閉鎖空間のルール
「さて、やっと本題に入ることができます」
コルテリアは一同を見回した。
「皆様、啓示はお聞きになりましたね?」
「はい。神の啓示というものは、我々のような接神能力を持たぬ者にも聞こえるものなのですか」
「加護を賜わる時の啓示は他の人には聞こえませんが、神託の儀式への返答としての啓示や、邪神に関する非常時の啓示は周囲の人たちにも聞こえる、というか精神に伝わります」
エルディンの質問に、ミルファが答えた。
「今回賜った啓示の内容の確認をしたく思います。よろしいですね?」
「はい、異論はございません。現状の把握と打破のためには、何を置いても啓示の確認が肝要かと」
スーテが代表して述べ、全員がうなずいた。
「あ、ちょっと待ってください。忘れないように、啓示の内容を紙に書いておきましょう」
ミルファが席を立ち、部屋の棚から紙と筆記具を持って戻ってくる。ペンにインクを浸しながら、
「えっと、まず何とおっしゃってましたっけ?」
「『お聞きなさい。邪神再封印のために聖域に入った勇敢な皆様』」
すらすらとクロが暗唱を始めた。
「……暗記力があるんですね」
驚いた様子で聞いたポーリエに、クロは首をかしげた。
「そうですか?」
「ああ。しかし、それがしの記憶によると『しかと聞け、エルディンよ! 邪神再封印のために聖域に入った者たちは讃えられよ』といった口調でしたな」
エルディンが口を挟む。
「神のお言葉は、人間のものとは違います。イメージとして送られた情報を、受け取った人間がそれぞれ無意識に人の言葉に翻訳するのです。内容は同じであっても、どのような声で、どのような言い回しになるかはその人によって変わります」
「なるほど。そう言えば、あの声は先代の騎士団長でしたな。口調もあの方のものです」
「啓示の声は、その人にとって大事な、指導的な立場の人物のものになる傾向があります。例えば親御さんや恩師などですね」
「確かに、先代には世話になりましたからなぁ」
「それは分かったから、とっとと啓示の内容を書き出してもらうぞ、エルディン」
「おう、そうだな」
もっとも細かく覚えていたクロの言葉を元に、ミルファが啓示を紙に書き出した。
【お聞きなさい。邪神再封印のために聖域に入った勇敢な皆様。あなたたちは……閉じ込められています。その場所は…………。そして…………】
【邪神…………は人間に変化し、あなたたちの中に紛れています。邪神は意識を失ったあなたたちの記憶を読み取っており、また、あなたたちの中に紛れるために……二人の記憶を操作しています】
【邪神は…………。だからあなたたちを……して、外の世界へ出ようと謀っているのです】
【瓶の封印を解き……が、邪神は未だ…………【わたし】の強い影響下にあります】
【これより…………邪神は神としての能力は使……せん。その身体的魔法的能力は…………人間の限界を超えることはありません。どうか……邪神の…………見破って…………世界への解放を防いで…………】
「全体的に途切れ途切れに聞こえましたね。啓示とは、聞こえにくいものなのでしょうか?」
スーテの問いに、コルテリアがかぶりを振った。
「いいえ。啓示は下されたならば完全に聞こえます。記録によると、邪神戦争中に同様のことが起こったことがありますが、それは邪神の妨害だったそうです」
「神に介入するなど……やはり恐るべき存在ですね」
「逆に言えば、これは邪神にとって都合の悪い情報ということです。正しく解釈すれば、この状況を打破できるに違いありません」
皆で机の上に置かれた紙を覗き込む。
「まず、俺たちが閉じ込められているという内容だな」
「それについては先ほど、唯一の出入り口である扉を確認しております。邪神を外に出すわけにはいきませんから、神が封鎖なされたに違いありません。問題は次です。邪神が人間に化けてわたくしたちの中にいる」
「ぞっとしねえ話だ。俺たちは何としてもそいつを炙りだして、倒さねばならん。さもないと、邪神もろともいつまでもここに閉じ込められることになる。まあその前に邪神に殺されるか餓死するか、だが」
コルテリアとウィテーズのやり取りに、エルディンが問いかける。
「そやつを見破って、世界への解放を防げとありますな。人間に化けた邪神を倒せばよろしいのですかな? そうすればあの瓶に封印できると?」
「おそらく。顕現した邪神の肉体を破壊すれば、神が封印なさると思います。というより、封印そのものは神にお任せするより他にありません」
「あの、八百年前がそうだったので、それで大丈夫だと思います」