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再封印のルール

 クロが質問した。

「啓示には、私たちの記憶が読み取られ、さらに私たちのうちの二人が記憶操作されているとあります。邪神にはそのような能力があるのですか? いえ、邪神も神ですから何でもできるのでしょうが」

「それですが」

 クロの問いに、ポーリエが軽く挙手して発言する。

「神と邪神はこの世界においてはほぼ全能ですが、神が出来て邪神が出来ないことがいくつかあります。

 まず一つは、完全にオリジナルの物を創造すること。

 この世界はいわば神の庭、神の領土ですから、邪神は創造の権能を完全に振るうことはできません。この世界に存在している、あるいは存在していた物を模倣して実体化させるだけです。つまりオリジナルの魔術だの魔法の道具だのを生み出すことはできません」

「魔物は? 奴らは邪神の創造したオリジナルの生物ではないか?」

 とエルディン。

「一見そうなんですけど、あれはダンジョンのモンスターの模倣です。ダンジョンの外でも活動できるだけです」

 とミルファ。

「まあ、だけと言うと語弊があるがな……独特の黒い姿をしているが既存の動物の形ではある。そこそこ能力が高いくせに絶対群れで行動しやがるし、高度な連携を使ってきやがるし、普通に前衛を崩して後衛の魔法使いに接近してきやがるし、真剣にうぜえ」

 とウィテーズも説明し始める。

「奴らは食べるためではなく、縄張りを守るためでもなく、ただ人を殺すために人を殺します。人間を殺すためなら自らの命を(かえりみ)みませんが、そのくせ全滅の恐れが出てくると撤退します。撤退先で増殖して再戦するためです。本当に人間を滅ぼすためだけに存在しておるのです。滅びろ魔物ども」

 最初に質問したエルディンまで語り出した。

「要するに、邪神が難易度調整ガン無視して作ったモンスターなんです。最悪です」

 ミルファが締めくくり、他の者は呆気にとられて、長々と熱く語りだしたアーウィズ出身組を見た。

「あの、ミルファ様も魔物と戦った経験が?」

 皆の疑問を代表して、スーテが質問した。

「まさか。わたしみたいな素人が魔物に遭遇したら、まず生き残れません。辺境が襲撃された話や、冒険者の遭遇談を聞いて育ってますから」

「アーウィズは西へ開墾を続けて領土を広げておりますからな。そちらは魔物と遭遇する恐れが多分にございますから、その脅威は周知されております」

「奴らの強さは邪神と繋がっているから、邪神の封印中は厄介程度で済んでいる。もし邪神が復活すれば、厄介どころの騒ぎではなくなる」

 エルディンとウィテーズが補足した。

「な、なるほど……よく分かりました。あの、話を戻しても?」

「あっすいません、お続けになってください」

 ミルファが慌てて、ポーリエに頭を下げた。

「えーと、神々の権能でしたっけ? 神々が決してできない、あるいはやらないことがあります。それは人間の魂そのものを変質させることです。人格を変えて悪人を善人にしてしまう、とかですね」

 聖女二人がうなずいた。

「魂の唯一性こそが、神が最も尊重なさるものですから。邪神ですらそれはできません。わたくしたちを洗脳して、自らの信者に造り変えることはできないのです」

「しかし意識を失った人間に対しての記憶の読み取りと操作は可能です。邪神戦争中の記録によると、人間の行動を理解した邪神が、戦争終盤にこの能力で情報撹乱や同士討ちを狙ったとか」

「意識を失った? 失っていなければ?」

 興味深げに質問したクロに、ポーリエが答える。

「その人間が意識を失って精神の防御が弱まった状態でなければ、記憶の操作も読み取りもできません。人の思考をリアルタイムで読むことは、神には可能ですが邪神はできません。邪神から見て人間は他の神の創造物ですから、精神への介入は難しいらしいですよ」

