貨が多い。学院理事長とは儲かるものなのだな?」

「魔術開発の最先端だからな。大学にしては金があるはずだ。他には何かないのか」

「これといったものは」

「あの、左手に指輪をはめてますよね」

 ミルファが言った。エルディンが、皆に見えやすいように死体の左手首を持ち上げる。

 その薬指と小指に、同じデザインの真鍮の指輪がはまっていた。厚みのある無骨な造りで、赤い半貴石があしらわれている。赤瑪瑙だった。

「それは、いわゆる赤瑪瑙の指輪、スレイマン様の結婚指輪です」

「あら、確かに」

「これが、あの……」

 コルテリアとスーテが声を漏らした。

「有名なものなのか? 結婚指輪とは?」

「異世界転生者たちから伝わった風習です。夫婦でお揃いの指輪を左手薬指につけて、一生の愛の(あかし)にするんですよ」

 ウィテーズの質問にミルファが答える。心持ち声に力がこもっていた。

「スレイマン様は【不老】の加護を賜った時、ご結婚なさっておいででした。もちろん奥様は先にお亡くなりになったんですけど、看取られた後、ご自分と奥様の結婚指輪を二つとも常に身につけておいでだったとか。というか現につけておいでですよね、奥様の指輪は小さいから小指につけておいでですけど。その後も、加護持ちである上に学院理事長というお立場でしたから再婚の話もあったそうですけど、決して首を縦には振らなかったそうです。ただ一人の女性を想う! 素敵です!」

「加護の力で半永久的に生きるジジイと結婚したい女がいるのか? 単に女の側が嫌がっただけじゃないのか?」

「言い方! ロマンがない! とにかく、このエピソードが元で、赤瑪瑙の指輪といえば永遠の愛の象徴なんですよ! 四百年続く奥様への愛! 女子はみんな赤瑪瑙の指輪を贈って愛を誓って欲しいんですよ!」

 鼻息荒く盛り上がるミルファ。

「まさか、本家本元の赤瑪瑙の結婚指輪を見ることになるとは」

「感無量だ……この指輪を見たおかげで良縁が巡ってくるかも」

 コルテリアに続いて、しみじみと言うスーテ。オリジナルとはいえ、赤瑪瑙の結婚指輪に対する期待が大きすぎる。指輪も荷が重かろう。

「でも、もう指輪の役目も終わったんですね。スレイマン様も、長い長い旅を終えられて……いつか輪廻のどこかで、また奥様と出会えますように」

 不意にしんみりとして、ミルファがひとりごちるように言った。最後の言葉に合わせて、コルテリアと聖騎士二人が祈りの印を切った。


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