「ポーリエさん、お詳しいですわね」

 コルテリアが感心する。

「いや、聖騎士たるもの神の御為に戦わなくてはなりません。その最たるものはやはり邪神ですから、たゆまぬ研究が必要なのです」

 口調は謙虚だったが、顔が明らかに自慢げだった。

「ドヤ顔をやめろ、ポーリエ。記憶を読み取ったというのは、人間になりすますためですね。封じられていた邪神に、現在の人間の知識などなかったはずですから。しかし記憶を操作されているというのは?」

 スーテの言葉に、クロが答えた。

「ここにいる皆様は、数組の知り合い同士で構成されています。聖女であるコルテリア様とミルファ様、聖騎士のスーテ様とポーリエ様、アーウィズ国のエルディン様とウィテーズ様、それに賢者スレイマン様と私です。スレイマン様が亡くなっておられますので私にはできませんが、他の方々は相互に身元を保証できます。本来ならば、ですが」

「なるほど。邪神は誰かの記憶を操って、自分を知り合いであると思わせているわけか」

 ウィテーズの呟きに、エルディンが驚いたようにそちらを見た。

「いや待て! 例えばウィテーズの正体が邪神だとすれば、本当はウィテーズなる者は実在せず、こいつに関する記憶は全て捏造ということなのか? そんなことがあり得るのか!?」

「うるせえよエルディン、ここは演習場じゃねえぞ」

「声がでかいのは軍人の職業病だ」

 クロが答える。

「その可能性も否定はできませんが、別にウィテーズという人物が実在していても構わないのです。実際はその方は聖女様を迎えに来なかった、来ても聖域に入らなかった。それを行動を共にしたように記憶を改竄する。その場合、邪神のウィテーズ様としての言動は、エルディン様の記憶を元にして演じているということになります」

「そういうことか……そして、それは誰でもあり得るというわけだな。二人が記憶操作されているとあるが、うち一人はクロ殿、もう一人が邪神を知り合いだと思わされている者、というわけだな」

「おそらく」

「そして、今の邪神の能力は人間と変わらないとある。我々でも倒せるほど弱くなっているから、正体を隠して身を潜めておるのか」

「そういうことだ。むしろ、そうでなければ俺たちは今生きてはいない。本来なら勇者の集団でもなければ到底勝負にならない相手なんだからな。神によって弱体化させられている今が、奴を倒すチャンスなんだ。そうして邪神が完全に解放されるのを防げと、そういうことだな」

 勇者。エルディンとウィテーズの言葉を聞きながら、クロはその知識をひっぱり出す。対邪神戦に特化した特殊な加護持ち。身体能力の強化、破壊不能属性付き武具(いわゆる聖剣、聖鎧)の創造、高度な戦闘技能の付与などの複数の加護を受けた者たち。多くの人間が勇者に選ばれ、そして散っていったという。邪神封印後には勇者は生まれていない。その必要がなくなったから。しかし、今からはどうだろう?

「我々をどうにかして、外の世界へ出ようと(はか)っているともありますな。これは当然、我々を鏖殺(おうさつ)して、と見るべきでしょうな?」

 エルディンが片眉を器用に上げながら尋ねた。重い話をおどけた仕草で和らげている。

「まず前提ですが、邪神は受肉して、人間界に直接顕現して神の力を使います。対して神は人間界に降りられることなく、わたくしたち接神者を通してのみお力を振るわれるのです。つまり邪神からすると、この場の接神者が皆亡くなれば神のお力が及ばなくなり、邪神が聖域より脱出を果たせるということになるかと」

「なるほど。つまりだ。邪神が封印の小瓶から抜け出した。それが外の世界に出ないよう、この聖域は神によって封鎖された。

 閉じ込められた我々の中に、人間に化けた邪神が紛れている。それを見つけ出し、倒して再封印しなければならない。さもないと、邪神は我々人間を皆殺しにして神の(くびき)から逃れ、外の世界へ解き放たれてしまうーーそういうことだ」



この話から第一話の『プロローグ・閉鎖後』に続きます

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